2

空は夕暮れに染まるころで、辺りに人気はない。
シャッターが下りた倉庫の中には、安室と水無が鉄骨の柱に後ろ手を回され手錠をかけられていた。
シャッターを下ろし、締め切った倉庫は真っ暗だが、三脚式の強烈なライトで安室と水無を照らしていたため明るい。

「我々にノックの疑いがかかっているようですね」

何かを言われる前に、先行切って安室が言葉を発する。

「キュラソーが伝えてきたノックリストにお前たちの名前があったそうだ」
「キュラソー……ラムの腹心か」
「ええ、情報収集のスペシャリストよ」

安室は同じくノックの疑いがかかっている水無の方を見ながら、彼女に声をかけるように呟いた。

「知っているようね」
「外見の特徴は左右の目の色が違う、オッドアイ」
「組織じゃ有名な話よ」

ベルモットの言葉に、あくまで自分たちはノックではなく無実だと匂わせるように素直に会話を繋げる。

「昔のよしみだ。素直に吐けば苦しまずに殺してやるよ」
「………僕たちを殺さずに拉致したのは、そのキュラソーとやらの情報が完璧じゃなかったから。
違いますか?」

安室の鋭い考察に、ジンは口端を吊り上げながら「流石だな、バーボン」と憎たらしながらも関心する。

「ノックリストを盗んだまでは良かったけど、警察に見つかり、逃げる途中で事故を起こした」
「挙句、記憶喪失と来たもんだ」
ベルモットの言葉に、ウォッカが続ける。
「じゃあキュラソーを奪還して、ノックリストを手に入れるべきじゃないの!?」
水無は一際大きな声を出し、組織の一員としての正論を述べる。手錠をかけられた後ろ手では、がしゃがしゃと忙しなく手が動いていた。両手でヘアピンを伸ばしている。
大げさな声と身振りで、手錠を外す音がバレないようにカモフラージュしているのだ。

「ジン!我々が本当にノックか、それを確認してからでも遅くはないはずよ!」
「確かに。だが………、疑わしきは罰する。――それが俺のやり方だ」

木箱に座っていたジンが立ち上がり、銃を横に構え二人に向ける。
この行動には流石のウォッカとベルモットも焦り始めた。

「さあ、裏切者の裁きの時間だ」

***

「この倉庫、」

少し離れた所に赤井はマスタングを停め、二人で走り倉庫までたどり着いた。
無意識にドアノブに手をかけようとする百合。それを見た赤井に「お嬢さん、残念ながらここから先は我々の領域だ」と手で制される。
そして、赤井は慣れた手つきで自前のライフルを構えサイレンサーを付けた。

「あくまで、偶然を装って救出する。我々は姿を決して見せないし、勘づかれてはならない。」
「…できるの?」
「ああ。だから君はここに隠れて、彼が出てくるまで待っててくれ」

眉を下げ不安な顔を見せる百合に、赤井は力強く頷いてくれた。


パァァァァアンッ!

暫くして――倉庫から一発の銃声が鳴り響く。

「っ!?安室、さん……」

百合は思わず倉庫のシャッターに駆け寄りたくなる衝動に駆られた。
しかし赤井の先ほどのやりとりを思い出し、思いとどまる。今は無事を願うことしかできないのだ。
すると今度はバンッっとシャッターが開けられる音がしたかと思えばバタバタと人が走る音が。
車の中で身を潜めながら外の様子を伺う。
見ると赤井の後を、がたいの良い黒ずくめの男が追いかけていた。
どうやら赤井は逃げたフリをして、彼等に隙を作ろうとしているのだ。

その後、ジンによって処刑される寸前で、コナンと赤井の機略により一命を取り留める。
そしてラムからの命令を受けたジンはバーボンたちの処刑を中断し、組織の一員であるキュラソーの奪還へと向かうのだった。

警察病院ではキュラソーの身柄を警視庁捜査一課から公安へと引き渡さざるを得ない状態となり、
風見たち公安は安室の指示で謎の女と共に東都水族館へ向かう。
また、コナンはFBIと接触し、記憶喪失の女がキュラソーという女で、ラムの腹心の部下であることを知る。
キュラソーと聞いたコナンは、酒のキュラソーに5種類の色がある事と彼女の特殊な脳の損傷から、
彼女と初めて会った時に彼女の持っていた色違いで5枚組の半透明シートの意味を見出す。
その推論からコナンは、キュラソーが東都水族館の観覧車の頂上で多色ライトを見ると記憶が戻る事に気が付き、急いで東都水族館へと向かう。
東都水族館では、少年探偵団の子供たちを特別に観覧車に乗せるために、
園子が鈴木財閥のコネを使って一方の観覧車を貸切にしていた。
つまり蘭と園子、子供たちも東都水族館へ来ているのだ。

そこへ、キュラソーを連れた風見が到着し、園子が特別に貸し切った側の観覧車に乗る事になる。
手錠で拘束した状態にしたキュラソーとともに観覧車に乗り込もうとする風見に対し、
何とか水族館に到着したコナンはそれを止めようと叫ぶが、声は届かず乗り込まれてしまう。従業員に扮した安室はその様子を見届けながら、スタッフにしか入れないスペースへと進入する。


一方で、水族館内を回る蘭たち。
すると楽しそうに笑顔を浮かべている蘭と園子たちの目に見えたのは百合の姿だった。
彼女は何やら携帯を手に難しそうな顔をしていた。

「百合じゃない!アンタも来てたの?」
「朝から連絡つかないと思ってたらどうして、え、一人でここに来たの?」
「バッカねー蘭、デートなのよきっと!相手はもちろん――」
「あ、そっか!そうなのね!百合!」

そう。何故彼女がここにいるかというと、救出作戦で共に行動した赤井に(無理やり)着いてきてたどり着いたのが東都水族館だったのだ。
赤井は車で大人しくしていろ、と若干怒っていたような気もしたが、そんなことお構いなしに外に出てこうして彼等を探しにきた。
FBIである赤井がここに来たということはこの東都水族館で何かあるに違いないのだから。

「で、アンタの大好きな人は一体どこに――」

いつものマシンガントークで話す園子だったが、次の瞬間、突然俯いていた顔を勢いよく上げた百合に、流石に驚きを見せ固まった。

「え、何」
「……危ない」
「はい?」
「百合?」

ポツリと何かを呟いたユリ。
そして今度は何故か観覧車の方へと走り出していってしまった。
いきなりのことに放心状態の蘭たちだが、数秒後には大声を上げていた。

ALICE+