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「これで先回りできたはずだが………」
観覧車の内部から侵入し、階段を駆けあがってきた降谷。
自慢の腕力と身体能力を駆使して、梯子を掴み器用にレールの上に飛び乗った。
「やはり来たか…」
降谷の目線の先には、赤井がいた。赤井を視界に捉えると、降谷が作業服の上着を脱ぎ捨てれば、それはあっという間に風に攫われて見えなくなってしまう。
逆方向に回転する二輪の観覧車のレールがゆっくりと二人の距離を近づけて行く。
「どうやら上手く逃げ切ったようだな」
「ヤツがここにいるということは、やはりアレは…」
降谷は倉庫内で起きたことを冷静に分析していた。
自分を助けたのは赤井秀一だと気づいていたらしい。
「あれが貴方の仕業なら、どうせここに来ると踏んでいましたけど…聞かせてくれませんか?
僕達を助けた了見を。
あんな危険を冒さなくても奴らの情報を盗み聞くことは出来たはずですよね?」
「……狼に懐いている、可愛い子猫にせがまれてな」
そう淡々と告げる赤井に、降谷は奥歯を噛み締める。
いつのまにか互いの足場のホイールは正面を過ぎ、少しづつ離れて行った。
「わざわざこんな所まで、お喋りに来たのかな?」
「ええ、FBIに手を引けと言いに来たんですよ。キュラソーは我々公安が貰い受けるとね」
喋り続ける降谷に、赤井は嫌味を述べる。
「嫌だ……と、言ったら?」
「力づくで……奪うまで」
不敵な笑みを浮かべる赤井に、降谷は顔の前まで拳を持っていきファイティングポーズを構える。
「引け!赤井秀一 ――!!!」
反対側に進むレールを追いかけるように、赤井に向かい走って大きく飛びかかった。
「こんなことをしている間に、キュラソーの記憶が戻り、ヤツらが仕掛けてきたらどうする!?」
「ハッキリ言ったらどうなんだ!情報を盗まれた日本の警察なんて信用できないと!」
赤井は安室の手首を掴み、安室は赤井の肘を受けとめ、力の比べ合いが続く。
すると、ふいに赤井の胸ポケットに入ったスマホが振動する。
それに気を取られた赤井の一瞬を狙い、安室が雄叫びを上げながら低いタックルで突っ込んだ。
タックルされた赤井は、安室と共に観覧車の隙間から通路へと落下した。
落下時に、背中を強く叩きつけた安室は痛さに「ぐあああっ」とうめき声を上げた。
「ど、どこだ!?」
見失ってしまった赤井に焦りながらもその姿を探す。
とっさに振り返るも、赤井の蹴りが安室の額に入ってしまい、そこからツゥーっと赤い血が流れる。
安室が一回やり返すと、赤井が2,3やり返すという感じで。安室は劣勢だった。
「もうよせ!」
赤井はフェンスに背中を倒れこませる安室の胸倉を掴んで引き寄せた。
「君のこんな姿を見て、悲しむ子がいるんじゃないのか」
赤井の脳裏には、彼の身を案じて涙を流していた一人の少女が浮かぶ。
しかし、赤井のそんな言葉にも耳を貸さない安室は強烈なキックを食らわせる。
「もう降参ですか?さあ、第2ラウンドと行きましょう!」
してやったり顔で、額の血を拭う安室。ファイティングポーズをやめない安室の姿に、赤井はチッと舌打ちをする。
しかし、そのときだった。
「やめてよ…っ!」
階段から女性特有の高い声が聞こえてきたかと思えば、赤井の目の前には、白いシャツを着た少女が現れた。
「だめ……っ、これ、以上…傷付かないで…」
一筋の涙を流しながら懇願する少女――百合。
駆けあがってきた彼女は安室に抱き付き、彼の動きを止めた。
「百合……さん、」
安室も漸く我に返ったのか、自分に縋りつくように抱き付く彼女を片腕で抱きしめ返す。
その肩は震えており、よっぽど心配してきてくれたのだろう。
それを見ていた赤井も構えていた拳を降ろし、臨戦態勢を解除した。
「赤井さーーん!そこにいるんでしょ!?」
状況が分からないのか、階下からコナン君の高い声が響いてきた。
「大変なんだ!力を貸して!ヤツら、キュラソーの奪還に失敗したら爆弾でこの観覧車ごと吹き飛ばすつもりだよ!
お願いだ!そこに居るなら手を貸して!ヤツらが仕掛けてくる前に爆弾を解除しとかないと大変な事に――!」
安室は背後を振り返ってフェンスから顔を出して階下を見下ろした。
本当か、と訊ねる安室に彼が居るとは思っていなかったのかコナン君の声は驚きに満ちていた。
「爆弾は何処に?」
「車軸とホイールに無数に仕掛けられてる!」
それが遠隔操作でいつ爆発するか分からないと言ったコナン君に安室は首肯し、FBIとすぐに行くと答えた。
フェンスから見下ろしたコナン君の表情はきょとんとしたものだったが、すぐに彼は頷いた。
屋内消火栓の前にやってきたコナン達は、消火栓の扉を開けようにも何かトラップが仕掛けられているのではないかと考え、手を出せずにいた。
此処は慎重に開けるべきだと、安室が先立ってナイフを片手に開錠を試みる。
「お嬢さん、一緒に爆弾を確認してもらいたいんだが」
君は身軽な方だろう?安室の後ろに立ち、その様子を見守っていた百合。
少し離れた所から様子を窺っていた赤井がお嬢さん、と呼んできたので彼の方を見やる。
赤井は車軸を指差し、爆弾の設置個所の確認をしたいから一緒に付いてきてくれと言う。
「おい、彼女を巻き込むな。お前達FBIは一般人まで利用するのか」
「そうではない、ただ俺は彼女の有能さを買って出たまでだ。
それとも、危険な爆弾処理の傍に大事なお嬢さんをいつまでも置いておく気かね」
確かにその通りだ。
ただでさえこの場に残っているだけでも危険だというのに、爆弾処理で何か不祥事があれば、
一番に被害を被る。それだけは避けておきたい。
安室もそれを考えてか、再度反論はしてこなかった。
「決まりだな」
それを聞いた百合も赤井の指示に従うことにする。
「君はサウスホイール側を頼む」
「うん」
言われた通りに車軸とホイールに設置された爆弾を確認する為に消火栓の前から離れた。
車軸に飛び乗り、設置された爆弾を確認すればC-4である事が分かり思わず舌打ちする。
プラスチック爆弾をこんな所に設置するなんて、何を考えているんだアイツらは。
ノースホイール側も同じと仮定して全て爆発すればこの大きな観覧車でも一たまりもないだろう。
「赤井!そっちは?」
「あぁ、終わってる」
車軸から下を覗けば赤井が既に起爆装置のある消火栓の位置に戻っていた為に、百合も同じく合流する。
赤井と其々の爆弾の位置と数を確認し合う。
やはりサウスホイール側とノースホイール側で仕掛けられた爆弾の数は同数の様だ。
「どうだった?」
「やはりC-4だ。非常に上手く配置されている。
全てが同時に爆発したら車軸が荷重に耐えきれず、連鎖崩壊を起こすだろう」
その言葉にコナン君は唇を噛み締めるが、そのコナン君の横で消火栓のトラップを解除した降谷がなるほどと首肯する。
悩んでる暇はなさそうですね、と消火栓の扉を開き消火用のホースを次々解いていく。
彼の手元を覗きこめば、そこには黒い小さな箱が鎮座していた。
「解除、できるの…?」
「問題ない、よくあるタイプだ。解除方法は分かるよ」
背後から聞こえる物音に振り向けば、赤井がライフルケースからライフルを取り出しスコープを取り付けていた所だった。
「安室さん、爆弾に詳しいんだね」
「警察学校時代の友人に色々教えられたんだよ。後に爆発物処理班のエースとなった男に」
しかし彼曰く、その友人は観覧車に仕掛けらた爆弾の解体中に爆死してしまったそうだ。
零の言葉に顔を顰めていると、コナンはその事件に思い当る事でもあるらしく俯いてしまった。しかし、降谷は朗らかに心配ないと言い放つ。
「アイツの技術は完璧だった。それを僕が証明してみせるよ」
「うん」
「しかしマズイな」
「どうかした?」
「基盤が小型化していて、アーミーナイフだけでは……」
「これを使え」
安室の困った声を聞き、赤井が自身の持っていたライフルバッグを蹴り、彼の近くに送り込んだ。
「そこに工具が入っている。解体は任せたぞ」
「準備いいね…」
百合はこの赤井と言う男はやはり出来る男だなと感心する。
赤井は内心、これ以上彼の目の前で自分と関わらないでくれ。と、願うのだが、ことごとく叶わず。
これでは余計彼に憎まれてしまうな、と申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
「俺は元の場所に戻り、時間を稼ぐ。何としても爆弾を解除してくれ」
走り去る赤井の背を見て、安室はフンと鼻を鳴らす。
「簡単に言ってくれる……」
「はい、安室さん」
「ああ……ありがとう。後はコイツの解体にどれだけ時間を貰えるか、だな」
安室は消火栓ボックスの中の起爆装置を振り返って見つめた。
すると、突然コナンは何か気がかりなことがあったのか急に階段に向かって走り出した。
「どうした!?コナン君」
「ノックリストを守らないと!」
走りながら答えたコナンに、安室は「ったく、どいつもこいつも……」とため息をつく。
そして今度は百合の方を振り向く。
「百合さん、爆弾解除は危険がつきものです。
今すぐここから離れて安全なところに――「コナンくん、追いかける」え!?」
まさかの返答に驚くも、彼女は降谷の制止も聞かずコナンの後を追うように走っていった。
結局本当にどいつもこいつも自由だな、と呆れるしかなかった。
***
起爆装置の基盤に張り巡らされたコードをピンセットで持ち上げ、ナイフで慎重に切断する。
「一刻も早く解除して、風見と合流しなくては―――。次は確かコイツを……
っ――!おっと、危ない危ない」
額にびっしょり汗をかく降谷。やはり凄まじい集中力と神経を使うのだろう。
「コイツが光ったら、アウトだ……。焦りこそ、最大のトラップだったな。松田」
基盤に組み込まれた赤いランプを見ながら、かつての同期・松田陣平を思い浮かべた。