烏野町内会チームが勝利を収めて練習試合が終了した。
そして今、烏野高校男子バレー部はできあがった。決定力のあるエース、守備の要リベロ、実力のある指導者。足りなかった部分が付け足され、新生烏野高校男子バレー部が完成した。
今回の練習試合で得られたものは多かった。仲間への信頼、ポジションへの誇り。
自分の役割や今後の課題。そして、帰ってきた仲間。これから烏野は強くなる。

5月2日のGW前日。授業の終わりを告げるチャイムが学校中に鳴り響く。
今この瞬間から、烏野高校男子バレーボール部の合宿が始まった。

「エプロン、かわいい」
「これは中学のとき家庭科で作ったもので」
「! 上手、私は得意じゃないから羨ましいな」
「…ありがとうございます」
「料理でも頼りにしてる」

ニッと清水が笑い、高く結われたポニーテールがゆらりと揺れる。
それに習うようにして高嶺も髪を縛った。
まだまだマネージャー面での技術は拙いけれど、料理なら少しくらいは心得がある。
因みに今日のメニューは夏野菜たっぷりカレーとサラダにデザートらしい。
野菜は烏養家のものだとか。
大方作り終わり、テーブルにセッティングをしていたら玄関からいくつかの声が聞こえてきた。

「なんだか急に騒がしくなりましたね」
「ちょうど来たみたいね。巴ちゃん、皆を案内してくれる?」
「はい」

パタパタとスリッパを鳴らし食堂から出る。意外とすぐ近くに黒いジャージの集団を見つけられた。
田中と西谷が床に突っ伏しているのはとりあえずスルーだ。

「皆さん、お疲れ様です、もうご飯の支度はできてますので荷物を―――」
「はっ!龍、高嶺ちゃんがいるじゃねえか!!烏野のエンジェルが!!」
「おおお!その可憐さはまさに舞い降りた天使の如く!!」

意味の分からない単語に呆然としていると、ポンと大きな掌が高嶺の頭に降りてきた。

「ありがとうな、荷物置いたら向かうよ」

あいつらはほっといていいからな、にこやかに澤村はそう言い放っていた。

***

5月6日 AM8:50 烏野総合運動公園 球技場
烏野高校の因縁のライバルと言われている音駒高校との練習試合当日。武田、烏養含め全員が緊張の面持ちを浮かべていた。整列している赤いジャージの集団に気付き、澤村の集合という号令がかかった。

「お願いしアス!!」
「しアース!!」

その挨拶と共に流れるピリピリとした空間。
ぱっと見た感じ、音駒にマネージャの姿は見受けられない。
高嶺は念のため確認しようと、話しかけやすそうな音駒の部員はいないかとぐるりと周囲を見渡していると、蝶を目で追う一人の部員を見つけた。

「あの、すみません」

そう声をかければ、ゆるりとこちらに視線を向ける部員。不思議なイメージを持たせる丸い目と少し短めの眉。
何か言葉を発する事はなく、コトリと首を傾げた。

「音駒の方、ですよね。すこしお尋ねしたいんですけども、マネージャーの方はいらっしゃいますか?」

そう尋ねればすぐに首を振った彼。やはり音駒にマネージャーはいないようだ。

「私、烏野でマネージャーをしている高嶺巴といいます」
「福永招平」

突然口を開いた事に驚き、最初、何を言っているのか理解できなかったが、すぐにそれが名前だと気付く。
コミュニケーションがとれた事が嬉しくて、巴は小さく笑みを浮かべた。

「福永さん、でいいですか?二年生の方でしょうか?」

巴がそう問えばコクリと頷きが返される。

「私は一年なので、好きなように呼んでください」
「巴?」

まさかの名前で呼び捨てに若干驚く。

「あ、はい、大丈夫です」
「招平」
「?」
「俺も招平でいい」

福永の言葉が理解できずに聞き返せば、名前の話をしていたようだった。どうやら名前で呼べという事のようだ。少し考えた後、まあ、特に変な事でもないかという結論に至り、それを承諾した。

「マネージャーいないけど、それが?」

あまり喋らない福永相手にどうやってコミュニケーションをとろうということばかりに気がいってしまい、本題を忘れていた巴。

「それで、もしよければこちらでドリンクなども一緒に作ろうかと…」

その申し出に何かを閃いた表情をした福永。突然、高嶺の腕を引き、足早に体育館へと引っ張っていく。


「今日は宜しくお願いします」
「こちらこそ宜しくお願いします」

傍目から見れば、主将同士のただの挨拶のように見えるがその中に何か黒いものが蠢いて見えるのは恐らく部員だけではないはずだ。そんなうすら寒さを感じる二人の元へ、福永はぐいぐいと高嶺を引っ張っていく。

「キャプテン」
「どうした福永。早速女の子捕まえてくるとか、意外にやり手だな、お前」
「高嶺?!」

福永と呼ばれた部員の掴む腕の持ち主が高嶺だとわかり、驚きの声をあげる澤村。

「音駒のマネージャーです」
「ん?」
「え、」
「はあっ!?」

サラリと告げた福永、その言葉に違和感を感じる高嶺、意味が理解できない音駒高校主将の黒尾、まさかの自チームのマネージャーが相手チームのマネージャーへとなっている事に驚きの声をあげる澤村。慌てて、高嶺を自分の背へと追いやる。

「高嶺は渡さん!」
「高嶺ちゃんね。こっちのマネージャーやってくれるの?」

澤村の背後にいる高嶺と視線を送る黒尾。その隣ではじっと福永が視線を送っていた。

「あの、マネージャーというわけでは…」

福永の言葉を否定しようとした瞬間、何やら視線を感じた。そちらへと目を向ければ捨てられた子猫のような表情を浮かべる福永と目が合う。

「…マネージャーというか…その」
「早く否定しなさい、高嶺」

なんとなく、高嶺が言い澱んでいる理由を察した澤村。なるべく福永という部員が視界に入らないように彼女を誘導した。

「今回こちらがお願いして練習試合してもらうので、もしよければドリンクとか手伝える事があれば手伝おうかと」
「なるほど、そっちには二人いるから、高嶺ちゃんはこっちのマネージャーしてくれるって事か」

黒尾のセリフに再度違和感を覚えながら、今度は福永に腕を引かれる高嶺。後ろからガッチリホールドされてしまった。

「福永、離すんじゃねーぞ」
「高嶺は絶対渡さん」

その騒ぎを聞きつけて集まり始めた他の部員たち。

「お、おい、福永。お前、誰だよその女の子!!」
「うちのマネージャー」
「でかした福永ァァァ!喋らねーお前がどうやって連れてきたのかは不問にしてやる!!」
「ふざけんな、コラァァ!高嶺はうちのマネージャーだ!」
「おい、黒尾。どうなってんだこれ」
「大地、どういうこと?」

うるさい、田中と山本を黙らせ、チームの母親的存在となっている夜久と菅原が互いの主将へと説明を求める。
が、二人ともそれぞれの主張をする為、結局事態解明の糸口は見つからない。

「音駒さんはそんなにマネージャーいなくて困っているんですか?」
「うん。だから、巴に来てほしい」
「…澤村さん。私、今日はこっちで仕事やります」

事態を収束するつもりで高嶺はそう告げたのだが、収束するどころかチーム戦争へと勃発したのは言うまでもない。


(高嶺さんをうちにください)
(高嶺は絶対に渡さん!)
(結婚前の挨拶にくる彼氏と、反対する父親の図ができてる!?)

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