体育館に向かう途中、青城との練習試合のことを振り返っていた。
烏野が全国を目指していく上で戦わなければいけないチームには、彼のようなサーブを打つ選手がたくさんいるだろう。そんなとき、烏野のレシーブ力で対抗できるのだろうか。いくら日向や月島にやる気があっても、レシーブをすぐに上達させるのは難しい。課題は山積みだ。

「高嶺ちゃん!」
「田中さん、こんにちは」
「何考えてたんだ?」
「あ、…烏野にリベロがいたら守備ももう少し安心できるのでは、と」
「お?いるぞ?リベロ!」

田中によると、烏野のリベロは西谷夕というらしい。烏野の守護神で、影山と同じく天才なんだとか。今はいろいろあって部活禁止だったが、もう戻って来られるという。

「ノヤっさんはめちゃくちゃいいやつなんだよ!まじで!」

ちょうど体育館に着いた。中には日向と影山の他に、一人見慣れない人がいた。
今、少ししか見られなかったけど、とても綺麗なレシーブをしていたような。

「おおーっ!ノヤっさーん!ちょうどいいところに!」
「おーっ!龍ー!ちょうどいいところって何だ?」
「この美少女と、ノヤっさんの話してたんだぜ!」
「おおーっ!もしかして、新しいマネージャー?」
「高嶺巴です、よろしくお願いします」

高嶺が自己紹介をすると、にかっと笑ってくれた。田中と二人で何やらわちゃわちゃと話をしているのを見ると、二人はとっても仲がいいようすだ。

「で、旭さんは?戻ってますか?」
「…………いや」
「………あの根性なし!!」

いきなり飛び出した旭という名前。田中は旭という人のことをエースと言っている。そして、旭さんがいないなら自分も戻らないと言って、西谷は体育館から出ていってしまった。

その西谷を追いかけて声を掛けた日向が西谷に、レシーブを教えてくださいと頼んでいた。先輩、と頼られて嬉しそうな西谷は日向に教えるために、部活にもとりあえず出るようだ。

「おっ、高嶺ちゃん!」
「西谷さん、私、西谷さんは、今の烏野にとってすごく大切な存在だと思うんです。守備の要のリベロがいてくれることで、チーム全体が安定するし…だから、戻って来てくれて嬉しいです。改めてこれから、よろしくお願いします」
「…お、おう!」

高嶺がそう言うと、今はまだコイツに教えてやるだけだけどなー、と言って日向の頭をがしがしと撫でる西谷。
しかし彼の態度から、リベロというポジションに強いこだわりを持っていることが伝わってきた。守備の要が加わって、これからの烏野はぐっと進化するんだろうな、と思った。


(おい!龍!高嶺ちゃん、ちょー可愛いじゃん!)
(だろ!あの可愛さと美しさを兼ね備えた天使!たまんねえ!)
(潔子さんと高嶺ちゃんのツートップ…幸せすぎる!)
(くぅー、さすがノヤっさん!わかってるぅ!)

***

武田がコーチにと連れてきた坂ノ下商店の店員。
その人物こそ、烏野を全国大会まで導いた名監督烏養の孫、烏養繋心だった。
皆驚きを隠せず、口が開いたままだった。
音駒との練習試合までという期限付きではあった。
来て早々、18時からの烏野町内会チームとの試合を言い渡され、あっという間にその時間が来た。
ゾロゾロと入ってきたのは、思いのほか若い人たちだった。

「よーし!そろそろ始めるぞー!!」
「「「オース!!」」」

烏養の声を合図に皆試合に気合を入れる。
だが、西谷1人だけ黙ってその場に佇んでいる。
それに気づき、烏養は西谷に近づく。

「なんだお前。どうした」
「あっ、すみません。そいつはちょっと・・・」

西谷の事情を知らない烏養を澤村が止めようとする。
当の西谷もどう説明すれば良いか悩んでしまっている。

「なんだ?ワケありか?怪我か?」
「いや、そうじゃないんですが・・・」
「なんだよ?怪我じゃねえの?」

結局西谷は町内会チームのリベロをするということで落ち着いた。
だが、あと町内会チームは二人メンバーが足りなかった。そうして西谷がコートに入ろうとした瞬間。

「あっ、アサヒさんだ!!」

日向の嬉しそうな声と言葉に、皆視線を日向に向けた。
田中も嬉しそうに笑みを浮かべる。
烏養は体育館の扉から顔をクワッと出し、大声で叫ぶ。

「なんだ遅刻かナメテんのかポジションどこだ!」
「あっえっ、WS・・・」
「人足んねえんだ。さっさとアップとってこっち入れすぐ!すぐ!」

すごい形相で捲くし立てられ、東峰はギュッと唇を噛み締めて体育館へと入ってきた。
その姿を見て、西谷はただ黙っているだけだった。

「お前らの方から一人セッター貸してくれ」

烏養から出た言葉に菅原が動く。

「…俺に譲るとかじゃないですよね」

菅原の行動に影山が納得いかないと告げる。それに対して、自分の思いを告げた菅原。

「もう一回俺にトス上げさせてくれ旭」

優しさと強さを兼ね備えているその先輩は、西谷と東峰の対立と部活へと顔を出さなくなった事に一番心を痛めた人間である。副主将という肩書と澤村という主将がいなかったら、もしかしたら菅原も逃げ出してしまっていた可能性だってある。そんな彼は今、真っ直ぐと自分の恐怖と立ち向かう決意をした。たった一言かもしれない。けれど、逃げている人間からすれば、その姿はとても眩しいものに見えた。

「西谷ナイスレシーブ頼むよ!」
「当然っス」

体育館から聞こえる笛の音、シューズが床に擦れる音、ボールが弾む音。滴る汗、篭もる熱気、点をとる毎に聞こえる喜びの声。全部全部知っている。

「もう一回 打ちたいと思うよ」

もうそこに弱気だった姿はなく"エースの東峰旭"が立っていた。

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