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かぶき町。 人の往来の絶えることのないその通りで、非番の百合は一人の少年とぶつかった。
「おっとごめんよ」
みすぼらしい格好の少年は、謝罪の言葉を口にし、そのまま立ち止まることなく歩いていく。
百合は数歩歩いたところで足を止めた。 振り返れば、少年が路地へと素早い身のこなしで入って行くところだった。
それをじっと見つめていた百合はやがて踵を返すと再び歩き始めた。
「――あれ、百合さん。 銀さんと途中で会いませんでした?」
万事屋に帰ると、出迎えてくれた新八がそう言った。
「なんか百合さんのこと迎えに行くって、さっき出て行きましたけど」
どうやら行き違いになってしまったようだ。 百合は新八に礼を言うと、今来た道を戻り始めた。
大通りではなく脇道でも通っているのか。 特徴のある見た目だ、同じ道を歩いていればまず見逃すことはない。
――と。
銀時がよく行くファミレスの前を通ると、どこをどう見ても見覚えのある侍が座っていた。
そして百合は冷笑を浮かべながらファミレスへと入る。
「――自分が子供って知ってる奴はもう立派な大人だよ。 大人はちゃんと罰を受けて責任とらんと」
「そうですね、大人はきちんと責任を取らなくては」
背後から銀時の首元に向けてスッと何かが振り降ろされた。
それは言わずもがな名の知れた名刀で、今は包みで隠されているがそれでも凶器には値する代物だ。十分恐怖を与える。
冷や汗をだらだら流しながら振り向いた銀時の瞳に映ったのは、満面の笑みを浮かべている百合だった。
「あ、あれ、百合ちゃん?なんでこんなところに?」
「もちろん、“立派な大人”を探しに」
「い、いや、俺はまだ子供だから!心はまだジャンプ読んでる子供だから!」
「アンタ、さっき自分の言ったこと思いだしなよ」
銀時の頭を鷲掴みにしたまま、不意に聞こえた幼い声に視線を向ける。
「あら、さっきの……」
「……やべっ!さっきの金持ちのねーちゃん!」
「おい待てクソガキ!金持ちっててめー、まさかコイツの金もスったのか!」
逃げだそうとする子供の頭を、銀時が鷲掴みにする。
「百合ちゃん?ほら、俺コソ泥捕まえたから。
百合ちゃんの金も返すから。 だからそろそろ俺の頭を解放してェェェ!」
銀時は子供の懐をごそごそと漁り、百合の財布を見つけてテーブルの上にポンと置いた。
「何を言っているのですか?その財布は元々何も入ってなどおりません。
ですからお金などスられておりませんので、まずは貴方が謝罪をすべきかと……銀時殿?」
絶世の美女の笑みは何とも美しいものだが、今の銀時にはそんなものは関係ない。
そうして絶叫する銀時の前で、スリの子供はガタガタと震えた。
「――ゴメンナサイ」
銀時に土下座をさせたあと、百合は子供――晴太からどうしてもお金が必要なんだと頭を下げられた。
聞けば己が生活するためではないと言う。 真剣な目をする晴太はお金の使い道を告げる代わりに、 二人をある場所へと連れていった。
それは江戸と地下遊郭を繋ぐ巨大エレベーター、このエレベーターの先に続くのは吉原桃源郷だ。
男にとっては天国。 女にとっては地獄。楼主は宇宙海賊春雨の初代第七師団団長、鳳仙。
中に入って晴太の事情を聞けば、なんと少年は吉原一の花魁をおとすために金を貯めていたらしい。