子供たちが城に入ってきた、別の通路で何とか抜け出すことができた蘭たち。
しかし外に出てきてみれば、城は真っ赤に燃え上がっている始末。
その上、スコーピオンを追いかけて行ったコナンたちの姿も見えない。
もしやこの燃え上がる火の中にいるのでは。最悪の結果が皆の頭に過る。

「百合ー!」
「コナンくーん!!」
「何だよ、うっせーな」

小五郎や子供たちが大声で叫んでいると、車が停めてある方から、少年の声が聞こえた。
皆が一斉に振り返ってみると、そこには灰だらけのコナンと百合が立っていた。

「このエッグ、白鳥刑事がスコーピオンから取り返してくれたよ」
「白鳥が!?スコーピオンはどうした!?」
「逮捕して車で連行して行ったよ、スコーピオンの青蘭さんを」

コナンはそう言いながら、エッグを夏美の元へと返した。
段々と消防車の音も聞こえてきており、もうすぐ城の消化作業が始まるだろう。

「夏美さん、すいませんな…こんなことになってしまって」
「いいえ、お城は燃えましたけど、私には…この曾祖父が作った大事なエッグが残ってます。
それに地下室は無事だと思いますし」
「はい。落ち着きましたら、曾祖母様の御遺骨を貴市様と一緒のお墓に埋葬致しましょう」

そして話はキッドへと変わった。
皆の前には、姿を現さなかった彼。

「やっぱり…死んじゃったのかな」
「いや…ヤツは生きてたよ」

コナンがそう言った。

▽▲▽

「でも、別人なんでしょう…?」
「……蘭ちゃん、」

ああ、もう限界だな。
コナンはそう思い、目を閉じた。
幼い頃からずっと一緒だった彼女に、こんな嘘をつき続けることができるはずもなかったのだ。
現に、もうひとりの幼馴染は、もう恐らく――


夜。無事、家に帰ってきた毛利家。
疲労も溜まっていたせいか、小五郎は帰って直ぐベッドに直行だった。
夜遅かったこともあり一人で帰るのは諦め、今日は毛利家に一晩泊まらせてもらうことにした百合は食器の片付けをしていた。蘭はというと、帰ってきてから一人静かに何かを考え込んでいた。
そして、百合が事務所のダイニングへと戻ってきた際、蘭がコナンに対して、ずっと思っていたことを投げかけたのだ。
そして冒頭に至る。

もうすべて話してしまおう。
百合も蘭も、自分がなんとしても守り通せばよいのだ。
初めから、その覚悟があるのだから。

「蘭、百合、実は俺……」
「新一…?…っ、ほんとに新一なの!?」

呼ばれた名前。だがしかし、蘭が見つめているのは、コナンではなかった。
その後ろ、ちょうどドアのところ。

「なんだよその言い草は…オメーが事件に巻き込まれたっつーから、様子見にきてやったってのによ…」

そこに立っていたのは、制服姿の工藤新一だった。

「待ってて!今、拭くもの持ってくるから!」

雨の中歩いてきたと思われる工藤新一を見て、蘭がタオルを取りに行った。
残された百合と工藤新一、そして茫然としてるコナン。
そしてずっと黙っていたユリがおもむろに口を開いた。

「……私も、タオル取り行く…あなたはコナンくんと話してて」

ゆっくりとした足取りで、ユリは蘭の後を追った。
新一とは呼ばず、"あなたは"と言ったあたり、工藤新一の正体を見抜いているのだろう。
その百合の後ろ姿を見ていた工藤新一は、なにも言わずに階段を降りた。

濡れたまま現れたのは、全てこうするための計算だろう。
そして、こうして自分が追いかけてくるのも、彼の計算の上である。
そうわかっていても、コナンは目の前の自分ではない自分を追いかける他になかった。

「待てよ、怪盗キッド」
「……」
「まんまと騙されたぜ。まさか白鳥警部だったとはな」

工藤新一、もとい怪盗キッドが指笛をふくと、窓辺に置いてあった籠から、白い鳩が飛んで彼の肩にとまった。
どうやら正体を隠すつもりも、すぐに身を隠すつもりもないらしい。
コナンのひとつひとつの推理を聞きながら、彼は微笑みを浮かべる。
白い鳩を愛でるように、何匹も身体にとまらせながら、「それで?」とキッドは先を促す。

「他に気づいたことは?」
「夏美さんの曽祖母が、ニコライ皇帝の三女、マリアだってこと言ってんのか?」

マリアの死体は見つかっていない。
それはきっと、香坂喜市が彼女を助け出し、日本に連れ帰ったから。
やがて二人の間に子供が産まれたが、そのすぐ後にマリアは死亡。
ロシアの革命軍からその亡骸を守るため、喜市はあの城を立て、エッグに城のヒントを残した。

「…ま、こう考えれば、全ての謎が解ける」
「君にひとつ助言させてもらうぜ」
「?」
「世の中には謎のままにしておいたほうがいいこともある、ってな」
「確かに。この謎は、謎のままにしておいたほうがいいのかもな…」
「じゃあその代わりに。この謎は解けるかな?名探偵」
「は?」
「何故俺が工藤新一の姿で現れ、やっかいな敵である君を助けたか」

「案外、良い人…だから?」

突然聞こえた第三者の声。そこには蘭の元に居る筈の百合がいた。
彼女を見ると、キッドはフッと笑った。

「…やっぱり気づいてたか」
「私の知ってる、新一……そんなに気障じゃないもん」

そう言いながらも百合は雨が降りしきる中、キッドの方へと近づいて行く。

「でも…あの時、助けてくれて…ありがとう」

小さなリップ音がした。
後ろの方ではコナンが声にもならないような、震えるような叫びを上げている。
キッドは目を見開かせ、赤らめた頬を隠すかのように、手を当てた。

その時タオルを抱えた蘭が、急いで階段を降りてくる音が聞こえてきた。
するとキッドはやっと平静を取り戻し、また百合の方を見て言う。

「こちらこそ、ユリお嬢様」

瞬間、ぱちんとキッドの指が鳴る。
彼の姿が消えると共に、空に何羽もの鳩が空に飛んでいくのを、百合はじっと見上げていた。
はらはらと白い羽が落ちるのを、一枚拾い上げて、小さく笑みを浮かべた。

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