19
「潔子先輩」
三年生が春高まで残ると決意を現したあと、巴はマネージャーとして先輩の清水の元を訪れていた。
清水の方も、後輩の今までにない雰囲気を感じとり、向き直って正面から話を聞く姿勢をみせた。
「どうしたら、もっと、役に立たてるように、なりますか」
途切れ途切れの言葉は聞き取り辛かっただろう。現に、清水が愕然とした表情でいる。
「潔子先輩のように、なんて烏滸がましいことは言いません。けど、私」
「……巴ちゃん」
「私、もっと、もっと何かできないかな…って…」
「巴ちゃん」
温もりが急に頬へ触れて、ハッとした。
「大丈夫」
じんわりと、清水の手の温かさが身体に回っていくようだ。
「おいで」
ゆるりと手を引かれ、案内された先はバレー部の部室で、その扉はゆっくりと開けられた。
「巴ちゃんは、もうとっくに最前線にいるんだもんね」
「最前線…?」
「ふふ、私の話。気にしないで」
あのね、
「私はね、巴に沢山助けてもらってる」
「私の背中を押してくれたのは巴だったよ」
私はあの4人の橋渡しと制御役なんて同年代だとしてもできるか微妙、と付け加えるように言う。
「私、そんなことしていないですけど…」
「そう思っちゃうかもね。でも、それでいいよ。それが出来るなら、この先も大丈夫だから」
潔子先輩が指す"先"には、何があるのだろうか。多分、きっと、3年生が卒業してしまった後のことなんだろうと。
「もう一人、マネージャー探そうか」
ハッキリとした口調と、真っ直ぐな瞳は、巴が予想もしていなかった言葉を伝える。
***
「まずは再来週末、県内の日山高校と練習試合が決まっています」
「おおーっ」
「…で、例の東京遠征ですが、向こうのIH予選は今週末からです。宮城は3日連続で行われましたが、向こうは3週にわたって日曜に試合が行われます…ですので、合同練習は予選の後になりますね。遠征の場合、親御さんの了承も必要だから、これも後で書類を配るね。学校からの承諾も基本的には大丈夫」
「費用もとりあえず目処はついてる」
「ただ――」
武田は神妙な面持ちでクイと眼鏡を上げた。不穏な雰囲気に、部員たちは互いに顔を見合わせる。
「この県内に僕らと同等、またはそれ以上のチームはまだまだあるわけで、そこを敢えて県外まで行こうとしてるわけだね。チャンスだからね。…で、来月になったら、期末テストあるの、分かるよね?」
その言葉に西谷、田中、日向、影山は一斉に遠い目をした。
「わかるよね?」
その言葉に四人はフイと顔を背けた。繋心も思わず大きなため息をつく。
「テスト期間は向こうとも大体一緒らしいので、合同練習はそれの後、ということです。で、予想ついてるかもしれないけど、赤点で補習になる教科がある場合――遠征には参加できません」
「っおい田中、西谷どこ行く!?どこにも逃げられないぞ!」
「あかっあか赤点て!何点ですか!?」
「そっから!?」
「影山が息してません!」
「赤点はないデショ」
「ないね」
「俺はちょっと頑張らないと心配かな〜」
「俺もだな〜」
「きょっ教頭先生に一生懸命頼めばきっと!」
「まずは一生懸命赤点を避けなよ」
「補習になった場合補習が優先だよ…!」
「そこまで思いつめなくても大丈夫だよ、日向」
「俺高校入ってから60点満点の小テスト2桁以上の点数ほとんどとったことないですけど、大丈夫ですか!?」
「えっ」
「えっ」
体育館は阿鼻叫喚をきわめていた。
「テストまでまだ時間はあるんだ…!やってやる…全員で…東京行ってやる…!」
「目据わってる!」
「こわい!」
「分かんないことがあれば、教えられるとこは教えるからさ」
「大地さんっ」
「…あ、教科書全部教室だ」
「あ、俺も」
「明日から全部持って帰れ」
「高嶺って勉強得意?」
帰宅しようとした巴に尋ねてきたのは菅原だった。
「得意ってほどでもないですけど、赤点の心配はないと思います」
「俺それ知ってる。頭がいい奴がいう言葉だ!」
「まあ高嶺が悪い点数とるの想像しにくいしな」
「高嶺!!さん!!!」
「は、はい」
「勉強を!教えてクダサイ!!」
「オシエテクダサイ」
日向と影山に頭を下げられた。
「上手に教えられるか分からないけど、それでもいいなら…」
「「ッ、アザーーッス!!!」」
「あと、月島くんと山口くんにもお願いした方がいいと思う。一人からよりも皆から教わった方が勉強になるから」
「ありがとう高嶺さん!そうと決まったらいくぞ影山!」
明らかに嫌そうな表情の影山を無理矢理引っ張るように日向は月島達のもとへ向かった。影山くんを物ともせずに連れていくなんて流石日向だ。
- 20 -
*前次#
ページ:
ALICE+