侵入犯達の姿が見えなくなり、今後の動きを思案していたコナン。そこへ次郎吉の声が飛んできた。乗務員にダイニングへの招集をかけているのだ。ピーッという音が鳴った。ウエストポーチから探偵バッジを取り出して応答する。

 「オレだ」
 『飛行船がハイジャックされたわ』
 「やっぱりか…」

 呼び出しをかけていたのは哀だった。

 「で?犯人の要求は?」

 コナンの疑問は、哀がダイニングの会話を聞かせてくれたことで解決した。これといった要求があるのではなく、ただ次郎吉に恨みがあるらしい。十年前、鈴木財閥は赤いシャム猫一掃のために、警察に手を貸したのだ。主犯格らしい男の声が、警察に連絡するように命令して、さらに妙な真似をするなということも忘れずに付け加える。
 それから、ここが一番重要だろう。犯人は、当然ながら例の細菌…殺人バクテリアを保持している。下手に反逆すれば、細菌をばら撒くつもりなのだ。

 「ど、どうします?コナンくん…」
 「哀ちゃんや皆を助けなきゃ!」

 子供達の言葉に、コナンは大きく頷いた。ここまでくれば、やることは一つだ。

 「とにかく、まずは爆弾の解除だ。灰原、その人質の中に犯人の仲間がいるかもしれない。気を付けろ」
 『了解』

 その言葉を最後に、通話は切れた。
 
 「オメーら、まさか喫煙室には入ってねーだろうな?」
 「!?」
 「入ったのか!?」

 子供達は必死に、少し覗いただけですぐ扉を閉めたと弁明する。だが、元太が「煙草臭かった」と言っている点から見て、喫煙室内の空気を吸ったということになるのだ。コナンの緊張した表情に、子供達は一層弁明する。

 「それより…爆弾、どうすんだよ!?」

 そうだ。当面の問題はそちらである。子供達も今のところは発症もせず、至って元気な様子だったので、コナンは表情を切り替えた。

 「爆弾は全部で四つだ。そのうち二つは下の通路の後半分…燃料タンクのところが、一番怪しい」

 燃料部分を爆発させてしまえば、この飛行船の生きる術は消えてしまうのだ。

 「オメーら、その爆弾を見つけ出せるか?」
 「勿論です!」
 「ただし見つけてもぜってー触るんじゃねぇぞ!見つけたらオレに知らせるんだ!」
 「うん、わかった!」
 「それと、少しでも体調が悪くなったら言えよ!」
 「うん!」

 子供達は即刻、飛行船内部の後へと向かった。

 (歩美と光彦は、多分大丈夫だ……だが元太は…!)

 感染者のくしゃみ、細菌が撒かれた喫煙室内の空気、殆ど体内に細菌が入っていてもおかしくない状態だ。

 「くそっ!」

 今は、感染していないと祈るしかなかった。

 最初に見つけた爆弾は、そこにあった。通路とは言い難い場所を壁を伝って歩き、ちょうど喫煙室の壁の裏に発見したのだ。ここを爆破させれば、室内の細菌がそこら中に散ることとなる。爆破するには最適だろう。コナンがガムテープで貼り付けられた爆弾を引き剥がし、蓋を開け、ナイフを取り出す。ブチッと配線コードが切れる音がした。

 (だが、何故犯人達は、細菌と爆弾の両方を使ってるんだ?片方だけでも十分ハイジャックは可能だろうに…)

 疑問は募るばかりで、不安はそれに比例して大きくなる。

 歩美らから爆弾発見の報告を受け、すぐにそちらへ向かった。子供達が見つけた二つの爆弾。一つは難なく解除し、もう一つは燃料タンクの真上にあった。タンクによじ登り爆弾を解除した。

 「これで残り一つ…」

 立ち上がって一息吐く。ふと顔を上げると、何やら光が視界に入った。

 「しゃがめ!」

 咄嗟にそう叫んで、メガネで光を追っていた。光はぐんぐんと上へ動いていて、その正体は何のことはない、エレベーターだった。

 「行き先は…スカイデッキか」

 中には、男に拳銃を突きつけられている次郎吉がいる。コナンは立ち上がってタンクから飛び降りる。

 「残りの一つは俺達で探してくるから、お前らはここから動くなよ!」

 子供達にそう言い置いて、通路を走り出した。

 ***

 三人目の感染者は、日売テレビディレクターの水川という男だった。彼も喫煙室に入ったらしく、手のひらに発疹が出ていたのだ。何やら喚いて助けを請うたが、犯人グループの奴に気絶させられ、喫煙室へと連れて行かれた。

 「ねえ、そういえば、子供達がいないんじゃない?」

 水川と同じレポーター…確か西谷と言った。彼女が、ふとそう漏らした。犯人がそれに反応する。

 「確か、あの子と同じくらいの男の子が三人と、女の子が一人…」

 こちらを指差した西谷に、余計なことを言ってくれたわね、と心の中で毒づいて、博士の後ろへ隠れる。…まずいことになった。即座に探し出すよう命令している犯人を横目に、探偵バッジを取り出した。早く、これを知らせなきゃ。

 「江戸川くん、あなた達がいないのがバレたわ。男が二人、捜しに…」

 そこまで告げて、突然背後から、探偵バッチを誰かに取り上げられる。

 「シャレたことをするじゃない…」

 それは、ウェイトレスの女だった。女が手を振り上げ、瞬間ヤバいと気づき、目をつむるが痛みはこなかった。

 「…子供に手、出さないで」

 目を開けるとそこには、ウェイトレスの女の腕を掴む百合の姿があった。間一髪で彼女が助けてくれたのだ。女は鬱陶しそうにユリから離れると、私に向かって言い放った。

 「フンッ、今度妙な真似をしたら、殺すわよ?」

 手には拳銃。そうか、この女…犯人グループの仲間だったのか…。迂闊だった。唇を噛み締めた。

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