そうだ、慰安旅行に行こう4

巴がスタッフルームに決定した行先の書類を届けに行った後、食堂には一部の部員が集まって話をしていた。

「なぁ…俺さ、さっきチラッと聞いたんだけど…」

――御幸が月代さんに「夜、抜け出そう」って言っていた。

二年の代で女子マネは3人いるが、他の部員は当たり前だが男ばかり。
恐らく知らない人からすれば、単なる男子校の修学旅行にしか見えない。
そんな中、御幸は一人抜け駆けをし、“青道高校野球部の女神”とも呼ばれる学校一の美女の月代巴と親交が深い。
それを他の部員は怨めしそうに眺めているという状態。

――それなのに、夜抜け出す…だと?

「そんなの許されるか…」
「ふざけんな御幸…」

日頃毒舌を吐く御幸への鬱憤(うっぷん)も募り、2年の顔は強張っていくばかり。

「皆!思いだせ!確かにヤツと月代さんは幼馴染で巷じゃ「御幸と月代は付き合ってる」なんて噂も流れてるが…!」
「あの二人はまだ付き合ってなんかいねぇんだっ!」

その一言をきっかけに、そうだそうだ!と場の雰囲気が盛り上がっていく。
そう。巴と御幸は傍から見ると、普通の男女より距離が近く、傍から見れば付き合っているかのように見えるが、どうやらまだ御幸の一方通行で両想いではない。
つまり御幸からしてみれば、これを機に彼女といい雰囲気になってよろしくやってやろうじゃねーのというわけなのだ。

「御幸のヤツ…もしかすると、この機会に月代さんに告る気なんじゃねーのか!?」
「そうか!それで夜に抜け出そうと…!」
「なおさら2人きりになんてさせねえ!」
「よし、夜は何かにつけて二人を離れさせよう」
「その話、のった!」

妙な結束力が生まれ、昼は大目に見てやるが夜は調子のんなよ徒党が組まれた。
更には全員に呼びかけてみようなんて誰かが言い出した。乗らないやつがいるだろうか。
いや、たぶんいないだろう。

当事者のいないところで、どんどん話は広がっていった。
1年のところでは「先輩方の頼みなら、全力で邪魔します!」と、簡単に合意。
2年は「校舎でも部活でも一緒な上、旅行まで一緒なんぞ許さん!」と、ほぼみんな乗り気。
3年にいたっては「そろそろアイツも痛い目見ればいい」と悪い顔をしていたらしい。

***

太田部長から日程表が配られた。
とうとう行き先など色々な部分が全て決まり、後は出発を待つばかり。

「どれどれ、まず飛行機に乗って…」
「おっ!龍馬ゆかりの土地!」
「ちゃんぽんうまそーだな」
「へぇ、オランダの町並みだってよ!」
「ふぉぉぉぉ!温泉んんん!!」

日程表を見ながら騒ぐ部員たち。
盛り沢山の予定を輝いた目で見ている。
だけど、それはそれ。ちゃんと練習はしっかりこなす皆がとても頼もしい。

「旅行中の朝のメニューが今日あたり決定するから」
「げっ…」
「朝ァ!?マジか…」
「30分くらいだからな、全員参加だぞ」
「御幸、それって3年も参加?」
「え?あ、いや、そこは自由参加ってことで…」

楽しい旅行と言えども、毎日のトレーニングは欠かすな言う監督の言葉で一応きちんとしたメニューを持っていく事になっている。
宿泊先の中庭などを借りるため、あまり迷惑にならないようにしないといけない。

「素振りもエア素振りでなー」

もちろんマネージャーである巴たちも同じ時間に起きて練習を見守ろうと思っている。
荷物は増えない方がいいから何も持っていく予定はない。

「妃先輩っ!一緒の班になりやしょう!」
「なんで学年違うのに一緒の班になるんだよ」
「より九州を楽しむ為です!」
「いいよ」
「えっ!?」

巴が了承すると思っていなかったのか若干慌てている沢村だが、実は班編成は既にされていた。

「なーんだそうだったんですか!でも、妃先輩やっぱり俺の事っ!」
「ヒャハハハ!お前みてーなバカがいるとなんか楽しめそうだしよ!そういう理由だバーカ」
「ぐっ…」

結局班編成は、小湊兄・伊佐敷・増子・御幸・倉持・川上・沢村・小湊弟、に巴が加わった形だ。
といっても結局自由時間が多くあるので、殆ど滅茶苦茶になってしまうだろうが。

「5号室の3人は旅行の班も一緒だね」
「そんなに俺と一緒に居たいですか!んっ!?」
「…お前、さっきから言い方がなんかいちいち腹立つわ」
「気にしないで下さい!じゃ、俺ランニングいってきやす!」

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