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必死な勉強会の甲斐もあって、沢村は全教科ぎりぎり赤点を免れたらしい。しかし降谷は違ったようで。春市くんに慰められている降谷は、むすっとしている。教科担当の先生に交渉して追試の日を調整してもらえるようで最悪の事態は逃れたが。
期末考査を終えてからは、校内の至るところで吹奏楽部やチアリーディング部が野球部応援の練習をしているし、スタンド応援組も三年生が率先して応援の打ち合わせを始めていた。
校内でも俄然夏への期待が高まる中、本日、背番号が発表される。
エースナンバーは監督が以前明言した通り、丹波が背負うこととなった。
三年生十二名、二年生五名、一年生三名。背番号を頂いた二十名と記録員としてクリス先輩の名前が発表されたあと、監督が「それから――」とマネージャーたちに向き直る。
「マネージャー、お前たちも本当によく手伝ってくれた。お前たちもチームの一員として、スタンドから選手と一緒に応援してくれるな」
そう言って監督が取り出したのは、レギュラー陣と同じ、試合用ユニフォームだった。
去年にはなかったサプライズに受け取った貴子先輩の目が潤む。
「あっ、貴子先輩泣いてる〜」
「泣いてないっ」
意地を張る貴子先輩を皆でからかっていた。
「高校野球に次はない――日々の努力も、流してきた汗も涙も、全てはこの夏のために!!」
***
「巴〜背番号頼む」
「うん、そこに立って」
練習後、試合用ユニフォームを着た御幸と倉持が食堂にやってきた。裁縫道具を広げて待針を何本か咥えると、背番号の位置を合わせて固定していく。
全部で二十枚。マネージャーは五人、通いの人を抜いて一人三、四枚がノルマだ。
「御幸くんはやっぱり巴ちゃんに縫ってもらう?」
隣で背番号を合わせていた貴子先輩の悪戯っぽい問いに、御幸がギクッと肩を揺らした。
「貴子先輩!ちょ、それはっ」
「え?あ、ゴメン!もしかして言ってなかったの?」
「…なんのことですか?」
慌てた様子をみせる御幸、その様子を察した貴子先輩がしまったという顔をする。
そんな二人のやり取りを不思議に思った巴が疑問を投げかけると、
こればかりはどうしようもないと言った感じで、苦笑いを浮かべた貴子先輩の方が説明をしてくれた。
「実は今までの背番号も御幸くんが、巴ちゃんに縫ってほしいって――「ああああ!そこまででいいですから!!」
そう。これまでの御幸の背番号は巴が塗っていたのだ。
それは勿論、貴子先輩から直々に頼まれたものだから巴自身は別段気にもしなかったが、裏では御幸が直々にお願いしていたとは知らなかった。
巴が御幸の方に顔を向けると、そこには耳まで赤くさせた幼馴染の後ろ姿が。倉持が心底楽しそうに絡んでいる。
どうやらこれ以上は深く聞かない方が良さそうだ。
「私は構いませんよ、昔もよく塗っていたので」
「そうなの?」
「主に御幸の学校用品でしたけど」
母親を早くに亡くした御幸のために、巴は小学校の頃から彼の給食袋や靴入れのなどを塗っていた。
元々、巴の母の手芸好きな影響から裁縫は得意だった。
「そっか、確かに巴ちゃん綺麗に縫うものねぇ。御幸くんが頼みたくなるのも分かるわー」
理由はそれだけではないと思う、と他のマネージャーたちは苦笑いを浮かべていたが。
それから数日後。
青天に恵まれた明治神宮球場で、第89回全国高校野球選手権・東西東京大会開会式が行われた。東西合わせて260校。来月の今頃には、選ばれたたった2校が甲子園に足を踏み入れることとなる。
青道高校の夏が始まった。