2
――今朝、テレビつけるとこんなニュースが報道されていた。
3人組の強盗が銀行を襲い、銀行員一人が銃殺される事件が発生したと。
幼馴染の友人の家へと向かっている百合。その手には昨日の夜に作った肉じゃがの入った風呂敷が。
食べることが好きで、さらに美味しい料理を作ることにも長けている彼女は、作った料理を親交の深い者におすそ分けをすることがある。
今日は昨日作った肉じゃがが美味しくできたので、またお裾分けしようと思ったのだ。家の事情で昔から家事全般を任されている一人の幼馴染の元へ。
「あれ?百合じゃない!」
突然後ろから声をかけられ振り向くと、そこには蘭が立っていた。
勿論傍にはコナンや小五郎もおり、どうやら知らない間に彼らの前を歩いていたらしい。
しかし見てみるといつもの顔ぶれの中に珍しい人物もいたが。
「もしかしてウチに用だった?」
「うん、お裾分け」
「ほんと?いつも貰ってばかりでごめんね」
「ううん、好きでやってるから」
「百合ねーちゃん、何持ってきたの?」
「肉じゃが」
「百合さん、朝以来ですね」
「…こんにちは」
そう、百合の住むアパートの隣人の安室透だ。
彼は相も変わらぬ愛想のいい笑顔を浮かべている。
「朝以来ってことは…百合ねーちゃん、朝、安室さんと会ってるの?」
「(コクリ」
「僕がバイトに行く前にね」
「ふーん…」
その後蘭たちから聞いた今回の依頼の話をまとめるとこうだ。
小五郎が事務所で依頼人の樫塚圭を待っていると、圭から会う場所をレストラン「コロンボ」に変更したいというメールが届く。
小五郎はコナン、蘭、弟子の安室と共に「コロンボ」で圭を待つ。
依頼の内容は、他界した圭の兄の遺品からロッカーの鍵が出てきたらしく、依頼内容はそのロッカーの鍵を探し出すことだった。
待っている間、小五郎は依頼のメールと先ほどのメールのアドレスが違う事に気づいて事務所に戻ることに。
「――って誰も待ってねぇし」
「ほんとだ」
「一応、最初のメールアドレスにすぐ戻るってメール出したんだけどな」
「じゃあそのうち返事がくるんじゃない?紅茶でも飲んで待ってる?」
「いいよ、コロンボでコーヒー飲みすぎた。ちとトイレ」
「あ、蘭さん紅茶入れるなら手伝いますよ」
「すいません、じゃあティーカップ出してもらえませんか?」
「喜んで」
「蘭ちゃん、肉じゃが…冷蔵庫入れておくね」
「うん、ありがとう」
すると携帯の着信音が事務所に響いた。
それは小五郎が事務所に入ろうとしたとき、圭から「コロンボ」に着いてから来てほしいというメールが届く。
そしてコナンもトイレにいきたいと言い出した途端、またもメールが届いた。
「“急いで皆で来てください”ってよ」
「皆って私達も?」
「他に誰がいるんだよ」
「ではまた皆でコロンボに行きましょう」
「え?」
「さぁさ皆さん急いで」
「早くしないと依頼人さん待ちくたびれちゃうよ」
「ったくオレだけでいいんじゃねーのか?」
「…私、いる?」
「うん!だって“皆”って言ってるらしいし」
しかし皆が事務所から出てさぁコロンボへと思った矢先、扉を閉めた安室が人差し指を口に当て小さな声で言った。
「皆さんお静かに」
「?」
「恐らくこういうことですよ」
安室の推理によると、事務所の状況から圭を小五郎に会わせたくない人物が場所変更のメールを出したとのこと。
その人物が留守中に事務所の人間として圭と会ったと考えていた。
「でもなんでそんなこと?
コインロッカーの鍵を探してもらいに来ただけなのに…」
「そのロッカーにとんでもないもんが入ってんのか…!?」
「…それは、本人に聞いてみましょうか」
どうやらその人物は事務所のトイレに今現在隠れているとのこと。
小五郎がトイレに入ろうとしたときにメールが届いたからだ。
がちゃり、再び安室が扉を開けた。
もう一度事務所の中に入って、犯人が隠れているであろうトイレを見遣った、次の瞬間。
――パァン!
聞き慣れない音にびくりと肩を揺らす。
音を聞いて真っ先に動き出したコナンがトイレの扉を開ける。
その様子を見ていた百合は皆の後ろに立つと、ふいと視線を逸らし顔を俯かせていた。
どれだけの間目を逸らして俯いていたのかはわからない。
けれども肩に誰かの手が置かれたのに気がついてゆっくりと顔を上げた。
隣に立っていたのは安室で、百合と目が合うと彼は「すぐに警察が来てくれますから」と微笑む。
「……死んでるの?」
「はい、恐らく即死かと」
安室は隠さずにそう言った。
「こんなことになるなら、百合さんを巻き込みたくはなかったんですが」
「……先のことなんて、誰にも分かんない」
「それでも、怖い思いをさせて申し訳ありません」
安室の言葉にこくりと頷き、早く警察がくるのを祈るしかなかった。
「――では、つまりこういうことですかな?樫塚圭さん」
その後、通報を受けて来た警察の捜査で、トイレで拘束されていた女性の事情聴取が始まった。
圭は助手と名乗る男にスタンガンで気絶させられたと言う。
しかし男は小五郎達に気づかれたと焦って自殺。
圭の身体から発射残渣が殆ど出ておらず、目暮警部も男が自殺したと判断する。
圭によれば兄が事故で他界したのは4日前。
圭は携帯の待ち受けにしている兄の写真を皆に見せ、それを見たコナンはどこかで見た顔だと考え込んでいた。
男の携帯の電話帳には何も入っておらず、送信履歴は圭を装って場所の変更をした小五郎宛てのメールのみ。
圭はその後のメールは自分の携帯を使われたと証言する。
目暮は男のポケットに携帯と一緒に小銭や財布が入っていたことに違和感を抱いていた。
ポケットの小銭は5千円近くあり、財布にはたくさんの札が入ってたのだ。
そうこうしてるうちに時間はずいぶんと過ぎていて、小五郎の一声で今日はここまでということになった。
「家に帰るなら僕の車でお送りしましょうか?
近くの駐車場に停めてありますし……もしかしたらあの男の仲間があなたの家の傍で待ち伏せてるかもしれませんしね」
そう言い出した安室に対して「また君の周りに探偵が一人増えたわけか」という発言をした目暮警部。
「また?」
そう言って首を捻った安室に、目暮警部はご丁寧に世良真澄のことを説明する。
「へぇー、若い女性の探偵ですか……それはぜひ会ってみたいですね」