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「おっ、御幸じゃねーか!」
試合の観戦を終えて、巴は一年生三人と御幸と一緒にお手洗いに向かう。
一年生の保護監督役としてついてきた御幸の隣に立って、何を喋るでもなく三人を待っていると、通りかかった稲実一行に声をかけられた。
「いっ……」途端、嫌そうな顔になった御幸。
「まだ帰ってなかったのかよ」
「で、いいデータ取れた?」
「データも何も、あんな完璧なピッチングされたらなー」
苦笑いで頭を掻いた御幸に、先頭を歩いていた成宮が「いやー、一也に褒められちゃったー」とドヤ顔をみせる。
そうして今度は御幸の後ろ側にいた巴に気づくとパァッと音が鳴りそうなほど嬉しそうな顔をする。
しかし、巴の方は明日対戦する相手とあまり顔を合わせたくないという気持ちもあり、
なんとなく気まずさからか御幸の後ろへ半身を隠してみる。
すると嬉しそうな顔だった成宮の顔は見る見る間に歪んで、青筋が浮かぶ。
「巴、離れな」
「……いや」
「何、未来の旦那の前で、堂々と浮気してんのさ」
「鳴と結婚する予定はない」
「だから将来の話!!」
二人のやり取りに御幸が呆れたような溜息をついていた。
「そういや、この面子が揃うのもあの時以来じゃね?」
「そういえばそうだね。――巴はいなかったけどさ!」
神谷の言葉にうなずいた成宮がまたも巴の方を睨む。どうやらなにか気に食わないことでも思い出したようだ。
しかし、「はっはっは」と御幸は笑っていた。
「来なかったって、何のこと?」
「はあ!?呼んだじゃんあの日!一也ん家に電話して、二人で来いって!」
「あーわり、巴には言ってなかったんだわ!」
「はあああ!?どういうこと一也!」
きゃんきゃん吠えながらポメラニアンのように髪の毛を逆立てる成宮から後ずさり、傍らの御幸を見上げた。
意地の悪い笑みを浮かべている幼馴染が「いやあ」と首に腕を回してくる。
「あーほらまたベタベタする!一也もいい加減、オレの巴から手ェ引けっての!
巴も巴だよ!お前は絶対いいマネージャーになると思ったからまとめて誘いたかったのにさ!てか、そもそも将来の旦那を傍で支えて当然でしょ!なのに、巴は来ないし!しかも一也は断るし!」
「だってあの時、もう青道に行くって決めてたし?巴は受験勉強中だったし?お前と巴会わせたくなかったし?」
「なんっっっだよそれ!!」
初耳のそれに目をぱちくりさせていると、ひとしきり地団太を踏み終えてふて腐れた表情の成宮は「けど」と偉そうに腕を組む。
「お前らがいなくても今年のチームは最強だよ!甲子園だけは、絶対譲れねーから」
自信ありげに笑った彼を先頭に、稲実の面々が去っていった。
「うちに来なかったこと、後悔すればいい。十年後も、二十年後も、ずっと……」
シニアの時代から御幸を敵視していた白河の言葉に御幸が口角を釣り上げる。
巴は小さく息をついて彼らの後ろ姿を見送った。
「……後悔、しねぇよな」
「しないよ。あなたもそうでしょ」
「するわけない」
――後悔なんて、しない。
するわけがない。
そんな甘い覚悟で、自分たちはこの道を選んでいない。
***
「おい、さっきの良かったのかよ?
お前の大好きな巴ちゃん、御幸にべったりだったけど」
「べっつにー!あんなの照れ隠しだよ!巴は将来、オレと結婚するんだから!」
「またそれか」
「そんな確証もないような話、信じられないけどね」
成宮がよく口にする「巴はオレの嫁」発言を、チームメイトは殆ど信じていない。
どうせ成宮が勝手にそう言っているだけだろう。そう思っている。
「いーんだよ、オレと巴がした約束なんだから、信じてもらわなくたって結構だしー」
「まぁ、そこらへんのことは知らねぇけどよ、さっきの感じ見てたら御幸とくっつきそうな気もしたぜ」
「はぁ?!そんなのあり得ないね!一也は巴とちょっと仲が良いだけで、巴は絶対オイラの方が好きだし!」
「自分で言うかふつう」
「なんにせよ、鳴は明後日確実に巴のこと泣かせることになるよね」
「…まぁね!でも手加減しないよ!」
「当然」
―――じゃ、じゃあ約束だ!
こーしえんで一番になったら、オイラのお嫁さんだぞ!