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昼休み、食堂で昼食をとってから教室へ戻ると、御幸はいつも通り席についてスコアブックを広げた。
倉持は前の席の人の椅子に寄りかかりながら「どーすんだよこれから」と唇を尖らせる。
いつの試合のかなと首を傾げて覗き込むと、この間の薬師戦だった。

「何が?」
「沢村だよ沢村!薬師との試合は散々だったけど、あいつだってチームにとっては貴重なサウスポーなんだし、秋の大会には必要な戦力じゃねーのか」
「ふーん……随分気にかけてんだな」
「違げーよバカ!!」

沢村のイップスは、ささやかな動揺とともに部員たちの間で囁かれていた。
いつだって前を向いて、降谷という怪物が隣にいながら投手の道を突き進んできた、その迷いなく明るい姿をみんな知っている。だからこそ、あの沢村が精神的な障害を抱えてしまったこと、ひどく落ち込んでいることを、部員の多くは少なからず気にかけているのだ。
同室の先輩である倉持は余計に。

「……今は後輩を気遣うよりも、得点力の低い打線をなんとかする方が先なんじゃねーの?」
「そりゃそうだけどよ!あいつも今じゃチームのムードメーカー的存在だし」
「大会が近付いた今、優先すべきは個人よりもチーム。監督も好調な選手を優先して使うと言ってただろ」

どこか冷たい物言いに、倉持が机を殴りつける。
クラスメイトの視線が一斉に彼らに向いた。

「んなことはわかってんだよ! けど放っておくわけにはいかねーだろ!!」

その怒声に、廊下を通りがかった小野と関が「おい、倉持」「どうした?」と教室を覗き込んできた。
顔を見合わせながらもおずおずと近付いてくる。

「この間の試合――沢村があれだけ悪かったのは俺にも原因がある」

御幸は視線を上げずに息を吐いた。

「薬師との試合、あいつなりに大きな課題を持って挑んだんだろう。ましてや降谷に目の前であれだけの投球をされたら――」

あの薬師を相手に、六回無失点。
決勝のデッドボールだけじゃない。彼の気持ちの焦りに気付いてやれなかった、それで声をかけてやることができなかった、自分たち先輩の方にも原因はある。

「あの日は投げる前から敗けてたんだよ……気持ちがな!」

倉持が息を呑んだ。
冷たい言葉選びや話をする順番がうまくないせいで自ら誤解を招きがちだけれど、実際御幸はチームの誰よりも、沢村くんのイップスに責任すら感じているはずだった。

「そこまでわかってんなら何で……」
「大事な戦力だからだろ?――イップスなんかで潰れてもらっちゃこっちが困るんだよ!」

イップスなんか。
沢村が苦しんでいるものをそんな言い方ないだろうと思わなくもない発言だが、それが飾らない彼の本心だと倉持も解っているから、「……お前言ってることメチャクチャだぞ」と溜め息をついた。

「で、どんな感じだよ沢村は」

そして御幸はそれまでの話を傍らで読書をしながら聞いていただけの巴に話をふってきた。

「……春も、誰に言われなくてもずっと走っていたから。きっとこの間に自分と向き合って何かしらの答えを出すような気がする。監督もその辺を分かっていてランニングにしてると思ってるけど」
「抽選日は四日。秋大は待っちゃくれねぇし……結局のところは本人がどこまで這い上がってくるかだからな」

秋大。
青道にとって大きな、とても大きな山となる大会。

「抽選日、土曜だけどお前来るだろ?」
「…私もいくの?」
「え、来ねーの?」
「貴子先輩は行ったことないって聞いてるもの」
「えー、行こうぜ巴ちゃーん」
「そんな風に言うなら行かない」
「いや待て、二人で行っとけ。御幸一人でクジ引かせたらどんな強豪と当たるかわかったもんじゃねー」
「どういう扱いなんだよ」

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