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ということで、勉強会の日。
今日の練習はもともとテスト前なので少しだけ早めに切り上げられる予定だったのだが、突然の強い雨によってさらに早く切り上げられた。
マネージャーも部員もすっかり濡れ鼠で、ボールやバットが濡れないように慌てて片付けた。
ボールは濡れると重くなり、間違ってマシンに入れると非常に危なく、ティーバッティングくらいにしか使えなくなるのだ。
部員たちは早くも解散して各々が体を冷やさぬようにシャワーを浴びに行った。
一方で巴の方は、帰宅する貴子先輩たちがこれ以上濡れないようにと外の濡れてでもやらねばならない片付けを大方引き受けていた。
そうして全て終わって5号室を訪ねる頃には、びっしょり濡れて悲惨なことになっていた。
「お疲れ様でーす…って、ととと巴先輩ずぶ濡れじゃないですかー!」
「うわ、早く入れ、風邪引くぞ!」
「雨水飛んだらごめん」
勿論来る前に急いで部屋にいき、服を着替え、タオルで髪も若干拭いたがそれでも完全に乾いたわけではない。
成績の危うい一年生のためにと気遣ってきた彼女だが、結局、目を吊り上げて怒る御幸に迎えられた。
「おまっ、シャワーぐらい浴びてこいよ!」
「でも、時間もあんまりないから」
「ほんっとにお前は無茶しやがって。風邪ひいても面倒見に行ってやらねーからな!」
「じゃあ皆始めよっか」
「おいコラ、無視してんじゃねーぞ」
怒れる御幸を華麗に躱そうとする巴だが、そうは問屋が許さない。
巴の白く細い手首を掴むと、やや低めの声色で言った。
「試験も大事だけどよ、マネージャーが風邪なんてひいちまったらそれこそ部員に迷惑だ。いいからさっさと温まってこい」
「………分かった」
珍しく真剣な顔をみせてくる幼馴染に巴も首を振れなかった。
大人しくシャワーを浴びに、倉持達に断りを入れて一度部屋を出て行く。
一連の流れを完全に蚊帳の外状態で見ていた倉持たちは何も返事を返せなかったが。
「…お前、もっと他に言い方あるだろーが」
「そ、そうだぞ!巴先輩は俺らに気を利かせてくれたのに!」
「アイツはこんぐらい言わねーと折れねぇんだよ、昔から」
小学校からの付き合いであるという幼馴染は、まるで彼女の全てを知っているかのような言いようだった。
「…前から思ってたんですけど、御幸先輩と月代先輩は、お付き合いされてるんですか?」
「降谷!?何を言ってんだ?!こんな性格のひん曲がったやつが巴先輩と付き合えるわけねーだろ!」
「はっはっは、ありがとう!」
「こいつ(御幸)と月代は別にそういうのじゃねーんだと、俺らが一年の時にも同じこと聞かれてたけどな」
「そういや、この間稲実の白頭のピッチャー、あの人こそ巴先輩が嫁とかなんとか言ってたけど、ほんとに巴先輩とそんな関係なのかよっ!?」
稲実の白頭のピッチャーとは成宮のことだ。
練習試合で成宮が言っていた「巴はオレの嫁」発言に、沢村は衝撃が走ったのを覚えている。
「いーや、確かに俺と同じように幼馴染なのは間違いねぇけど、それだけだな。嫁ってのはどうも向こうが勝手に言ってるだけらしいぜ。月代が前にウンザリした顔で言ってたし」
シシシと悪戯っ子のようなにんまり笑顔で言う御幸。
まるで余裕そうな御幸に対し、倉持が今度は質問した。
「そんじゃー聞くけどよ、もう一人の幼馴染さんはどう思ってんだ、月代のこと」
「俺?俺は別にどーもねーよ。あいつとは家が向かいで、親同士が元々知り合いだったから自然と一緒だっただけだし」
「その割には過保護のくせに。さっきも月代が風邪引かねぇように心配だったんだろ、ったく素直じゃねーのはどっちだか」
本音をつかれたのか、それともこの話題にはもう興味がないのか、倉持の言葉に御幸も言い返しもせず教科書に視線を移してしまった。
「…?!ってか巴先輩、普通にシャワー室行っちゃったけど、大丈夫なんすか?!もしかしたらまだ部員が!」
「安心しろ、月代は別のシャワー使ってるから」
「別の…?」
学校の敷地内に青心寮とは別の寮があり、巴はそこを間借りさせてもらっているが、女子生徒が一人だけということもあり防犯上の関係から、この事実は部員には伏せられており、高嶋先生をはじめとした部の限られた人間だけが知っていることである。
その限られた人間には、彼女の幼馴染である御幸も含まれていた。
巴の両親も御幸のことは信頼していることもあり、何かあったときには直ぐに駆け付けられるようにということだ。
「つーかお前らさっさと問題解けよ。元はといえばお前らの頭がバカだから、アイツも時間割いてまで面倒みてやる羽目になったんだからな」
「ぐぬぬぬぬ!!否定できない己の未熟さに腹が立つっ!!」