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「それで…この子は?」
「ワタシと同じクラスの松井風花ちゃん!今日、トイレで出会った新しい友達なの!」
「初めまして!うわぁ、本物の百合ちゃんやぁ!ウチ、雑誌も毎月買って見てるんよ!」
保健室を一旦出て三人は漸く顔を見合わせた。
風花に至っては百合を見ては嬉しそうに頬を赤らめている。
「百合のファンなんだって。いやぁ、今日はアンタのファンばっかだよ」
「よろしくね」
「睫毛長いし顔小っちゃいし、脚長いし、生で見るともっとかわええなぁ!」
「………松井さんって…」
「風花でええよ!」
「アタシらなんだか波長が合っちゃってー!顔もなんだか似てるでしょ!」
「……そうね」
楽しそうに肩を組み合う二人に百合は僅かに口角を上げた。
風花の笑顔を見ていた百合は、一瞬彼女の顔に自身の姉が映っているように感じたのだ。
それがまるで、双子の姉妹のようだと思ってしまったことは自分の気のせいだと思いながら。
「そーいや百合ちゃんと一緒にいた男子、誰なん?まさか彼氏なん!?」
「ノンノンノン!違うよ風花!さっき話してたアタシらの天敵兼マブダチの…」
三人が話していると保健室の扉がガラリと開き、眠たそうに目を擦る羽山が立っていた。
「あ、羽山くん」
「おう起きたか!そーだ羽山、紹介するよ!この子は松井風花ちゃん!」
お互いを紹介させるが、何故か風花の方は羽山の顔を凝視しながら見ていたのだ。
羽山の方は何だこの女というかのような感じだが。
そしてようやく風花が言葉を発した。
「アンタ……ひょっとして、アッキーとか呼ばれてへん…?」
「あ?」
「いやいや、ペギーとかは呼ばれてるけど?」
「そんな風に呼んでいるのは紗南だけよ。まぁ、でも下の名前が秋人だから呼べないこともなさそうね」
「アキト!?あんた、羽山秋人っていうんか!?」
「あぁ、そうだけ―――「てぇいぃい!!」
途端に響いた、頬を思いきり叩く音。
風花が突然羽山に手をあげたのだ。彼女の驚きの行動に倉田姉妹は揃って言葉も出なかった。
「あんたの……あんたの所為でウチの人生はメチャクチャになったんや!!!」
▽▲▽
今会ったばかりの筈の風花と羽山に思えたが、どうやらそうでもないらしい。
「コイツ昔アタシのファーストキス奪いおったんやで!!とんでもないやつや!そうや、この顔やったわ!」
「な、なに一体!?」
「………キス?」
風花の発言に驚きを隠せない倉田姉妹。
叩かれた羽山の方は何故か冷静に答える。
「お前…」
「どや!思い出したか!」
「……誰だ?」
「誰がカッコつけてボケかましてんねん!」
そこへ今度はタイミング悪く剛がやってきた。
「あ、秋人くーん!そろそろ帰ろー!」
「…っ!思い出した!!その眼鏡!」
「ん?……あ!風花ちゃん?大阪行っちゃった風花ちゃん?」
「そや!」
「あ、思い出した。ブーカか」
「誰がブーカやねん!!ウチ、アンタには死ぬほど恨みあんねんぞ!」
「幼稚園の頃の話なんて時効だろ。何が人生狂っただ。大袈裟な」
「それが大袈裟やないから怒っとるんや!アホ―!」
三人の話の流れについていけていない倉田姉妹は完全に蚊帳の外状態。
「幼稚園って?え、一体なんなの!?」
「……」
風花の横にいた紗南がとりあえず怒れる彼女を抑えようと止めに入る。
「ええか!アンタのせいでウチは…!」
「うるせぇな、アホらしいことで騒ぐんじゃねぇ」
「何がアホらしいちゅうねん!ウチにとっては大事件なんやで!」
「そうよアッキー、事情は知らないけど今のは酷いぞー!」
「うるさい女が二人に増えた」
「「聞いとるんかアッキー!!何とか言えー!」」
紗南たちの息の合った声と同時に、羽山は逃げ足早くその場を去っていく。
風花は逃がすかと追いかけようとしたが、紗南が前にいたせいでスグには追いかけられなかった。
結局、校門のところまで走ったが既に羽山の姿は見えない。
「くぅ…!!逃げ足の速いやっちゃ!益々怒りが収まらん!」
「まぁまぁ風花。ここは一つ落ち着いて」
それから風花が何故あんなにも羽山を恨んでいるか事情を聞いてみることに。
剛・秋人とは幼稚園が一緒で、当時何故か突然羽山からファーストキスを奪われたがそのときは特に気にしていなかった。しかし、小学校六年になったとき友達とファーストキスの話題が出た際、自身が既にファーストキスを済ませていたことを思い出し、その噂が好きな男の子にまで知れ渡り誤解が生まれ、今まで仲が良かったのに突然余所余所しくなったという。
風花の中ではその好きな彼との今後の人生計画まで考えていたのだが、秋人とのキスのせいで全てが台無しになって
しまったということだった。
「風花が可哀想だよぉー!!おーし今から羽山んちに殴り込みでぇえ!!」
「紗南ありがとうな。でもええよ」
「へ?」
「どーせこれから毎日学校でも会えるんやから慌ててもしゃーないわ。これから三年間かけて復讐したる…へっへっへ」
二人の恐ろしい会話を聞いていた百合は一人、
「(……これは間違っても、私も“された”とは言わない方がいいわね)」と思ったのであった。