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二年前の秋。
俺自身は青道へ行く、その決意を互いに固めて迎えたシーズンオフ。巴は本格的に受験勉強を始めていたから、邪魔にならないように、放課後の練習に誘う回数を減らしていた。
家でミットの手入れをしていると電話が鳴ったので、一旦道具を置いて受話器を取る。

「はい、御幸です」
『あっ、一也?俺俺!』
「誰だよ」

声でわかったけど一応突っ込んでおいた。

『わかってるクセに!鳴だけど!明日の昼さぁ、ちょっと話があるから来てよ。
ついでにオイラの彼女も連れてきて!アイツんち今日は出かけてるのか、電話出ないからさ。じゃ伝えといて!』

こっちの都合なんてひとつもお構いなしの鳴は、言いたいことだけ言ってとっとと電話を切った。
彼女ではない筈だが、鳴がそう呼ぶ存在は一人しかいない。
絶賛受験勉強中の俺の幼馴染だ。

巴の方は勿論、彼女ではないと何度も訂正しようとしているが、おそらく鳴のアレは俺への牽制だろう。
自分が巴の近くにいられないから、彼女の一番はオレなんだと誇示しているような気がする。
俺がアイツをどう想っているか見抜いているようだけど、そんなことは知ったこっちゃない。
さて、あの俺様ピッチャーが俺と巴に何の用だろう。


「おいおい、すごいメンツが揃ってるな……」

翌日、呼び出された公園に向かってみれば、東京の名だたるシニアで好成績を残した選手が勢ぞろいしていた。
その中心で笑みを浮かべて見下ろすのは鳴だ。

「コイツら全部お前が集めたのか? 成宮」
「そ!あとは一也、お前が来てくれたら理想のチームができる……んだけど巴は?」
「あーあいつ受験勉強中だから無理だってさ」

嘘だった。受験勉強中なことは確かだろうが、そもそも巴にはこうして呼び出されたことも話していない。今頃何も知らずに家で勉強しているはずだった。

「なーんだ、まあいいや。一也にも稲実からの誘い来てんだろ?だったら一緒に最強チーム作ろうよ。どうせ巴はオレと一緒のとこ行きたいだろうしね!」

この口ぶりからするに、どうやら巴のことも稲実に誘うつもりだったみたいだ。
鳴がニッと口角を釣り上げた。

「このメンバーが揃えば全国制覇だって夢じゃないよ!」
「稲実には実績ある国友監督がいるし、設備だって都内で一番充実してるからな。環境としても文句ないと思うぜ」
「何より成宮を敵に回さずに済む……」

確かに、稲実からのスカウトもきていた。
甲子園常勝の稲実はカルロスの言う通りに実績があり、設備も整っている。間違いなく都内有数の投手である鳴を敵に回さずに済むのなら、甲子園に行ける可能性だって跳ね上がるし全国制覇も夢じゃない。
夢じゃない――けど。


「悪りーけど、その話には乗れねぇな」

礼ちゃんがまだ一年生だった俺を見つけてくれた、そして一度も勝つことの叶わなかったあの捕手が進学した、あの学校に乗り込むと決めた。

「俺、ずっと前から青道に誘われてんだわ」

それに――鳴には悪いけど、実は巴も青道を進路の一つに考えてくれている。
オレが何を言ったわけじゃないが、前に本人がそう言っていた。
稲実ではなく、青道に行きたいと。

鳴のそばにだけは、巴を置きたくない。

「青道か……あそこは前の監督が辞めてからまだ一回しか甲子園に行ってないよ。国友監督の実績に比べたら、片岡監督はまだ若すぎると思うけど?」
「いやぁ〜〜そういうことじゃなくて……」

私、一也が楽しいのなら勝っても敗けても嬉しいもの。 

「こんなスゲェやつらが集まるチームなんだろ? だったら余計に戦ってみたくなる」

飾らない本心を伝えれば、お前バカかと罵られたが、この姿勢を譲る気はなかった。
勝っても敗けても試合は楽しい。相手が強ければ強いほど倒し甲斐がある。巴がそれで嬉しいって言うんだから、俺のこれは間違っていない。
実績が若かろうが設備がちょっと古かろうが鳴やこいつらを敵に回そうが、俺は青道で、こいつらに真っ向から挑んでやりたい。

「最後にもう一度だけ聞くけど――」
「ゴメン無理!!」

キッパリ断れば、鳴は不敵に笑いながら立ち上がる。

「カッコいいじゃん。けど……後悔しても知らないよ――」

後悔なんてしない。
するわけがない。

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