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稲城実業高校は、今日の準決勝で勝利を収めて決勝進出を決めた。
連投の疲れからか成宮は初回に二失点。それでも尻上がりに調子を上げて、そこから八回までは完璧に相手を抑え込んだ。リリーフした井口投手がもう二点取られたものの、打線の援護もあって危なげなく試合を終えている。

夜、巴が食堂で練習試合のスコアを清書しているとき、御幸に声をかけられた。

「どうせ鳴から連絡来てたんだろ?調子どうなんだよ」
「まぁ初日のとき以来きてないけど。……やっぱり緊張するみたい。
チームメイトには偉そうなこといっぱい言ってるから、いつも通り奔放に振る舞ってるんだろうけど、電話する時はちょっと……変な感じだったよ」
「ふーん」

面白くなさそうな声音になった彼に目を瞠ったところで、机の上に置いていた巴の携帯に着信が入った。
噂をすれば、巷で人気の“都のプリンス”からだ。巴はすぐに手に取り、御幸に無言で目配りしてから食堂の外に出た。

「…もしもし、どうしたの?鳴」
『巴!ねー聞いてよ!オレ、プリンスだってプリンス!いやーメディアも良いセンスしてるよね〜』

電話に出てみれば、成宮はいきなり最近ついた自分の呼び名にご満悦といったようすだ。
またも緊張で電話してきたのかと思えば、そうでもなかったのか。巴は彼の話に耳を傾けることにした。

『オレがプリンスってことは、巴はプリンセスか〜。いいじゃん、似合うじゃん』
「…鳴、そんなことを言ってる暇があったら、」
『約束!』
「?」
『あの時の約束、ちゃんと守ってよ!ここまできたんだから』

以前電話したときも言っていた、成宮の言う“約束”。
どうやら巴は成宮と何か約束を交わしているのか、しかし巴自身には見当もつかないことだった。

「ねぇ、この前も言ってたけど、約束って…なんのこと?」
『……はぁああ!?』

耳元がキーンとしそうなくらいの叫び声だった。
思わず携帯を遠ざけてしまったほどに。

『覚えてないの?!オレ、ずっと覚えてたんだけど!なにそれ!忘れるとか酷くない!?』

きゃんきゃんと騒いでいる成宮に、今は何を言っても聞きそうにないので、彼の罵声が終わるまで待つことにした。
そうしてようやく落ち着いたところで、再び巴は耳を傾ける。

『………ガキの頃、まだお前が隣の家にいたぐらいんとき。甲子園の中継一緒に見ててさ、』

成宮に説明されていくなかで、巴は過去の思い出を探った。
子供のころに彼に誘われてテレビで見た甲子園を、あの時に交わした言葉を――

――すっげー!勝っちゃった!
かっこよかったねぇ
な?すげーだろ、オイラもいつかあそこで戦ってやるんだ!
ほんと?鳴ちゃん、こーしえん出るの?すごい、巴も連れてって
いいよ!巴ひとり連れてくのなんてかんたんだもんね!オイラがてっぺん取るとこ見てろ!
わぁ一番になっちゃうの?鳴ちゃんかっこいいねぇ
かかか、かっこいいか?
うん、王子さまみたい
そ、それなら巴はお姫さまだな!
お姫さま?
オイラが一番になって、巴がオイラのお嫁さんになったら、お姫さまになるんだ!
すてき、巴、お姫さまになりたい。鳴ちゃん巴のことお嫁さんにしてね
じゃ、じゃあ約束だ!こーしえんでてっぺん取ったら、オイラのお嫁さんだぞ!
うん、約束ね


***

パタン、と食堂の扉が閉まる音がした。
御幸がスコアブックから顔を上げると、通話が終わったらしい巴が戻ってきた。
随分長いこと電話していたようだが、一体何を話していたのか、気にならないといえば嘘になる。

「長かったじゃん、何、鳴のやつ緊張で眠れないって?んなキャラじゃねー………っておい、どうした?」
「え、あ、うん、試合頑張るって…言ってた」

椅子に座った巴の雰囲気がどこかおかしい。
再びペンを持っても、その手が動く気配がない。何か考え込んでいるようなそんな様子だ。

「ふーん…そんだけ?」
「…ううん、いや…そうじゃなくて、だから、その…」
「なんだよ、鳴のヤツに何か言われたのかよ」
「………日本で結婚できる年齢っていくつ?」
「……はい?」
「いくつだっけ、」
「…男子は18、女子は16だろ」

どうして急に結婚の話になったのか。
御幸はますます分からないといった感じで、巴に問いかける。

「なぁ、一体なんの――」
「私……来年、結婚かも」
「……え、」

ポツリと呟いた巴はガタンと突然椅子から立ち上がり、無駄のない動きでスコアブックとペンを片付け食堂を出て行った。
残された御幸は固まったまま微動だにしない。
そして一言、

「……俺と?」

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