そうだ、慰安旅行に行こう3
「いっ、慰安旅行っ!?」
一斉にざわめく食堂。1・2年全員の言葉に伺うまでもない。
「どこ行くんですか?」の質問は、そのまま参加の意思表示ととらえて良いだろう。
「ん、まぁーそれをこれから決めるわけだけどさ…」
俺さっきやったから、誰か司会変わってと言い出す御幸。
前に立って喋ってもらうんならやっぱりナベだろ?という彼の無理矢理な理由で、司会が渡辺にチェンジした。
嬉しそうに椅子に座る御幸。
巴は御幸がいた場所から斜め後ろに立っていたが、結局お前も座れと言われて同じく席に座った。
「えーっと?場所を決めればいいの?」
「あぁ、3泊4日いいらしいぜ」
部員たちは皆、どこに行こうかと楽しそうに声を交わしている。
どうやら相当楽しみなようで、巴はその姿を微笑ましく見ていた。
「巴先輩!巴先輩!」
「?」
「なんかっ、すっげーワクワクしますね!」
「そうね」
「巴先輩はどこ行きたいですか?!」
沢村が目をキラキラさせながら話しかけてきた。
巴としては、秋大で一番頑張ったのは選手たちなので彼らが行きたいという場所ならどこでも良かった。
「沢村は中学どこに行ったの?」
「東京でしたよ!俺!関西行ってみたいですよ!大阪とか京都とか楽しそうですよね!」
「バカ、関西はねぇよ」
「なんでだよ!!…っですか!?」
「ここにいる関東勢は皆ほとんど中学の修学旅行で関西方面に行ってるの。
3年生もそう言ってたし、たぶん関西は候補にも上がらないんじゃないかな」
「え!!3年っ…リーダー達も来られるんで!?」
「ああ、参加する」
「3年がいちゃマズいの?沢村」
「いいえ!大歓迎です!」
「沢村、話進めたいからちょっと黙って?」
「はい!ナベ先輩、すいやせん!!」
口を真一文字に結び黙り込んだ沢村は、持参していた電子辞書の電源を入れ何かを検索し始めていた。
「えーっと、じゃあとりあえず行き先の案と言うか…色々出していく?」
「そうだなー、北海道!」「沖縄!」「九州一周とか!」「俺、四国行ってみたい!」「韓国で肉を食べるとかどうだ?」「ハワイ!ハワイ!」
ここ(東京)から3泊4日の旅となると、それ相応の場所が候補に出てきた。
国内限定でお願いしますという渡辺の一言があり行き先の案が出揃う。
(1)北海道
(2)沖縄
(3)四国
(4)九州
「…北海道って、もう雪あんのか?」「まだじゃね?」
「沖縄ってまだ泳げる?」「さすがに寒くね?」
そのシーズン特有のレジャーも楽しめそうにない。
「四国って、うどんとみかんくらいしかよく知らねーんだけど…」
「お前それ四国の人に謝れ!」
「温泉あるじゃん!」
「それなら、北海道にも九州にも温泉あるだろ」
「北海道は行きたくありません…」
北海道出身の降谷が意見を言っていた。
確かに自分の出身の場所より、行った言葉にもないようなところへ行きたいだろう。
「あのーみなさん!!」
「なんだバカ、関西は行かねーぞ」
「いえ、あの!温泉は必ず行きますか?」
「泊まる旅館が温泉宿とか、あるんじゃないかな?」
「ふぉぉぉぉぉぉお!!」
「ごめん沢村…少し黙ってて」
「いいえ!聞いてつかあさい!」
つい先ほどまで黙っていた筈の沢村が、またも話し合いを遮るほどの大声を出す。
「慰安旅行と言えば、やっぱり温泉!浴衣!ですよ!」
電子辞書をバーンと突き出して、今調べてみました!と言う。
「慰安旅行とは、企業や団体などが日ごろの頑張りや成果などを労うために行う団体旅行のこと…らしいです!」
「何が言いたいの沢村?」
「だいたい皆意味分かってるから」
「ええ!それで夜は皆浴衣でワイワイやるのが楽しいで!」
「別に浴衣じゃなくても、」
「いいえ!なりません!!」
俺たち、秋大頑張ったじゃないですか!それで夏だって頑張ったし!」
だからこその慰安旅行なんですよね!?と、意気揚々と語る沢村。
「沢村ァ!!おめーはさっきから何が言いてぇんだ!」
沢村の長い前振りにしびれを切らした倉持が怒鳴りながら尋ねる。
「修学旅行は同学年だけで、色々厳しいじゃないですか!
だけど慰安旅行ですよね?無礼講ですよね?」
「…それ、お前が言うの?」
「そういうのは普通3年から言うもんだろお前…」
「沢村ってほんと面白いよね。まぁそうだね、旅行は無礼講でいこうか」
「おぉー!あざす!」
小湊兄の言葉を真正面から受け止める沢村。
しかし先輩の言葉を鵜呑みにしてる1・2年生は恐らく沢村以外にはいないような気がするが。
そうこう話しているうちにいつの間にか旅行先が決定した。
「じゃあ、北部九州って事で。みんなそれでいい?」
「へ〜い!」
「テーマパークも温泉も美味いものも盛り沢山だな!」
出身者もおらず、旅行で行った人も一番少なかった場所だった九州。
巴が行き先の欄に「北部九州」と記入していると、隣に座っていた御幸が覗きこんで来た。
「お前学校以外で旅行とか行ったことある?」
「うん」
「…へぇ」
すると御幸は何かを思いついたのか、巴にだけ聞こえるような小さな声で言う。
「夜、2人で抜けような」
「……え?」
「素振り、行ってくるわー」
突然の言葉に巴が顔をあげると、既に椅子から立ち上がってた御幸は手をヒラヒラさせて食堂を出て行く。
彼の言葉は本気なのかどうなのか、こればかりは幼馴染であっても分からなかった。