そうだ、慰安旅行に行こう9

「ちょ、待て御幸…別に置いて来たわけじゃ…」
「そうですよ!俺ちゃんと巴先輩を出口まで連れて来た…つもり…で…」

「小湊…」
「っ!はいっ!」

明らかに怒っていて二人の声はあまり届いていない様子の御幸は、小湊の手首を掴んでみた。

「…お前らさ、いくら小湊が細めだからって月代の細さと間違えんなよ。ったく…」

これにピクッと反応したのは外野。

「悪かったな、アイツの手首がどのくらい細いとか俺知らねーしなぁ!?」
「今の自慢ですか!?俺は細さ知ってるぜって言う自慢!?」
「…うるせえ、もういい」

御幸は出口に向かったがその場にいたパークスタッフに何やら言われ、所在なさそうに首をさすりながらすぐに戻ってきた。

「断られたのか」
「…あぁ、こっちから入れないって。
もう1回入ってくるわ、お前らどのへんではぐれたんだよ?」
「手術室ゾーンに入ったあたり…あぁ、俺も行くわ」

倉持も責任を感じて一緒に行くと言い出した。
そうして急いで入り口の方へと走りだそうとしたとき、御幸の携帯に着信が入った。

「あ、ちょっと待っ…月代だ!」

スマホの画面には巴の名前が表示されていた。

「もしもし!月代!?」

***

こちらは少し前、まだはぐれていなかった頃。
脱出口を探している時に突然横からバケモノが飛び出して来て、なんとなく男3人がつられて叫んだ。

「おわぁぁぁ!!」

実は最初の沢村の叫び声が響いたあと、巴は小湊弟から手を離し耳を塞ぎながらその場にペタンと座り込んでいた。
いや、正確には若干腰を抜かした…と言った方が状況的には近い。
悲鳴も出ない程の怖さだったのだ。

そして巴がようやく我に返ったとき、バケモノの声も皆の声もしなくなっていた。
辺りが静かなのに気付き、少しだけ顔をあげる。

「…皆…どこ?」

小さくか細い声だった。涙を拭って乱れた部分を整え、フラフラと立ち上がる。薄暗くてよく見えない。
恐る恐る歩きながら周りを見ていると、通路から入ってきた次の客がこっちに歩いて来た。
自分の斜め前から飛び出して行くバケモノ…役の人が見える。
この位置から見ていると、怖さが全くなく冷静にそれを眺める。
一通り脅かし終えたバケモノ役の人が戻って来た。
さすがに顔は直視出来ないのでビクッとして固まっていると、もう巴の事は脅かすつもりがないのか、素通りしてスタンバイする場所に戻っていった。

はぐれてから数分は経ったと思う。けれど倉持達は戻って来ないし、後から後から次のお客が通過していく。
とても1人でゴールまで行けない、怖い。
流石に巴がいないことには出口にいるだろう、御幸たちも気づいていると思われるので、まずは彼らと連絡をとろうと思い、スマホを取り出し、電話をしようと画面を操作した時「うわぁぁ!」とひときわ大きな声がした。

高校生くらいの男子の集団の声だ。青道野球部の部員かもしれない。
電話をするのを一旦中止して、そっちの方へ急ぐ。
やっと姿が見えてきて、巴は目を凝らした。

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