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ゴールデンウィーク合宿も終え、着実に近づいてきているインターハイ予選を前に烏野高校の練習も更に激しさを増していた。

「足動かせ!前だ前!」
「日向!もっと腰落とせ!!」
「月島、腕ふるんじゃねぇ!」

怒号飛び交うこの空間に巴だけは複雑な表情を浮かべていた。音駒との対戦で確実にレベルをあげた部員たち。彼等との再戦が糧となっている事は間違いない。
熱く燃える部員たちを余所に巴だけは一人、不安を抱えていた。

インターハイ予選を終えれば、大抵の3年生は引退してしまう。春高を目指すと言っている澤村たちだって、実際はどうなるかはわからない。だから、インターハイ予選は今のメンバーで迎えられる最後の大会と言っても過言ではない。
まだまだ穴だらけで、どうしても埋められない差はできてしまう。それでも彼等は抗う為に今、一生懸命練習をしている。

そんな彼等に自分は何ができるのだろうか。
巴はここ最近、ずっとそんな葛藤をしている。

同じマネージャーである清水は部員たちを全力でフォローし先日、用具室を整理した時に見つけた例のものを一生懸命補修していた。彼女は彼女なりに今必死に動いているのだ。

全員が一つの目標に向かっているのに、自分は何をしているのだろう。

強豪校には優れた指導者はもちろん、練習を補佐するコーチ、敵チームを徹底分析する人材も揃っているだろう。けれど烏野にはそれが足りない。技術的な指導ができるのは烏養一人しかおらず、敵チームの分析に割ける程、部員数は多くない。

その差を埋めるにはどうしたらいいのか。

本当はずっとずっと、入部した当時から出ていたその思い。

それでも後一歩を踏み出せず、巴は前に進めないでいる。

「優勝目指していくんだから、もっと気合い入れろよお前ら!!」
「「「オウ!」」」

その掛け声を背に巴は体育館をそっと後にした。

***

「巴ちゃん、ちょっといい?」

部活が終わり居残り練が始まった時間、清水に手招きをされた。
外に出ると生暖かい風が肌を撫でて、汗ばんだ体を少しだけ涼しくしてくれる。清水に連れられ倉庫のドアを開けると、清水が何かを取り出した。バサッと広げられたそれは、

「…横断幕、烏野にもあったんですね」
「合宿中に見つけて、使えたらって思って」
「きっと皆さんも喜びますね」

しかしよく見ると所々ほつれていたり、汚れがひどいところがあるのできっとこのままでは使えない。
清水も同じことを思っていたようで、汚れている部分に手を当てた。でも、これくらいだったらなんとかなりそうだ。

「今まで、ただ見てただけなんだ」

薄暗い倉庫の中で、清水の静かな声が溶け込む。

「激励とか…何言えばいいのか分からなくて。そのままずっと、ここまで来ちゃった」

ここまで、その言葉が巴の胸に酷く響いた。

「だから、コレで伝わればいいなって」

そう言った清水の横顔がいつもより穏やかで、凛としていた。

「伝わってると思います。たとえ言葉にしてなくても。…だって、私にだってわかったんですから」

清水が見守るようにコートを見ていることを。いつも丁寧に仕事をしていて、何があっても皆さんのしていることに否定せずに、支えるために頑張っていることを。言葉にしなくても、言葉にしていないからこそ、きっと。

「言葉にするのって、大事だね」
「え?」
「だって私、今すごく嬉しい」

頑張って伝えてみようかな。

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