そうだ、慰安旅行に行こう5
楽しみすぎて眠れない!というお決まりの台詞を言っていた者もいたが、練習をしていると時間なんて一気に経ってしまうものであっという間に出発日になった。
学校に直接集合になっており、その後バスで羽田空港へ向かう。
制服での旅行になる為、特に洋服選びには困らなかったが、色々荷物を詰めているとなんだかんだで多くなってしまうのが女子だった。
「おはよう、巴」
「おはよう」
巴がキャリーケースを引っ張りながら学校の駐車場へ着くと、部員がちらほらいた。
「おーっす」
「妃先輩おはようございます!!荷物持ちましょうか!」
「大丈夫、自分で持てる」
バスももう準備されており、必然的に皆その近くへ集合した。
「妃先輩は飛行機に乗られたことあるんですか?!」
「何回かあるけど」
「あの、ふわっとなる感覚いいっすよね!」
「ふわっ…ってなるのか?」
巴と沢村に会話に倉持が食いついてきた。
「あー!倉持先輩!修学旅行いってないからもしかして飛行機初め、」
「うるせー!!野球とか喧嘩ばっかしてたから飛行機乗る暇なかっただけだ!」
そんな話をワイワイしながら空港まで向かう。
朝早いんだから少し静かにしろよ、なんて御幸の言葉は誰一人聞いてないように思う。
キャリーケースを乱暴に引っ張りながら歩く皆を眺めつつ巴は一番後ろからついていくと、ふといつの間にか御幸が隣にいた。
当たり前のように隣を歩く彼に、巴は特に何も言わなかった。
「そういや月代ー、お前飛行機でどこ旅行行ったんだよ」
突然思い出したように倉持が前から話を振ってきた。
「修学旅行と、スキー場とか沖縄に…あとは、」
「っ!?まだあるのか!?いつ行ったんだ!いつ!」
「夏休みとかの長期休暇の時、あとは連休使ったり…、高校入ってからはないけれど」
基本、巴の家族は父親が仕事人間なため、家族旅行は殆ど行ったことがなく、もう一人の幼馴染の家族旅行に誘われて一緒に行っていたのだ。
それを聞いた御幸は、彼女の家のことをよく知っているため不思議そうに尋ねる。
「月代んちの親父さん、あんま家にいなさそうなイメージだったけど、旅行とか行ってたんだな」
「ううん。お父さんたちじゃなくて、殆ど鳴のご家族に連れて行って貰ってたから」
「…え」
途端、御幸の声が妙に静けさを増した。
僅かに眉間に皺が寄っている。
「…あいつ、毎年冬にスキー行ってるって前に聞いた事あるけど、それお前と行ってたんだ?」
「私とじゃなくて、鳴のご家族と」
「同じようなもんだろ」
つっけんどんな態度をとる御幸に巴も目をやった。
「今は?」
「?」
「今は行ってねーよな?」
「うん、そんな時間もないから」
「じゃあ時間があったら行ってたのか?」
「……御幸、めんどくさい」
延々と続くような会話の内容には流石に巴も呆れてしまい、逃げるように前の人物の隣へと駆け寄った。
「きききき、妃先輩!?どうしたんすか!?
そんなにオレが好きとかっ―――「このバカ村、月代から離れろ!」
み、御幸一也ぁああ!邪魔をするなぁー!」
「だからオレ先輩だし!いいから、離れろ!ソイツの隣はお前には10年早いんだよ!」
「ヒャハハハ!沢村、御幸に負けんなよ〜!」
「おい後ろ!騒がしいぞ!」
***
空港に着くと、かなりの青道野球部員が既に到着していた。
太田部長から搭乗券を受け取り、荷物も預けて再び解散となる。
飛行機の中で軽く食べられるものと飲み物を買い、ソファーに座って時間を潰していると携帯に通知が届いた。
宛名は成宮だった。「今どこにいると思う?ふふふ…」と、スタンプまで付いている。
「誰?」
巴の隣にドカッと座るようにしてやってきた御幸。
「鳴から」
「ライン?ブロックしとけ、ブロック」
ちょっと貸して、と御幸に携帯を取り上げられたかと思えば何かを入力している。
「おっし、はいよ」
返された携帯の画面には、
『今、一也と一緒だから都のプリンスちゃんは邪魔しないで!
う・ざ・い・☆』
あのクールビューティー巴が入力しそうもないような内容がかかれている。
なんてことしてくれたんだろうと傍観していれば、すぐに既読の文字が付いた。
はっ!?という顔をしたキャラクターのスタンプが送られてきた。
「ほら、もうすぐ搭乗だから。電源落とせよ」と御幸が言うので、返信する間もなくなり仕方なくそのままポケットにしまい、長崎に向けて出発したのだった。