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歯車が軋む大きな音がして、床が砂埃を上げて開いていく。
そこに現れたのは、地下に続く階段だった。
ひゅう、と冷たい風が頬を撫でる。階段の下は暗闇で、どこまで続いているのかわからない。
各々懐中電灯をつけて、崩れないか確かめながら階段を下りていった。
「…青蘭さん…ロシア語、上手ですね」
「……え?まあ、一応ロマノフ王朝の研究をしてますから」
「…なるほど」
博識なんですね、と一人呟く百合に、青蘭はにこりと微笑む。
地下は思ったよりも深く、懐中電灯の明かりだけでは心もとなく思えた。
地下の湿った空気がなんとも不気味だ。
前を歩くセルゲイが、それにしても、と声を上げた。
「夏美さん、どうしてパスワードが世紀末の魔術師だったんでしょう?」
「たぶん、曽祖父がそう呼ばれていたんだと思います」
かたり、何か向こうのほうで小石が転がるような音がした。
コナンも気がついたようで、ぱっと顔を暗闇のほうに向ける。
「スコーピオンか!?」
「僕見てくる!」
止めるまもなく走り出してしまったコナンを追いかけようとした蘭だったが、すぐに白鳥に制される。
わたしが行きます、と蘭を抑えて走り出す。
「どういうつもりなんだこいつら……」
「いいじゃないですか毛利さん。大勢のほうが楽しくて」
あきれ返った表情のコナンに続いて暗闇から戻ってきたのは、少年探偵団だった。
他に入り口がないか探していたら、床が突然開いてこの中に落ちてしまったらしい。
入り口は砂埃の具合からして自分達より前に誰かが開けたとは思えなかったが、子供達が入ってきたような別の入り口がまだ他にあったとしたら。
「あれ、行き止まり?」
どこまでも続いているように思えた道が、突然壁にふさがれた。
鳥がたくさん描かれた壁。それは道の行き止まりよりも、むしろ何かの扉のようにも感じられた。
「双頭の鷲…皇帝の紋章ね」
「…!白鳥さん、あの双頭の鷲の王冠に、ライトの光を細くして当ててみて!」
コナンに言われたとおりに、白鳥がライトの光を細くする。
すると、王冠がきらりと光を反射し、次の瞬間には地割れのような音が辺りに響き渡った。
「下がって!」
地面が割れて、入り口と、それに続く階段が現れた。
あまりの規模の仕掛けに、子供達や毛利が感嘆の声を漏らす。
行きましょう、と先頭を切った白鳥に続いて、百合たちは階段を降りた。
「まるで卵の中みたい…」
「ほんとね」
備え付けの油のランプに火が灯ると、部屋の全体像が見て取れた。
中央にある台座のようなものと、ひとつの棺。その棺は夏美さんが持っていた鍵で開き、中には一人の遺骨、たぶん夏美さんの曾祖母であろう遺骨が横たわっていた。
その手には、緑色ではなく、赤いエッグ。
大きさからして、マトリョーシカのように中に、もう一つのエッグが入っていたのでは、
という見解になったが、残念ながら手元にもうひとつのエッグはない。
と、思ったとき、白鳥がにやりと笑みを浮かべた。
「エッグならありますよ」
「…え?」
「こんなこともあろうかと、鈴木会長からお借りしたんです」
「……てめえ、まさか黙って借りたわけじゃねーだろうな?」
「や、やだなあ、そんなことするわけないじゃないですか」
白鳥の持ってきたエッグは見事に赤いエッグの中に納まり、
コナンの指示で台座から天井に向けられた一本の光の上に、それが置かれる。
「……エッグが、透けて…!」
じんわりと光が染みこむように、外側のエッグ、続いて中のエッグが透けて、中にある金色の皇帝一家の像が動き出す。
光で動く仕掛けになっていたそれは、ゆっくりと本のページをめくりだす。
と、次の瞬間、溢れ出した光が飛び散るように天井に向かって走り、それを追いかけて見上げた一同は、言葉を失った。
「……すごい」
そこに映し出されたのは、写真だった。
幸せそうな、家族の写真。
皇帝一家の顔は分からなかったが、この家族がそうなのだろうということはわかった。
天井に映し出された、どの写真も皆笑っている。
そこには確かに、幸せな家族の姿があった。
「もし、暗殺されずに、これが一家の手に渡っていたら…」
「こんなに素敵なプレゼントはありませんね」
皆がその素敵なプレゼントに目を奪われていた。
その写真の中には、夏美がずっと顔を知らなかったという曾祖母の写真もあった。
優しそうな顔をしている。
夢中になってそれを眺めていると、すうっと光が収まって、きらきらとした余韻を残し、
まるでマジックのようなそれは暗闇に帰った。
全員が美しい贈り物に心を奪われて放心していると、セルゲイがエッグを取り上げて、そっと夏美に渡した。
「ロシアは二つのエッグ共々、権利を放棄します。これはあなたが持っていたほうがいい」
「ありがとうございます。あ、でもひとつは鈴木会長の…」
「なに、会長も分かってくれるでしょう!」
同じように、高値で買おうとしていた美術商の乾も諦めてくれたか、そう思ったところで百合は気づいた。
「…乾さんが、いない?」
どこか光の届かないところにいるのか、そう思って皆から少し離れて、入り口のほうに戻る。ライトで探してみるが、いない。
そのことを伝えようと振り向いたとき、コナンの大声が上がった。
「拾うな!蘭!」
転がった懐中電灯の光。鋭い声。次の瞬間には、何かによって高いところの壁が弾ける。
銃だ。そう分かった瞬間、子供達が悲鳴をあげた。
頭を下げろ、コナンがそう叫ぶが、離れている百合には状況が分からない。
慌てて懐中電灯をそちらに向ければ、こちらに走ってくる人影があった。
百合が握り締めたライトが、その人物の顔をさらけ出す。
「せいら、ん、さん…」
彼女の射殺すような目と、細く長い銃口が、百合に向けられていた。