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日向が機能し始めたおかげで、ブロックが分散し烏野のスパイクが決まる。
ミスもまあまあ目立つが、県ベスト4に互角以上に渡り合っている。
烏野の点が伸びてきたところで、青城はタイムアウトをとった。
コートの選手が戻ってくるので、清水と高嶺はドリンクとタオルを用意する。
清水は2、3年生に、巴は1年生に。それぞれタオルとドリンクを渡していく。
「高嶺さん、タオルもう1枚ください」
「あ、僕はドリンクもう一個」
「…はい?」
高身長二人に要求されたものを奪われ、困惑していると、影山はタオルを日向の顔面に投げつけた。
月島はドリンクを日向に渡そうとし、彼の顔面に押し付けていた。
「……子供」
高嶺に言われると、影山はばつが悪そうな様子を見せ、月島もドリンクを日向の手に渡した。
日向もきちんと水分補給ができ、タイムアウトは終了。試合再開だ。
コートの中では影山と月島が二回程ケンカというか、言い争いをしていたが、それぞれやるべきことはこなしていた。
第2セットは、烏野が取り返すことができた。ふと、菅原が澤村に声をかける。
「…むこうに…影山みたいなサーブ打つ奴居なくて助かったな…」
「…ああ…ウチはお世辞にもレシーブ良いとは言えないからな…」
澤村も苦笑気味で答える。そんな二人の側では、日向と田中が逆転勝利に燃えていた。
そこに、影山が口を挟む。
「油断だめです」
いつもの強気な影山らしくない発言だった。
「多分ですけど…向こうのセッター、正セッターじゃないです」
影山の意味深な言葉と共に第3セット開始の合図が響いた。
選手がコートに入ったところで、体育館に黄色い声が響く。
不思議に思った皆が相手のベンチに視線をやると、男子生徒が一人増えていた。
整った顔立ちに、高い身長。
女子が騒いだ原因はこれか、とみんな納得する。
「影山くんあの優男誰ですかボクとても不愉快です」
「…"及川さん"…超攻撃的セッターで攻撃もチームでトップクラスだと思います。あと凄く性格が…悪い」
「そんなに!?」
「お前が言う程に!?」
「月島以上かも」
「それはひどいな!」
及川を見ると、笑顔で影山に手を振っていた。
「お前の知り合いてことは北川第一の奴かよ?」
「…ハイ中学の先輩です。
…俺…サーブとブロックはあの人見て覚えました、実力は相当です。」
「やっほートビオちゃん久しぶりー育ったね〜。元気に"王様"やってる〜?」
笑顔を張り付けてはいるが、影山の言う通り確かに内面は一癖も二癖もありそうな雰囲気だった。
そして青城の“大王様”こと及川がウォーミングアップをしている間に、烏野がマッチポイントを迎える。
そこへ、アップを終えた及川が戻ってきた。
ピンチサーバーとして試合に出ると、影山がかつてお手本とした強烈なサーブを、わざと月島に二回当て、ポイントを稼いだ。
烏野側もレシーブが得意な澤村の守備範囲を広げて対応するが、及川のコントロールは抜群で、また端に寄った月島目がけてサーブを打ち込む。
何とか月島が返したボールは、そのまま青城側のコートへと戻っていった。
青城のチャンスボール。だが、金田一のスパイクを日向が止め、その後は影山と二人の『変人速攻』で三セット目を奪い取った。
そして最後を決めたのも言わずもがな、烏野誇る変人コンビの変人速攻で、青葉城西のコートはもはや棒立ちになるしかないようだった。
及川のサーブで3点をもぎ取られたものの、さすがにマッチポイント。
追いつくことを許さないとばかりに加速したボールは見事にライン際に振り下ろされて、ほんの数秒前に25点を刻んだところである。
「整列―!」
ざわざわと騒がしいコートはさっきまでとは別の音で、各々が講評を受けていた。
武田の前に並ぶ烏野の面々は活き活きとしていて、皆が皆やりきった表情をしている。
たとえ向こうが万全でなかったとしても、勝ちは勝ち。
キラキラとする彼らは、実に眩しい。
***
たとえばの話だ。もし烏野に田中並みのパワースパイカーがもう一人いたら、もし烏野にレシーブ職人のリベロがいたら、もっと上まで行ける力があると今日の試合を見て思った。
まあ、そんなのは理想。今ある力をどこまで伸ばして行けるかがきっと烏野の課題なのだ。
と、考えながら高嶺は校門までの道のりを歩いていた。
青城に挨拶をし、バスへ向かった筈の烏野高校排球部は、校門前で立ち止まる。
及川が待ち構えていたからだ。彼は烏野のレシーブへの指摘をし、
「インハイまでもうすぐだ。ちゃんと生き残ってよ?俺はこのクソ可愛い後輩を公式戦で同じセッターとして」
正々堂々叩き潰したいんだから。長い指が影山の顔目掛けて伸ばされた。鋭い眼光に、射抜かれる。
「あ!そうそう」
「…なんですか」
「ん〜、違う違う。トビオちゃんちょっとゴメンね」
薄く笑みを浮かべながら及川は影山の横を通っていった。
そして影山の後ろにいた彼女に声をかける。
「さっきぶりだね?」
それで連想するのは一つしかなくて、高嶺はかあっと顔に熱が一瞬で集まるのが分かった。
どうしていいか分からず、ぎゅうっとボトルが入っているカゴを握り締る。
ゆっくりと瞳だけで及川を見ようとしたら、風が吹き、急に影が。高嶺が驚いて顔を上げると青葉城西の白色のジャージではなく、真っ黒の、烏野高校排球部と書かれてあるジャージ。それが、すぐ目の前にあった。
「巴さんに、なんの用ですか」
一瞬、何が起こったか分からなくて。でもすぐに理解した。
「……へえ」
「っ、なにが可笑しいんですか」
「高嶺ちゃんに近づくんじゃねえ優男!!影山よくやった!!」
「巴、ちゃんって言うんだ。可愛い名前だね」
「……うちのマネージャーに何したんですか」
「なんでそうやって決めつけるかなあ。まあでも…巴ちゃんのハジメテは貰っちゃったかな?」
「はあ!?」
瞬間、皆の視線が高嶺に集まる。
「あれ、あの反応だとハジメ――…ちょっとトビオちゃん邪魔なんだけど。巴ちゃん見えないでしょ」
「帰って下さい!!」
「……ふうん、変わったのはトスだけじゃないんだ。ただの“マネージャー”を庇うなんてね」
「は、なにを―――」
「大会までもう時間がない。どうなるか楽しみにしてるよ。……またね〜、巴ちゃん」
帰り際に及川は自分の手の甲を唇に寄せて、指先に落としてから立ち去っていった。
「高嶺ちゃん高嶺ちゃん」
「な、なんでしょうか田中さん」
「高嶺ちゃんは何のハジメテを奪われたのかなあ?」
「………………」
「言わないならオレの中でいけすかないランキングただいまぶっちぎりの一位を獲得した優男を追いかけてひん剥いちゃいますよ」
ノンブレスに本気度が伺える。
「…………ス」
「ん?」
「……き…キ、スを…その……」
「…………………」
「でも指先…」
「あのやろおぉおおお」
「そんなに擦らなくても、」
「優男菌コロス!!」
「おい田中。やめとけ」
「澤村先輩…!」
「それにそんなんじゃ殺…除菌できないだろ。清水、消毒液あるよな」
「…あのみなさん?」
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