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その後、試合前のベンチはいつもと空気が違った。二年生中心にどこかぎこちない。特に前園と御幸。間違いなく昨日のことが原因だった。
それでも試合となれば別だ。今日は稲実を倒した鵜久森との試合なのだから。
「センター前!」
試合は初回、フォアボールやホームランで3点先制されたものの、直後の攻撃で御幸と前園の連続タイムリーで2点を返した。 今のこのに雰囲気の中でキャプテンである御幸が打ったことは大きい。
その後三回裏の攻撃でも御幸はホームランを放ち、逆転に成功。守備では盗塁をことごとくアウトにし、今日は存在感が出ている。
点差は開く一方なのに、鵜久森ベンチは相変わらず空気が明るい。その明るさは青道にとって不気味に思えた。
その不気味さは、八回表で明るみに出た。
稲実に勝利したことから観客を味方につけ、会場は一気に鵜久森のホームグラウンドのようになった。
そして四番ピッチャーの梅宮の一打。この回エラーも絡み4失点。点差はわずか1点。
「最終回、沢村で行くぞ!」
最終回の守備、マウンドを任されたのは沢村だった。
梅宮を前に最後インコースできっちり抑え、なんとか勝利をものにした。
試合終了のアナウンスが響き、両チーム整列する光景を安心した心境で見つめる巴。
そしてベンチに戻ってくる青道ナインを笑顔で迎え入れた。
「お疲れ様」
「巴せんぱーい!!俺やりましたぁーーー!!!」
巴に勢い良く飛びつこうとする沢村だったが、早々に彼女の平手打ちを食らう。
そっれでもアドレナリンが出まくっているのか何故かさらに嬉しそうに笑っていた。
「愛の鞭あざーっす!!」
「きめぇんだよ!」
その後倉持の蹴りが入り、そこでようやく痛みに悶えていたが。
***
球場の外に出るとたくさんの人から激励の声を受けた。
そんな人混みの中で巴はある人物を見つける。
「お父さん、お母さん…?」
巴に向かって笑顔で手を振る両親の姿があったのだ。
気付くとすぐに2人の傍に駆け寄る。
「来てたんだ」
「せっかく近くで試合やってるから見に来ようと思ったのよ」
巴の両親ということもあって、どちらも綺麗な顔をしている。
傍から見れば輝かしいような一家だ。
その月代家の姿に気づいた御幸もこちらにやってきた。
「こんにちは」
「おっ、一也くん!ベスト8おめでとう!良かったな!」
「ありがとうございます」
「本当はね、御幸さんも一緒に来るわけだったのよ。でも今日どうしても来れない予定ができちゃったみたいで」
「そうですか。でも、江戸川でやるのは今日で最後ですけど、まだこれからも試合は続くんで」
「はは、頼もしいな」
「またみんなで応援に来るからね」
御幸が巴の両親と会話しているところを離れた所で見ている青道メンバー。
バスが来るのを待っているのだ。
「あの人たちは誰ッスかね?」
「月代の両親だよ、多分」
「え!そうなんですか!?じゃあ俺、挨拶に行かないと!」
「いやなんでだよ!?」
倉持が疑問に思うなか、沢村も元気に巴たちの元へやってきた。
「どうも!自分は今回の試合の英雄の沢村栄純です!」
なんとも自信のこもった自己紹介をする沢村。
「君が沢村くんか!最終回すごかったな、良く抑えたよ!」
「ほんとうに、今日のヒーローだわ」
「ありがとうございます!おー!巴先輩のご両親からお墨付き頂いたぞー!!」
褒められた沢村は倉持たちがいる所に向かっていらぬ報告をした。
「あのヤロー、調子に乗りやがって…後でシメるしかねぇな」
「はは…栄純くん、あんまり言いふらさない方が良いのに」
倉持と春市の会話はもちろん沢村には聞こえずにいた。
こちらは少し離れた所でその青道メンバーを見ていたある偵察の生徒。
「豪ちゃん、アレ、例のマネージャーだよ」
「あ?どこ?」
「ホラ、あそこの黒髪の人。ほんとに綺麗だなぁ」
「けっ!クソ名門め!女も寄ってくるってか」
この2人は青道の次の対戦相手となる王谷の野球部員であった。
彼らがコチラを見ていることなどまだ青道メンバーは誰一人知らずにいた。