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中学三年の秋。
巴は進路希望のプリントを自分の机に置き、見つめ続けること五分。
まだ提出先は一週間先だが、今のところコレと言えるような学校が浮かんでこなかった。
成績優秀だったことから担任からは県内の進学校ならどれも難しくないだろうと言われ、確かに進路先は豊富に選べたが、逆に今度はどこに行けばいいのか分からなくなってしまったのだ。
もしこのまま自分の希望がなければ、実家から通いやすいそれなりの進学校に通うことになりそうだが。

「悩んでんなァ、巴ちゃん」

前の席の椅子に座って話しかけてきたのは幼馴染の御幸だった。
今は放課後、教室に残っているのは巴と彼しかいない。

「…御幸は、前に言っていた青道?」
「おう、一年のときから誘われてたし。そこしか考えてねーよ」
「よかったね、そんなに早くから進路決まってて」

高校野球の名門校に行くというのは、前々から聞いていた話だった。
昔から野球漬けの彼には迷うものなどなかったのだろう。

「私は、どうしよう」
「おじさんたちは何か言ってねーの?」
「お父さんたちは、私の好きなようにしなさいって言ってくれてる」
「ふーん」
「……稲実に行こうかな」
「なんで?」
「鳴が行くみたいで、お前も来いって」
「はっはっは、なんだそりゃ」

実は自分も成宮に同じことを言われたのだが、御幸はあえてそのことは伏せておくことにした。
そもそも二人を一緒の学校に通わせたくないというのが本音なのだから。

「稲実には進学クラスもあるし、校舎も最近建て替えたみたいだから…知り合いがいるならまだいいかも」

全く知らない場所でスタートするより、それなりに顔見知りがいた方が過ごしやすいこともあるだろう。
大人しい性格の巴はそこまで顔が広いわけではない。しかし、

「知り合いがいるってんなら、俺もじゃん」
「え?」

御幸にとってそれだけは避けなければならないことだった。

「俺と一緒に青道いこうぜ」
「…御幸と?」
「しかも今なら、甲子園のチケットつき。お得だと思うけどな」

ニシシと笑いながらそう言った。

甲子園に連れて行く。
だから一緒に青道にいかないか。

御幸の突然の言葉に、巴は目をわずかに見開き驚いた。
そして御幸はさらに続ける。

「俺の野球、傍で見ててよ。

青道に行ったこと、ぜってぇ後悔させねーから」



それから結局、巴が進学先を青道に確定したのは受験シーズン直後のとき。
複数の学校を受験し、そのなかには青道もあった。結果は全て合格。
巴は数々の学校のなかから青道を自分で選んだのだ。

だが、流石に決めるのが遅かったことから、実家を離れることになるとは両親も思っておらず、引っ越し場所を全く考えていなかった。時期的にも学校近くのアパートは殆ど空いていなかった。
どうしようかと思っていたとき、御幸の計らいで高嶋先生によって今の寮を借りられることになったのだ。
やっと問題解決、かと思ったら今度は巴の両親が反対しだした。
いくら学校の寮であっても、年頃の女子高生が近くに男子寮があるのに一人で暮らすなど断固反対だと。
巴も自分で学校を選んだとはいえ、流石に両親に心配をかけたくはなかったので、別の学校へ入学しようかと考えはじめた。

しかし―――

「巴さんは俺が必ず守ります。…お願いします。一緒に青道に行かせてください」

御幸が巴の両親に頭を下げ、願い出たのだった。
彼のそのときの真剣な表情を巴はきっと一生忘れないだろう。
そして両親もそれを見て、御幸への信頼からようやく了承してくれた。

自分のためにここまでしてくれる幼馴染。
降谷に祖父がいてくれたように、巴にも御幸がいなければ、今、青道にいなかった。

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