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七月二十九日、準決勝戦当日、対仙泉の試合では丹波が先発した。
これまで全試合で先発している降谷を休めるため、彼以外の三人で戦うことになっている。薬師戦でホームランを打たれた沢村はその采配に戸惑ったようだったけれど、クリス先輩を含む捕手陣が上手く切り替えさせたのだろう、今朝は元気いっぱいにタイヤを抱えて御幸に怒られていた。
序盤一点を取られたものの、以前のように気弱な態度を見せることのなくなったエースのピッチングはさすがだった。
丹波にはストレートが時折甘く入ってしまうわかりやすい弱点がある。そこを狙われた一失点だったけれど、気付いた御幸が配球を変えて最小限の失点で切り抜けた。
中盤、サードゴロで突っ込んだ小湊兄の華麗なホームインで同点に追いつき、丹波の代打で小湊弟が立つ。
今大会三打数三安打、驚異の打率十割を守って逆転タイムリーツーベースヒットを繰り出し、スコアは4−1を刻んだ。
六回裏、投手は沢村へ。
先頭打者へのフォアボールという相変わらずのやらかしっぷり。
次の打者にはエンドランをかまされノーアウト一・三塁、タイムを取ろうとした御幸を沢村が手で制す。
「ちょっと待ったー!大丈夫です、タイムいりません!野球なんだから投手は打たれて当たり前、点を取られて一人前ですから!」
何しろ薬師戦、ホームランを打たれた後立ち直れないままマウンドを下りた彼だから、密かにみんな心配してはいたのだけれど。
「頼もしくなったものね…………」
口の端をぴくぴくさせる高嶋先生はとっても怖かった。
その後もピンチの続く沢村に対して、本日お休みのはずの降谷がブルペンからエールを送ったり、伝令小湊弟が野手陣を笑わせたりと、冷や冷やする場面もあったけれどなんとか一失点に抑えた。
特に、打席に入った真木を仕留めたあの球。
「クロスファイヤー…ですね?今の」
「本人は無自覚でしょうね」
巴が思わず呟くと、隣にいた高嶋先生も驚いたようだった。
終盤川上に交代した後もじりじりと点を返されたものの、青道の勢いは止められることなく結果八対三。
青道高校、三年ぶりの決勝進出を決めた。
***
試合を終えたレギュラー陣は一旦球場外に集まり、応援に来てくれた家族と話をしたり荷物をバスに積み込んだりする。マネージャーズは注文していたお弁当を受け取ってから、集合の号令がかかるまでその様子を眺めていた。
なかでも、同級生たちに囲まれる沢村に注目が集まる。
「中学の時の友だちがわざわざ見に来てくれたんだって」
「へぇ。人望あったんだあの子」
「まあ中学時代はキャプテンだったみたいだし。自然と人の真ん中にいる子ではあるよね」
梅本たちの間で巴も沢村たちの方に視線をやると、夏川がその中で紅一点の女の子を指さした。
「てかさ、あの子が噂の彼女?」
「ああ、なんだっけ。若菜ちゃん?可愛いね」
よく倉持が騒いでる例の「若菜」らしい。
倉持の方を向いてみると、案の定、初めて間近に見る若菜に目をかっ開いている。
「月代〜、そろそろ行くって」
「分かった。じゃあ、行きますね」
巴は例によって、スタンド観戦するレギュラー陣と一緒に行動することになっていた。
マネージャーズと別れて御幸の方に駆け寄ると、集合に気付いていない沢村の後ろ頭に小湊兄が痛烈なチョップを落としていた。
倉持はいつもより二倍くらい威力のありそうなタイキックを沢村に叩き込む。
「い……痛い!なんかいつもより痛い!!」
「気のせいだバカヤロォ!――そんじゃコイツ連れて行くんで。また応援しに来てやってください」
主に若菜に向かってキメ顔をした倉持。後輩の沢村に良い感じの女子がいるのが許せないのか、倉持は若菜関連の時だけものすごく残念な先輩になるらしい。
準決勝第二試合。
稲城実業高校、青道の因縁の相手。
対する都立桜沢高校はベスト4初進出、都内有数の進学校で野球部としては無名だ。
食事を済ませてからスタンドへ向かうと、ちょうど試合前ノックが始まったところだった。高校野球が私立優位になって長い中、公立である桜沢の快進撃には注目が集まっている。
昨年覇者の稲実の試合でもあるため、観客の数も第一試合より多いようだった。
稲実の打線が打ちあぐねる桜沢の投手は、独特の握り方で無回転を生み、投げる本人にもどこへ曲がるかわからない魔球と呼ばれるナックルボーラーだった。
試合はしばし投手戦となり、スコアボードに0が並ぶ。
「稲実のクリーンナップまで〇点で抑えられるのは凄いね。相当練習しなきゃ……」
「ああ、ただ」
いかに桜沢高校の投手が凄くとも、野球は点を取れなければ勝てないスポーツ。
格下の桜沢が、関東ナンバーワンサウスポーと名高い鳴から、一点でも奪い取ることができるのか。
野球に絶対はない。市大三高が薬師に敗れたように、稲実だって格下に喰われる可能性がないわけじゃなかった。
だけど、それでも、成宮がここで敗けるところは想像できない。
それほどまでに圧倒的な実力差。
結局四回表を迎えたところで、扇の要で四番でキャプテン原田のスリーランを皮切りに稲実打線が爆発した。
一挙八得点。続く五回で三点。
十一対〇、五回コールド。
初回から全力投球、相手守備をも乱す圧巻のピッチングを魅せた成宮の完封勝利だった。