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目を赤くして千羽鶴を差し出した貴子先輩の後ろから顔を出してみたけれど、原田さんの横に鳴の姿はなかった。
国友監督の姿も見えないから、恐らくまだインタビューを受けている最中なのだろう。
原田さんに千羽鶴を渡した貴子先輩が嗚咽を押さえて去っていく。
選手のほとんどはもう先にバスに戻っているから、自分たちも早く帰らないといけない。
「……巴、先に戻ってるね」
「うん。ごめんね、早めに追いかけるから」
唯ちゃんがこちらを一瞥した。遠ざかっていくマネージャーを見送り、原田さんを振り返る。
「……鳴ならまだだ」
「…少しだけ待たせて頂いてもいいですか?」
「どれくらいかかるかは知らねぇけどな」
稲実の選手たちの戸惑った視線の中に、神谷くんや白河くんのものも混じっていた。
顔見知りの彼らを一瞥して、そして他の部員の顔も見る。吉沢さんに、平井さん、原田さん。
あの鳴が、自信と実力の塊みたいなあのキングが、背中を預けて戦った人たち。
数分ほど待っていたのだろうか、体感時間では僅かの間だったと思う、ようやく鳴と国友監督の姿が見えてきた。
鳴は私が原田さんの横に並んでいることに気付いて目を丸くする。私の数歩手前で立ち止まると、彼はきゅっと唇を引き結んだ。
成宮鳴との付き合いは決して浅いものではない。
遡ってしまえば赤ん坊のころからだ。あの御幸より長い。
昔は家が隣同士だったから、よく一緒に画面に映る野球を見ていたし、彼の野球も御幸と同じくらいに見てきた。
顔を合わせればでたらめななことばかり言ってくるけど、
彼が底なしの才能と実力を持つ投手であること、いつも偉そうなことや大きなことを言うのは自らの退路を断つためであること、その発言に伴う投手になるために常に重圧と戦っていることを知っている。
――二人とも口を開くことなく見つめ合った。
アイスブルーの目がこちらを見つめている。
冷たい炎を揺らめかせる双眸。
どちらからともなく距離を詰めて、流れるように手を取り合った。
「おめでとう……鳴」
「行ってくる」
そのまま腕を引かれて抱き寄せられる。試合を終えたばかりの投手の体は火傷してしまいそうなほど熱い。
子どもの頃は私より小柄だった彼は、いつの間にか私の背を追い越していた。
「頑張って」
「うん」
「頑張ってね、鳴」
「今度はあんな敗け方しないよ」
ぽんぽん、背中を二度叩いたところで体を離す。
鳴が歯を見せて笑った。いつもの、自信満々のキングの笑顔。太陽みたいにまぶしい。
「だから、お前のこの夏、勝手に託された」
私には私の一年があって、彼には彼の一年があった。
そしてこれから私には私の夏が、彼には彼の夏が訪れる。秋も、冬も。
そうして迎える一年後、最後の夏、私たちはどんな言葉を交わすのだろう。
その日帰りついた青心寮で、優勝祝賀会用に用意されていた料理に一切手を付けず、三年生たちは泣き続けた。