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暫くして、園子からベルツリー急行の埋め合わせとして伊豆高原の別荘に誘われた蘭たちは、小五郎の運転する車に乗りながら窓の外を眺めていた。
蘭が園子の彼氏の話で盛り上がる中、ユリだけは話題に入らずぼんやりとし続ける。

「ユリどうしたの?何か元気ないけど」
「…別に」
「なによーこれから運動するってのにそのやる気のなさは」
「……むぅ」

いつも無表情でぼーっとしているユリの頬がわずかに膨らんだ。
まるでリスのようなその愛らしさに蘭たちも何も言えなくなったが、どうやら最近ユリの周りでは何か思い通りにいかないことが多いようだ。

そして話題は、園子のテニス特訓という話に移った。
どうやら園子の彼氏の京極真が現在空手のトレーニングとしてテニスを取り入れているらしく、今度会えた時は手合わせをしたいと誘われた為、その特訓も兼ねて別荘に行くことになったらしい。

「私…テニス、ちょっとしかやったことない」
「でもユリは無駄に身体能力高いし、大丈夫だって!」
「無駄って園子…」
「まっそのことなら心配いらねぇよ。丁度良いスペシャルコーチをゲットしたからな!」

スペシャルコーチとは誰のことだろうか。
知らない人に教えて貰うのはあまり気が進まないな……と思いこっそり溜息を吐いた。




つい先ほどまで知らない人に教えて貰うのはあまり気が進まないと思っていたユリだが、コートに立っていた人物を見てわずかに瞳を輝かせた。
とはいえ新一(コナン)の手前、この状況は流石に駄目だろうと直ぐに思考を戻した。
ちらりとコナンの顔を見れば、彼の表情は強張っていた。
手本を見せるかのように力強くサーブを打った安室。

「すごい!ナダルみたい!」
「中学のとき以来ですから、お恥ずかしい」

どうやら小五郎が用意したスペシャルコーチというのは安室のことだったらしく、少し離れた位置からコナンは話を聞いていたが、なんと週明けにはポアロのバイトにも復帰するらしい。
一体どういうことなのかと困惑していると、話は進み安室が園子にサーブを教えるという流れになった。
そんな中、何かを思いついた蘭がユリの背を押しつつ安室の方へ近づいていく。
何処か楽しんでいるように見えたのは錯覚か。

「ユリ、チャンスだよ!ここで距離を縮めて…一気に!」
「…?」

どうやらユリと安室を仲良くさせたいらしいが、いくらなんでも魂胆が丸見えだ。

「ジュニアの大会で優勝したってポアロの店長に聞いて驚いたよ!」
「まぁその直後に肩を痛めてしまって…このサーブ、数は打てないんですけどね」

するとそれを聞いた途端、今まで無関心だったユリがはっとした表情で安室の腕を取った。

「じゃあダメ…怪我する」
「え!?ちょ、ちょっとユリってば!」
「あらあらユリったら大胆♪」
「あ、でも教えるだけなら支障ありませんけど…」

まるで安室を取らせまいとしているのか、いつになくユリは真剣だ。
そしてそれを嬉しそうに見守る蘭に、自分の特訓はどうなるのかと嘆く園子。
安室は自分の心配をしてくれる彼女に苦笑しつつも、やんわりと大丈夫なことを伝える…が、それでも本人は納得いかないようで。

「………園子ちゃんは向こうで壁打ち」
「なんでよ!?あたしの特訓は!?」
「壁と」
「それじゃ普通の練習と変わんないわよ!」
「壁打ち100回したら…いいよ」
「アンタはあたしのコーチってか!?」

ユリと園子の攻防戦が繰り広げられていると、突然安室が大きな声で「危ない!!」と叫んだ。
見ると、勢いよく飛んできたラケットがコナンの頭にクリーンヒットしてしまった。
倒れた彼にユリは咄嗟に支えようと駆け出す。

「コナンくん…!」

もたれかかるコナンを軽く揺すりながら呼び掛けるが、小さく呻き声を上げながら頭を押さえてしまっている。
ユリに続いて駆け寄ってきたのは安室だった。
その時コナンが何かをユリに伝えようとしていたが、それは言葉にならなかった。


***


あれからコナンにラケットをぶつけてしまった人の別荘に移動することになり、お医者さんを呼んで彼の容体を診て貰ったところ、脳震盪だと診断された。
大事にならずに良かったと、まだぼんやりしながら座っているコナンを見ながら安堵して息を吐く。
それからテニスの団体戦を一緒にやらないかとか、昼食を一緒に食べないかとかと話は進み、暫くこの別荘に留まることになった。
蘭と園子が昼食の手伝いをしに行こうとしていた為ユリも付いて行こうとしたのだが、安室に腕を掴まれ歩が止まる。

「掌を擦り剥いてますよ。駄目じゃないですか、ちゃんと洗わないと」
「え?あっ……」

指摘され掌を見てみると、確かに軽くだが擦り剥いていた。
恐らくテニスコートで咄嗟にコナンの元へ駆け寄ったため、自分でも知らない間に掌をコンクリートで擦ってしまったらしい。
しかし自分でさえ気付くことが出来なかったというのに、どうして安室は気付くことが出来たのだろうか。

「…気づかなかった」
「ユリさんのことはよく見てますから」
「……?」

どういう意味なのか、と口を紡ごうとしたところを安室が問いかけた。

「そういえば、試験勉強はどうですか?」
「試験…?」
「あれ、試験勉強のために知人の家に泊まりこんでるって、この間言ってたじゃないですか」
「…あ、うん…」

そういえばそういう設定だった。
自分で作った嘘話というわけではないので、つい忘れてしまっていた。
しかしそれを不審がるわけでもなく安室は優しく笑いかけてくる。

「ユリー?何してるのー?」

キッチンから蘭に呼ばれ、ユリは安室に会釈をしてその場を立ち去る。
安室の考えていることは相変わらず読めない。



時刻は三時過ぎ。
昼食後にシャワーを浴びたりなどして時間を過ごしていたのだが、上の階から大きな物音が聞こえ、音の正体を確かめるべく皆で二階に上がることになった。
二階にはコナンと石栗という人がおり、彼等に何かあったのではないかと思いながら部屋の前まで来たは良いのだが、鍵が閉まっている上にどうやら合い鍵も紛失してしまったらしい。
ならばベランダ伝いで行くかと話している石栗の友人達に、助け船を出す形で話し掛けたのは安室で、自分が鍵を開けると言い出したのだ。
その宣言通り細い鉄のような物でスムーズに鍵を開けてしまった安室に、蘭と園子は称賛の言葉を述べる。
そしてドアを開けた安室だが、何かがドアを塞いでいるようで少しの隙間ほどしかドアが開かない。

「開けるなァ!!」

突如ドア越しに聞こえてきたコナンの鋭い声に驚くと、彼がドアを開けてはいけない理由を話し出す。

「ドアを塞いでるの……死体だから」




やって来た横溝警部という人はコナン達と知り合いらしい。
彼等が事情聴取している姿を、ユリだけ少し離れた位置で見つめながら、半ば呆れるように溜息を吐いた。
他県の刑事とまで知り合っているということは、ユリが知らない間にもその分沢山の事件に遭遇していることへの証明だ。
今回の事件は、当初は棚に置かれた花瓶が落ち、それで頭を打ったことによる事故死だと思われていたが、色々と不審な点があったことから殺人事件として調べられることになったらしい。


「冷やし中華っていえばさー、氷使うよね」

コナンが子供らしい声でそう発言したかと思えば、次から次へと「そういえば氷ってさー、ツルツル滑るよね?」などといった一見事件に関係のない発言を重ねに重ね、周りの大人達を事件の解決へと誘導していった。

事件は無事解決し、犯人はコナンの頭にラケットをぶつけた人だった。

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