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八月のこれまでの練習試合の成績は、二軍戦も含めて八勝四敗。
勝ち星が先行してはいるもののやはり得点力に乏しく、圧倒的勝利という試合はなかった。クリーンナップがごっそりと抜けた打線はうまくつながらず、チームの形も見えないまま、手探りの日々が過ぎていく。
しかしこの不安定な状態が、一年生たちにはレギュラー入りの希望を与えた。
それに煽られた二年生も気合いは十分入っている。チームの雰囲気は決して悪くなかった。

夏休みも残り一週間に迫ったそんなある日、新しいコーチを迎え入れるという話が部員に伝えられた。

「……どう思う?」

昼食前に監督と太田部長から通達されたこの件に関して、頭の回転の速い御幸は訝しく思っているらしい。
いつも通り食堂で野球部日誌をつけていると、ぽつりと短く尋ねられた。

「まあ……コーチも監督もほとんどがOBのうちで、わざわざ外部から招聘されるっていうことは、それだけ凄い人っていうことなんでしょうね」
「それはそうだろうけど。なんでこんな時期に……」
「……学校側が考えたんでしょう。ここのところ、甲子園に届いていないから」

言葉を探り探り答えたけれど、御幸は聴いているのかいないのか、「ふん」とも「はん」ともつかない適当な相槌を打っている。

「甲子園か……」

魂の抜けたような間抜けな表情と声でそんなことを呟く横顔を眺めながら、だいぶきてるな、と心の中で思う。
それでも野球に関することで弱音なんて吐かないし、幼馴染である巴ににそんなことを聴かせてくれたことはない。基本的にあらゆる感情や経験は野球に対する熱にして発散するタイプだ。

御幸の目指すべき野球やチームとの向き合い方は確かにあって、彼は今迷いながらそれを捜している途中。

「前任は神奈川の甲子園常連・紅海大相良。うちではあまり専門的に取り組まないフィジカルトレーニングに造詣が深いというなら、片岡監督とはまた別の視点から指導を頂けることになるでしょうね」
「…………」
「まあまだ遠くから眺めているだけみたいだけど」

昼前、沢村に声をかけている姿を見かけていた巴。
あの人の招聘に関してこれから部員たちも複雑な気持ちを抱くことになるのだろうが、新コーチの存在なしに秋大快進撃はありえない。チームにはうまい具合に馴染んでもらって、相性のいい子はどんどん教えを乞うた方がいい。

とはいえ、そう簡単に気持ちが切り替えられれば苦労はしない。
まずは部員の気持ちが秋大に向けて一つになる方が先だろう。

なにか、ひとつ。
チームの起爆剤になるものがあれば。

***

二十七日に行われた千葉尚大戦では、薬師戦に向けて気合十分のAチームの打線が久々に好調をキープし、第一試合は降谷―沢村のリレーで六対二の勝利を収めた。第二試合ではBチームの川島と金田のリレー、捕手は小野で挑んだものの惜敗を喫している。
投手陣の反省会が食堂で開かれているのを眺めながら、隅っこで日誌を書いた。

「今日の反省点はわかってるみてーだな、沢村」

御幸の一言に、沢村が掌を握りしめる。

第一試合、九回表。
ツーアウト二・三塁で御幸の要求はインコース。
インコース攻めでこの夏を戦い抜いてきた沢村に対して当然の要求だった。彼自身もそれがわかっていたはずだ。

ボールは御幸のミットから離れた位置へと放たれ痛打を喰らい、一点を失うことになった。
もともと点差はあったし、その後の打者が続かなかったから試合自体は逃げきれたけれど、あれは沢村の失投だ。

「明日の薬師はそんなに甘くねぇぞ」

夏の再戦。
あの時はエース丹波のおかげで勝てたけれど、今のうちに足りないものを全て持っているといえるチームに、どの程度通用するものだろうか。

「降谷の課題は走者を背負った場合のピッチング。川上は低めのボールにいかに手を出させるか。……試したいことはいくらでもあるけど、とりあえず夏休み最後の試合。公式戦のつもりで勝ちに行こうぜ」

巴はひとり、沢村の強張った表情を横目で一瞥して、なんともいえない気持ちになった。

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