「久しぶりね、工藤くん!」
 「どうも…」

 当然の如く、キッドが新一に扮することとなった。ちなみに、ヘリには佐藤刑事と高木刑事も乗っている。五人で警察ヘリの後部座席に乗るのは無理があり、必然とコナンは百合の膝に座らされている。

 「でも、驚いたわ…百合ちゃんとコナンくんまでいたなんて」
 「…コナンクン、ソラガコンナニチカイヨー」
 「わぁ、すごぉーい!」

 見事なまでに棒読みな百合と、その彼女に上手く合わせているコナン。

 「にしても工藤くん、佐久島に何か用でも?」
 「話は後で…飛行船を追ってください!」

 しばらく飛び続けると、飛行船の影が見え始めた。

 「いました、飛行船です!」
 「近づいてください!犯人に悟られないよう、十分高度を取って」
 「了解」

 指示通りヘリは進んでいく。

 「風向きと、今のヘリのスピードは?」
 「東南東、時速200キロ!」
 「…このまま進んで、追い抜いた辺りで飛行船にスピードを合わせて下さい」

 その言葉に、佐藤刑事が不思議そうな顔をする。飛行船の真上でホバリングしたヘリは、ゆっくりと進む飛行船のスピードと同調し出した。窓を開けてコナンとキッドが風向きを確認する。きょとんとする高木と佐藤を置いてきぼりで、

 「じゃ、僕たちはこれで」

 ヘリのドアを大きく開け放った。百合がコナンをぎゅっと抱きしめた瞬間、キッドの手が背中と腰に回る。そして…再び、青空へと飛び立った。
 風に乗り上手い具合に、飛行船の上に着地する。しかし次の瞬間、視界がぐらりと揺れた。ハングライダーの大きな翼が、前から風を受けて自分達を押し出していた。留まることが出来ずに、キッドが風に押されて後ろ向きに走ることになってしまう。

 「翼、翼!翼をしまえ!」

 コナンと百合を抱きかかえているキッドには、翼をしまうために使える腕がない。そのため風の抵抗をもろに受け、体がどんどん、後方へ引っ張られていくのだ。

 「くそっ!」
 「わっ、うひゃひゃひゃ、くすぐってぇぞ!あひゃひゃ…」
 「じっとしてろ!スイッチ押すから!」

 もぞもぞとキッドのお腹あたりを探り、ハングライダーのスイッチを捜す。このまま押し出されると、そのまま飛行船から落ちてしまう。そんなとき。

 「うあっ!?」

 キッドが、足を滑らせてしまった。

 「なっ…」
 「っ…!」

 小さく悲鳴を上げていた筈の百合は、素早い動作でキッドの胸ポケットに腕を突っ込んだ。引っ張り出したのはワイヤー銃だった。打ち出したワイヤーが絡みつき、なんとか飛行船から落とされずに済んだ。うまい具合に引っかかったらしく、三人はなんとか、飛行船の上に降り立つことができた。

 「百合ちゃん、さんきゅ…」
 「さ、流石…ユリ姉ちゃん」
 「…二人とも、早く行こう」
 「「あ、はい;」」

 冷や汗をかいている男二人とは反対に、クールビューティーに事を進める百合。これではまるで立場が正反対である。

 キッドは適当なところに腰を降ろし、コナンにあるものを渡す。

 「…指紋?次郎吉さんのか!?」

 キッドから投げ渡された、指紋シール。宝石は既に犯人に盗られてしまっているため、もう用無しとなったのだ。コナンは指紋認証シールをポケットに突っ込んだ。

 「それと…お前らの大事な、あのねーちゃん…気をつけてやったほうがいいぜ」
 「蘭ちゃん…」
 「蘭がどうしたんだ」
 「最初に感染した、藤岡。あいつに、腕掴まれてたんだ。すぐに飛び退いてたし、くしゃみとかかかったわけじゃねーから大丈夫とは思うけどな…」

 一応知らせとく、と告げたキッドに、コナンは少し考え込む仕草を見せていた。そんな彼らのやり取りを後ろから見つめていた百合。

 「あ、えっと…ユリ姉ちゃん、ここからは危険だからキッドといた方がいいよ」
 「……」
 「おいおい、名探偵。オレに預けとくと、何するか分かんねーぜ?」
 「そんときは仕事の邪魔させてもらうけど?」
 「…私、コナンくんに付いていく」

 百合が何を考えているかは、時々コナンでも分からない。普通なら違和感を感じてもいい筈の、コナンの発言や行動に、未だに何も言わず静かに傍観しているだけ。
 ――いや、敢えて何も言おうとしないのか。

 「……分かった。でも、無茶はしないことだよ」
 「…うん」

 ***

 示し合わせることもなく、二人は喫煙室の裏に当たる場所へ向かった。先程も爆弾が仕掛けられていた場所だ。道とは呼べない場所を伝い歩き、さっき爆弾のあった場所を覗く。

 (…ない…!?)

 爆弾はなかった。最後に見つけた、タンクの裏も同様であった。結果、見つかったのは元太達が発見した二ヶ所のみだった。どうやら、この二つしか爆弾をしかけなかったらしい。コナンがガチャガチャと解除していると、携帯の着信音が響いた。どうやら、コナンが持っている新一用の携帯らしい。表示に[服部平次]と出ている。ここで電話に出ると、平次が開口一番に「工藤」と言うのは目に見えている。しかしそれでは流石に、百合に「工藤新一」であると気づかれてしまう。どこか別の場所で着信に応えようとしたとき。

 「私、向こうで誰か来ないか…見張ってるね」

 百合はそう言い立ち上がると、コナンとは少し離れた場所へと行く。もしかすると彼女なりの気遣いかもしれない。

 『おい工藤!かけ直すちゅーって、ちぃっともかけてこーへんやないか!』
 「…わりぃ、忘れてた」
 『ったく、今どこにいてんのや?』
 「飛行船の中だ」
 
 『もう戻ったんか』と平次が感嘆にも似た声を出した。身の俊敏さにおいては、彼に適う者などいないだろう。

 「それより何の用だ。今、忙しいんだけどな――『犯人がネットに飛行船のことバラしよったから、大阪中パニックになってしもてるで』
 「何っ!?」
 『駅も下道も高速も、大阪より西へ逃げる人間で超満員や。銀行の行員や警備員とかも皆避難させられとるらしいから、はは…強盗するんやったら今やな』

 さすがの平次も、笑いどころをそこにしか見い出せないらしい。から笑いを浮かべた。その横から、なにやら聞きなれない声が飛んできた。

 『それは止めた方がいいですよ…今はどこもセキュリティが万全ですから』
 『冗談や冗談!大人同士の話に口を挟むな!』

 誰とも知れぬ、少年らしき子どもの言葉にコナンは思考を巡らせた。

 「…セキュリティ」

 重なった呟きと同時に肩に手が置かれた。瞬時に振り返る。そこにいたのはキッドと、傍らにはユリもいた。

 「…なんだ、お前か。脅かすな」
 「上に来てみな。面白いもんが見えるぜ…」
 「わりぃ服部、またかけ直す!」

 平次にそう告げ、返事を聞く間も与えずに電話を切った。

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