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八月二十八日――夏休み最後の練習試合の日。
第1試合の有田戦は1軍スタメンをメインとして行われた。
選手の状態の確認ができると控え選手と交代をしていた。

そして試合も終盤になってきたとき、巴はベンチを抜けた。
次の相手となる薬師が到着する頃で待機場所を案内するためだ。
Aグラウンドを出て進んでいくとすぐに薬師のユニフォームの団体が見えた。

そして立ち止まった様子の薬師の面々は全員同じところをフェンス越しで見ている。
巴もまたその方を見るとそこにはメラメラと闘志を燃やしてる沢村と降谷の姿が。彼らの様子からおおよそのことは想像できた。

「薬師高校のみなさん。今日はわざわざお越しいただきありがとうございます。待機場所にご案内します」

巴が声をかけると全員がこちらに反応した。

「び、美女だ!」
「噂の“青道の女神”か…!」
「いいなぁ青道、美人のマネージャーがいて」

薬師の選手たちがざわつきだす。
“青道野球部の美人マネージャー”の存在は他校にも噂が広まっており、それは薬師も同じだったようだ。
しかし巴はそんなこと全く気にもせず、淡々と自分の仕事をこなすのみ。それに――

「巴せんぱーい!!今日も一段とお美しいです!!我が青道の誇り!」

こういったことは日常茶飯事のため、今更でもある。
沢村が大きく手を振って、さらに薬師の選手へ何故か余裕そうな顔をみせた。

「ぐぬぬぬ、自慢してきやがってぇええ」
「ミッシーマ!どうした!何をそんなに震えてんだ?」
「どうして俺らには美人のマネージャーがいねぇんだよぉおお」

薬師の三島が轟に八つ当たりをして、周りがそれを止めに入る。
そういった光景は青道と似ているようだ。

「薬師の皆さんこちらに…」

再び薬師の面々を案内しようと振り向くとそこには至近距離に、薬師のピッチャー真田がいたため、驚きのあまり声を詰まらせた。

「アンタの名前、巴っていうんだね」
「あ、はい」
「ふーん、俺は真田俊平。よろしくな“巴ちゃん”」
「はぁ…どうも」

真田がスッと手を差し出してきた。握手のつもりだろうか、巴もおずおずと手を伸ばそうとする。
しかし、それを見ていた青道投手2人は黙ってみてるはずもなく。

「ちょッ!あんた!ウチの巴先輩をナンパか!?許さーん!!」
「…そうだ、そうだ!」
「はは、セコムかよ」

野次を飛ばしてくる沢村たちに巴は溜息をこぼし、「次のアップにいきなさい」と声をかけると、二人は渋々といった様子で移動していった。

「では薬師の皆さんもこちらにどうぞ」

そして巴も薬師メンバーを待機場所に案内した。
向かう間、真田はずっと巴のとなりで話しかけていた。
しかし今度は反対側に、これまた珍しい選手が話しかけてきたのだ。

「カハハ!ビジマネさん!ビジマネさん!」
「…轟くん」
「どうぞ!バナナッス!」
(というか…ビジマネさん?)

轟はなぜか巴にバナナを差し出す、戸惑いながらもそれを受け取る巴だったが、それと同時に自分の呼び方に疑問を浮かべた。

「ミッシーマたちが青道の美人マネージャーさんって呼んでたから、略してビジマネさんって決めました!!」

普通に苗字を呼んでくれて構わないのだが、別に悪意はなさそうなので特に突っ込まないことにした。
それに彼の好意は、他の薬師の選手だけでなく青道にもあまりいなさそうな程に純粋に感じられたというのもあった。

「…これ、ありがとう。頂くね轟くん」
「かっ、…カハハハハ!」

照れているのか顔を赤らめた轟はひたすらに笑っていた。

***

薬師メンバーの案内から戻ると、有田戦は終わっており、次の試合に向けての準備が始まっていた。
そんななか御幸は戻ってきた巴の手にあるバナナが気になった。

「おい、なんだよそれ」
「薬師の轟くんからいただいたの」
「はぁ?」

理解に苦しんでいる御幸だったが、その話を聞きつけた沢村がすぐさまこちらに来た。

「巴先輩!ダメです!そのバナナを食べちゃ!危険です!やつらの罠です!」
「んなわけねぇだろ、何言ってんだお前は」
「いやいや!わかりませんって!これは俺が処理しますから!」

そう言うと沢村は巴の手からバナナを取り、それを剥いて自分の口に詰め込んで食べる。
あまりにも勢い良く食べたためむせてしまった沢村に、見かねた小湊弟が水を差し出していた。

「バカかアイツは、試合前だってのに」
「でもよ食べるだけが処理じゃねーだろ」
「…まあ確かにな。女子にバナナってのがいただけねーな」
「あぁ、なにしろバナナだしな」
「バナナかぁ…形がなぁ」

バナナの何が良くなかったのだろうか。
御幸と倉持の男だけの会話についていけない巴は、深入りせずにいようと思ったのであった。

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