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打席に目をやった。
辞任を控えていながらも選手たちには何も言わず、いつも通りの指導をしてくれる監督が、主審として立っている。
選手たちが走り出すその背中を見送りながら、沢村が「こういうことってよくあるのか」と金丸に訊ねる。
聞かない話ではない。青道のような甲子園に行くことが目的の強豪校では、実績が残せない監督を替えることもある。高校野球はそれほどのレベルにあるのだ。
守備の配置が整い、先頭打者の坂井がベンチから出てくる。
「あのピッチャーノーコンすぎて話にならねぇ」という伊佐敷の怒声に煽られた降谷が、いつも通りオーラを立てながら燃えているのに対し、御幸が「降谷!」と声をかけた。
「もう先のこと考えなくていーぞ。全力で来い!
先輩たちを力で捻じ伏せてやろうぜ!」
開き直った御幸の強気のリードが冴え渡り、降谷もやっぱり全力投球が気持ちいいのか、二回裏は三人でシャットアウトし無失点に抑えた。無謀ともいえる真っ向勝負に倉持が怒っていたものの、御幸は楽しそうに笑っている。
「こんなんが上位の打線に通用するわけねーだろ!!」
「けど燃えんだろ!?」
そしてまた笑いながら無茶苦茶を言いだす。
飄々とした御幸の若干無神経にも思える言動、それに憤って文句をつけながら負けん気を発揮する同期たち、というのが彼らの代の特徴だ。
丹波も調子がいいけれど、いい方にスイッチの入った降谷も絶好調。ここからは投手戦になるかもしれない。あとは打線だけれど、いまの得点力で丹波を打ち崩すというのも難しいだろう。
三回表、絶好調の丹波の前に三者凡退。
三回裏2アウト、ランナー二塁でまた結城の打順が回ってきた。
結城相手にも真っ向勝負のバッテリーは迷わない。あの結城を、空振り三振に切って取った。
そのおかげで現役チームも段々と声が出始める。やはりマウンドの投手が強敵を倒せば野手にもベンチにも追い風が吹くようだ。
「川上、沢村、お前らもいつでもいける準備しといてくれよ」
「おい、川上はわかるけど沢村もかよ……」
アウトローに活路を見出し、狩場や金丸と一緒に投球練習をしているけれど、その精度はまだ実戦で使うには程遠い。しかも沢村は、あの薬師との練習試合以降、マウンドには立っていないのだ。
何かを考えこむような表情で、御幸はグラウンドに立つ監督の後ろ姿を見つめた。
「ああ、絶対経験しておいてほしい。この先の戦いを考えたらな。
獲るぞ、秋大。
俺たちが秋大で優勝すれば――センバツ確定だぜ」
引退試合は延長十四回、野手や投手を次々交代しながら全員一丸、そして楽しく戦い抜き、最後には新キャプテン曰く「先輩方に花を持たせた」結果となった。