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三回戦、対村田東高校戦。
四回まで降谷―御幸のバッテリーが、五回からは川上―宮内のバッテリーがそれぞれ完封。五回裏、哲さんのバックスクリーン直撃ホームランでサヨナラコールドを決め、青道高校は危なげなく三回戦を突破した。
ホームに帰ってきてから「あいつらを少しでも休ませてやりたかったからな」と笑ったという結城だけれど、それで本当にホームランを打ってしまうのだから彼はやはり化け物だ。
***
「本日のロングホームルームは文化祭の内容決定です」
五限から始まったLHRで教壇に立った担任の言葉に、もうそんな時期かと頬杖をつく。
文化祭は秋大と神宮大会の間。今年はあまり参加できないだろう。
「ダンスがいい」「去年もやった」「縁日」「メイド喫茶」「メイドぉ?」「屋台」「モザイクアート」「男女逆転喫茶」などなど、様々な意見がぽんぽんと飛び交う。
手元に広げたメモ用紙に、部対抗リレーのメンバーを勝手に書き出していると、唐突に名前が挙がった。
「月代さんのメイドが見たいです!」
「欲望丸出しじゃねーか!」
「月代さんに『お帰りなさいませご主人様』って言われたい!冷たく罵倒されても構わない!いや、むしろされたい!」
「分かる!オレもだ!」
「同志よ!!」
声高に叫んでいるのはクラスのお調子者かつリーダー的存在の男子たちだった。いっそ清々しいほど開き直ったその態度に、クラスは逆に盛り上がっている。
「……どうかなぁ、月代さん」
意見が出過ぎてまとまらない状況に困っているのだろう、文化祭実行委員が助けを求めるように視線を寄せてきた。
巴は少し考えつつ返事しようと口を開くと、教室後方にて誰かが机を叩いた音がした。
御幸だ。
「――だめだ。絶対」
教室がしんとなる。
「月代の知名度フル活用すんのは構わねーけど、ソイツだけじゃなくて、女子が変な客に絡まれた時ちゃんと誰か助けてやれるのかよ。言っとくけど去年の文化祭でこいつ相当絡まれてるからな」
昔から人の集まりやすい学校行事では、巴目当てにやってくる人もいたし、男性に声をかけられることはしょっちゅうだった。
青道の文化祭は一般公開されているので、在校生の家族友人、他校生や近所の人など誰でも入ることができる。誰も彼も全てが善人ではないし、全員その場で適切な対処ができるわけじゃない。
メイドさんなんて格好、巴じゃなくたって絡まれる女子は出てくるだろう。
「で、ではお聞きの通り、野球部の許可が下りないのでメイドはなしの方向で」
「ええぇ……月代さんのメイド……」
「……あの、」
「あ、月代さんどうぞ」
皆が落胆の表情を見せていると、今度は巴が小さく手を挙げた。
「…浴衣は、どうかな」
「浴衣?」
「時期にも合ってるし、今から自分たちで調達できるもので、文化祭が終わってからも自分で使えるから…」
少しでもクラスの助けになればと、巴なりの考えだった。
クラスでも普段大人しく自分から何か発言することはなかった彼女が、少し頬を赤らめて一生懸命伝えようとする姿を見て、クラス全員が何故かうぉおおおと涙を流し歓喜していた。
その後も話し合いに多数決を重ね、出し物自体は教室でのカフェ、コンセプトは『和風』というざっくりしたところまで決まった。あとは夏休みの集合日を幾日か候補に出し、文化祭実行委員を中心に煮詰めていくこととなる。
そうして体育祭や文化祭を迎える頃には夏が終わっているんだなぁと思うと、なんだか信じられないような気分だった。