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「ヘイ!1年ガールヘイ!!」

昨日は谷地にまともに話しかけられなかった田中と西谷。

「君、是非烏野バレー部に入ってくれたまえよ」
「え!?」
「君がいると潔子さんと高嶺ちゃんがよくしゃべる」

「そんな勧誘があるかバカ!」と澤村に殴られていたが。本人たちはいたって真面目なのだろう。

「ゴメンねぇ、バカでねぇ、全く」
「い…いえ。その、うれしいです」

どうやら彼女はだいぶネガティブ思考の持ち主のようで、自分なんかでは、とずっと卑下しているようだ。

「だから、バレーの経験も知識も無い“村人B”の私を清水先輩があんなに一生懸命誘ってくれて、凄くうれしかったです。でもやっぱり私ではお役に、」
「わかるぜその気持ち。俺も潔子さんに“君からお金騙し取るからついて来て”って言われても付いて行く」
「アッ、何かちがう」
「漢らしいぜ龍!!!俺だって巴に“西谷先輩、買って”って言われたら財布出しちまう!」
「それもちがう」

その後日向が思い出したように孤爪からの一次予選突破メールを見て、田中たちは大いに盛り上がった。


次の日の練習試合、部活中の谷地はスパイクの速さと重さにびっくりしたり、ブロックの高さに驚いたりと、とにかく同じ表情が一つとしてなかった。

ドリンクボトルを洗いに体育館の外へ出ていた巴は蛇口をひねり、水を流しっぱなしにしながらボトルをどんどんと濯いでいく。

谷地がマネージャーに入ったらGW合宿のときみたいに一人で部屋にポツンと泊まることも、すれ違う女子の部活の輪に目を惹かれなくなるのだろうか。
広い体育館の応援席で2人で並ぶ光景を思い描く。本人の都合もあるので無理強いするのは良くないが。

――でも、そうなったらすごく、嬉しい。
蛇口をしっかりと締めて、歩いてきた道を引き返した。

「谷地さん、今日はどうだった?」
「いやなんかもう、本当すごくて…!さっきボールも日向に防いでもらって申し訳なかったよ…」
「びっくするよね。私も最近やっと避けれるようになったから、谷地さんもきっと、すぐに慣れるよ」
「そ、そうかな?」
「それに、私が盾になるから」
「それは絶対だめだよ?!」

「でも、すごい部だから…足手まといになるだけな気が、して」
「…私も」
「え?」
「まだまだ全然分からないことばかりで、役に立ててないことの方が多いと思う…だから、一緒に頑張れたら、うれしい」

***

入部届けをジッと見る。私がここに名前を書いて出せば、それだけで前に進めるのに。何百何千と書いてきたその自分の名前を記すのがこんなにも難しいなんて。

「谷地さん?」
「ヘアッッ!?」

隣で着替えていた高嶺さんの言葉に体がビクリと跳ねる。なんでもないよと言う前に、清水先輩の声が。

「成り行きで始めたものが少しずつ大事なものになっていったりする。スタートに必要なのはチョコッとの好奇心くらいだよ」
「そういえば私も、バレーって面白いんだなって思って入りました」

高嶺さんもなんでもない風に、少しだけ笑いながら言った。お二人の言葉に何度目かの気づきが降ってくる。やっぱり、私はこの部活に入りたいんだ。目を背けていた心はバレーに興味津々で、わくわくしている。ギュッと入部届けを握りしめ、着替えた後に清水先輩と高嶺さんの他、唯一相談できそうな相手のところへ向かった。

「えっ、お母さんに言われたこと気にしてるの?」
「おぐぅ…っ!」
「でも谷地さんはやりたいんでしょ?」
「…うん」
「じゃあさ、言えば?」
「えっ?」

ドドドドッと騒々しい足音を2人鳴らして歩道を走る。うおお何これまるで少女漫画のような…つーか速!走んの速い!!!
その後、お母さんに自分の口から言えた。バレー部に入ると宣言したのだ。思わず日向を見ると、親指をグッと立ててくれた。

「よっしゃー!マネージャー3人だー!!強豪校みてえ!」

そうだ、今なら聞けるかもしれない。喜んでいる日向の背中に声を投げる。よくネガティブなことを先行して考えてしまう私だけど、高嶺さんの気持ちは汲み取れなかった。でも、きっとあのままじゃダメな気がする。

「どうしたの」
「あの、高嶺さんのことなんだけど」

私にはきっと話をしてくれないと思う。悲しいけれど、どうにもできないから。日向に事のあらましを説明する。私の背中をぶっ飛ばす程押してくれた日向なら、きっと高嶺さんのことも助けられるんじゃないかという希望的観測だ。

「……高嶺さんがそんなこと言ってたの?」
「う、うん」
「じゃあ、おれも言ってくる!」
「え、あ、あの?!」

迷うことなく日向は走り出した。おれも?えっ!高嶺さんに何を言うつもりなんだろう!?走り去る背はどんどん小さくなって、迷いなく進んでいく。まるで高嶺さんがどこにいるかわかってるようだった。

「で、でも、もう帰ったんじゃ……あ、委員会の仕事があるって部活のあと校舎に戻ったのか…!」

一人で納得して頷く。それにしてもやっぱりすごいなあ、体力が無尽蔵だ。日向が突然現れて驚く田中さんが脳裏に浮かぶ。
ねえ、高嶺さん。私もマネージャーとして一緒に頑張れたらこの上ないくらい嬉しいし、何でもできる気がする。でもそれ以上に、

「…巴、ちゃん」

友達として、隣に並んでいたいよ。

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