その後、事件の内容をまとめるとこうだ。
自室を荒らされ右目から頭を貫かれた寒川竜の銃殺体が西野真人により発見される。
寒川の遺留品から貴重な芸術品が紛失していること、そしてそれが西野の部屋から発見されたことが判明。
それに西野自身が第一発見者であることを踏まえると、彼が犯人であると疑わせる状況は十分だった。
だが荒らされた部屋には布団から出た羽毛が散乱し、西野が重度の羽毛アレルギーであることから、彼は犯人として考えにくい状況に。

そんな中、キッドと寒川の共通点である"右目の狙撃"をキーポイントにコナンは阿笠に電話を掛け、
過去にそれを連続して行っているような人物がいないかどうか調べてもらっていた。
阿笠が調査した結果、ICPOのWEBサイトで指名手配中の重罪犯を調べてみたところ、ある一人の人物がそのまま該当したらしい。
その人物とは、右目を拳銃で狙撃し殺害するロマノフ王朝の財宝を狙い続ける国際指名手配犯、

――スコーピオンだという。

そしてさらに、事件の真相も出てきた。
寒川が西野を恨んでいて、西野の部屋からボールペンを盗んで自分の部屋に残し、
自分の指輪を彼の部屋に隠すことによって、指輪泥棒の罪をきせようとしていたこと。
その途中で寒川がスコーピオンに殺されたこと。
船から救命艇が一艘無くなっていて、スコーピオンは逃げたのではないか、
そして横須賀の城にまた現れるのではないかということ。

しかしコナンには、スコーピオンが逃げたとは考えにくかった。
スコーピオンは、自分の正体の鍵になるテープと、マリアの指輪を目的に殺人を犯したという。
寒川の持つ指輪について、船に潜んでいた暗殺者が知りえるタイミングなんてあるのだろうか。
少なくともあの指輪は、ぱっと見たところ何の変哲もないよくある指輪に思えた。

▽▲▽

翌日、船は東京に帰ってきた。
そのまま白鳥刑事が運転する車と、タクシーに別れて横須賀にあるお城へ向かう。

「毛利さん…。寒川さんの指輪は本当にマリアのものだったんでしょうか?」

タクシーの助手席に座っているセルゲイが小五郎さんに尋ねる。

「一応、目暮警部が預かって鑑定に出すって言ってましたが…」
「マリアというのは四人姉妹の中でも一番優しい子で、大きな灰色の瞳をしていたそうです。
ロシア革命の後で皇帝一家が全員銃殺されたのはご存知と思いますが…。
マリアと皇太子の遺体だけは確認されてないんです。」

その後、山を抜けると、そこだけ時が止まってるかのように静かな空間にお城が立っていた。

「ほんとに綺麗なお城!」

ドイツ風のそのお城を見上げ、シンデレラ城のようだという白鳥の言葉に、百合は小さく頷いた。
まるでここだけ時代と世界が違うような雰囲気に、思わずため息を漏らすと、隣に居た夏美がくすりと笑みをこぼした。

「宝物なんです。このお城も、エッグも。曽祖父が残してくれたものですから」
「そう、ですね」

その時、白鳥の目が何かを考えるように細められたことに、到着した阿笠博士たちに気を取られた百合は気付くことがなかった。

「よお!コナン!」
「コナンくーん!」
「元気ですかー!」
「博士、どうしてここへ?」
「いや、コナン君から電話をもらってな…。ドライブがてら来てみたんじゃよ。」

3人はお城を見てそれぞれに声を上げる。

「それにしても、まるでおとぎの国みたい!」
「この中にお宝が隠されているんですね!」
「うな重、何杯食えっかな!」

コナンが城で宝探しをする、と思っている彼等は、阿笠博士の車にこっそり乗ってきてしまったらしい。
城には入らないようにと厳重に注意する小五郎だったが、返ってきた返事があまりにもいい返事だったので、逆に心配になってしまう。


「写真がいっぱい……」

何かに気がついた様子のコナンの提案で入った執務室には、ずらりと写真が並んでいた。
夏美の曽祖父である喜市の写真や日常的な写真の中に、曾祖母の写真はない。

「おい!この男ラスプーチンじゃねえか!」

乾が声を上げ、指をさした写真を見て、セルゲイがそれを肯定する。
その写真にはロシア人の男と、喜市が並んで写っていた。

「お父さん、ラスプーチンって?」
「俺も世紀の大悪党だった、ってことぐらいしか……」

毛利の変わりに、乾が写真から目を離して説明をした。

「奴はな、怪僧ラスプーチンと呼ばれ、ロマノフ王朝滅亡の原因を作った男だ」
「怪僧……?」
「経歴が不明で、変わった風貌だったからそう言われていたそうですね」
「最後はユスプフ公爵に殺害されたんだ。
川から発見された遺体は頭蓋骨が陥没し、片方の目が…潰れていたそうだぜ」

蘭が息を呑む。どうやらその情景を想像してしまい、身を強張らせたようだ。
しかしその時、コナンが突然毛利のタバコを奪い、その煙をそっと床に近づけた。
風が来るはずのない方向から吹いて、煙がゆらゆらと揺れる。
床をごそごそと漁ったコナンは、ついにロシア語で作られたキーパッドを見つけた。

「ロシア語…」
「セルゲイさん、ロシア語で押してみて」

しかし、思いつく言葉のどれを入れても、何の反応もない。
文字数もキーワードも分からないそれは、とても途方のないことに思えた。
一瞬、しん、と静まり返ったところで、コナンがぽつりと呟いた。

「……バルシェ、肉買ったべか…」
「え、それって夏美さんが忘れられないって言ってた変な日本語?」
「バルシェ…?うーん…」
「それって、"BOJIШEБHИК КOHЦA BEKA"のことじゃないですか?」

突然、ぽん、と思いついたというように青蘭が声をあげた。
全員が青蘭を振り返る。セルゲイはそうか!と納得した様子だ。

「英語だと“ザ・ラスト・ウィザード・オブ・ザ・センチュリー”
えーと、日本語では……」

「世紀末の、魔術師」

百合の声が静かに響いた。
世紀末の魔術師…キッドが、予告状に使った名前だった。

ALICE+