江戸は変わった。

町並みも文化も道行く人も。
澄み渡る青空には異郷の船が飛行し、排出された黒い煙りがその美しさを損なわせている。
廃刀令により名誉と威厳を奪われた侍は街から消えていき、今では天から舞い降りた異形の者達が我が物顔で街を往来する。

これが、かつて侍の国と謳われた本邦である。

かぶき町のスナックお登勢の二階にある、“万事屋銀ちゃん”と看板が掲げられた家屋にて。
ソファに寝転びジャンプを読むのは、この家の主兼万事屋を設立した青年――坂田銀時。
その銀時から侍魂を学ぼうと彼の元で働く、眼鏡をかけた一見気弱そうで地味な少年――志村新八。
同じく万事屋で働く、宇宙最強を誇る絶滅寸前の戦闘種族・夜兎族の生き残りの少女――神楽。

「ユリ姐ー、昼のご飯は何アルカ?」
「そうですね、今日は…オムライスに」

そしてもう1人。
万事屋の看板というには勿体ないと言われ、江戸随一の美貌を持つ女性――百合。
銀時とユリが2人で営んでいたときは、百合目当ての客が殺到していたが
それらを全て銀時が追い払っていったため、今では客が来る日も少なくなってしまった。
まぁそんなわけで、商売としては評判が悪そうに見えて、ちょくちょくお客がくるが、
それが事件の種になることが多いことは…言わないでおこう。

***

万事屋の部屋にピンと張り詰める緊張の糸。
殺気立った空気は全て万事屋オーナーである銀髪の男から放たれていた。

「俺が以前から百合に内緒で買い溜めていた大量のチョコが姿を消した。
食べた奴は正直に手ェ挙げろ。今なら4分の3殺しで許してやる」
「4分の3ってほとんど死んでんじゃないスか。っ
ていうかアンタいい加減にしないとホント糖尿になりますよ。
せっかく百合さんが心配してくれてるのに」
「またも狙われた大使館、連続爆破テロ凶行続く…物騒な世の中アルな〜。
私恐いヨ、パピーマミー」

真剣な表情で新聞を読み上げる神楽の鼻からは赤い滝が盛大に駆け降りている。
銀時がその顔面を掴む。

「恐いのはオメ―だよ。幸せそ―に鼻血たらしやがって。美味かったか?俺のチョコは」
「チョコ食べて鼻血なんてんなベタな〜」
「とぼけんなァァ!鼻血から糖分の匂いがプンプンすんぞ!」
「バカ言うな。ちょっと鼻クソ深追いしただけヨ」
「年頃の娘がそんなに深追いするわけねーだろ。定年間際の刑事がお前は!」
「例えがわかんねーよ!っていうかおちつけ!」

――…キキィッドカンッッ!!

「「「!?」」」

突然の衝動音と振動に、三人の動きが止まる。
何だ何だと玄関に出た新八が驚きの声を漏らした。

「お登勢さんとこに事故みたいですよ!」
「きぃああああ!!ユリちゃんバイト中ぅぅぅ!!」

そうなのだ。百合は万事屋の家賃を払うため、週に何度かお登勢の元で働きに出ている。
卒倒しそうな銀時が転がるように下へ降りていく。
従業員2人も慌てて追い掛けた。
下にはバイクが転がっていて、傍に恐らく運転手と思われる男が倒れていた。
辺りには手紙が散乱している。
しゃがみ込み男の様子を診ている百合を、駆け降りてきたスピードのままの銀時が抱き上げた。

「無事かァァァ!!ユリ――!!」
「この方、腹部を押さえているので、もしかしたら…」
「アナタ!!アナタの話してるの!!ちゃんと俺の目を見て!!」

ユリが無事であると納得したのか、銀時は散らばった手紙のひとつを拾った。

「飛脚かアンタ、届け物エライ事になってんぞ」
「こ…これ…」

か細い声に振り返ると、事故った男が腹を押さえながら必死に身体を起こそうとしていた。
その手には小さな小包が。

「これを…俺の代わりに…届けて下さい……なんか大事な届け物らしくて、
届け損なったら俺…クビになっちゃうかも…お願いしまっ…」――ガクッ…
「おいっ!!」

男は気を失ってしまった。
思わず受け取ってしまった小包からは新たなトラブルの香りがした。

「此処であってんだよな」
「うん」
「大使館…これ戌威星の大使館ですよ」

見上げた物々しい建物。
四人は並んでその前に立つ。

「戌威族っていったら地球に最初に来た天人ですよね」
「えぇ」
「江戸城に大砲ブチ込んで無理矢理開国しちまったおっかねー奴らだよ。
嫌なトコ来ちゃったなオイ」
「オイ」

不意に声をかけられ振り向くとそこには、怖い顔をして二本足で立っている犬が居た。
それは門の前に佇んでいた戌威族の門番。
鋭い眼光が血走り、4人を睨みつけてくる様は、まさしく威嚇。

「こんな所て何やってんだ、てめーら。食われてーのか、ああ?」
「いや…僕ら届け物頼まれただけで」
「オラ神楽、早く渡…」
「チッチッチッ おいでワンちゃん酢昆布あげるヨ」

スパンとキレよく、銀時が神楽の頭を叩く。

「届け物がくるなんて話きいてねーな。
最近はただでさえ爆弾テロ警戒して厳戒体制なんだ。帰れ」
「ドッグフードかもしんねーぞ。もらっとけって」

銀時が届け物を差し出すが「そんなもん食うか」と、犬が届け物を叩いた。
叩かれた届け物はふわりと宙を舞い、大使館の敷地内へと着地した。
その途端、耳を塞ぎたくなるような大きな爆発音と、生温い爆風が銀時達のまわりに吹き荒れた。
要するに、つまり、どういうことかというと…、銀時達が頼まれて届けに来た物は爆弾だった。と、いうことだ。

「…なんかよくわかんねーけど、するべきことはよくわかるよ。

――逃げろォォ!!」

「待てェェテロリストォォ!!」
「!!」
銀時達は咄嗟に逃げ出すが新八が犬に捕まってしまった。…が、
新八が銀時の手を掴み、銀時が百合の手を掴み、百合が神楽の手を掴んだ。

「新八ィィィ!!てめっどーゆーつもりだ離しやがれっ」
「嫌だ!!一人で捕まるのは!!」
「俺のことは構わず行け…とか言えねーのかお前」
「私とユリ姐に構わず逝って二人とも」
「ふざけんなお前も道連れだ。っつーか、俺とユリは一心同体なんだよ!!
離れられない運命にあるの!!」
「わけわからない事言ってないでとっとと離すアル!!」
「ちょっとォ!?そんなこと言ってる場合じゃないよ!ほら…ワン公一杯来たァァ!!」

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