15

フワフワの白頭が用具室壁の影から見え隠れしている。
それを見つけた巴は数秒固まったのち、小声で声をかけると、彼は勢いよく振り向いた。

「鳴」
「巴っ!」

成宮は嬉しそうに全開の笑顔を向けてきた。
そして何かを我慢するかのように足をジタバタとさせている。
その子どものような仕草を見ているとおかしくて、つい巴も頬が緩みそうになる。

「会いたかった、俺、本当にここ最近巴に会いたくてたまらなかったんだよ!」
「そう」
「…巴は?会いたかった?」
「別に」
「そんなこと言ってー、相変わらず素直じゃないんだから〜」

彼も相変わらず少し変わった思考回路をしていると、そんなことを思いながら巴はもう一人の幼馴染の言動を表情一つ変えずに見ていた。

「ってか巴、最近メールの返事遅くない?送っても次の日返されたらこっちもなんか寂しいんだけど」
「ごめん、でも今週は合宿もあって流石に疲れてたから。鳴もそうなんじゃない?」
「エース様だからそんなにへこたれないし!それに、巴と一日に一回は連絡交わさないとオイラやってけないって!」

そんなこと言われてもこちらは日々鍛え上げている選手とは身体が違うわけで。
彼の我儘ぶりに巴は溜息をつきそうになるのを堪える。

「私じゃなくて、今は自分の方を構ったら。
私とはこれから先好きなだけ一緒にいられるけど、高校野球は今しかできないんだから」

巴が努めて冷静にそう言ったら、成宮は途端に押し黙った。
どうしたのかと見れば、彼の頬と耳が赤く染まっている。

「…どうしたの?」
「……巴、なんか俺、今日めっちゃいい球投げれそうだ!俺のピッチング絶対見てて!」
「分かったから。それより、そろそろ時間だから戻ろう」

彼の感情の起伏ポイントは本当によくわからない。

***

その後すぐ開戦した稲実対修北戦、成宮は言葉通りに先発した。
キレのあるスライダー、地面に突き刺さるようなフォーク、そしてその変化球を際立たせるマックス148キロのストレート。縦と横の変化に力のある真っ直ぐ、これぞ投手のお手本といえるようなピッチングだ。

成宮が足を上げて、前に踏み出し、振れた左腕からボールが放たれる。
相変わらずきれいな投球フォームだ。

青道の選手たちは緊張したような面持ちで真剣に成宮のピッチングを見ている。
特にピッチャー陣、一年生の二人は初めて見る彼のピッチングに色々と思うところがあるだろう。
そうして巴が彼らの様子と試合とを交互に観ていると、御幸がすすす、と隣に寄ってきた。

「鳴、今日はお前にうるさく迫ってこなかったんだ?」
「…別に」
「こうやって月代と喋ってたらあいつ集中乱れないかな〜」
「なんで?」

そんな会話を交わしていると、マウンドの上の彼が目をきらめかせた。

振りかぶる。ストレートと同じ腕の振り。その手から放たれたボール。
打者がバットを振った遥かあと、原田のミットに白球が飛び込んだ。放たれたのは、

――チェンジアップ。

きっちりアウトを取って帰ったベンチの雰囲気からして国友監督は「余計な情報を与えるな」と指示していたんだろうけど、根っからの目立ちたがりの彼は我慢できなかったみたいだ。

「縦と横の変化に加えて緩急かよ」

成宮の進化を感じ取った青道レギュラー陣が、背後に尋常でないオーラを纏って闘志を燃やし始めたのは、成宮唯一の誤算といっていいだろう。

ALICE+