そうだ、慰安旅行に行こう13
ホテル到着前のバス車内――
「みんないるなー?バス出るぞー」
太田部長の点呼も終わり、バスが出発した。巴はホテルまでは御幸の隣になった。
外をぼんやり眺めているとちょうど稲実の人達がバスの方へ移動してきているのが見えた。
「まさかあいつらとこんな所で会うなんてな」
「驚いたね」
「……」
「御幸?」
「ん、なんでもない。着いたらすぐ飯かな」
「…うん」
話している間から、御幸は何故かずっと巴の方に顔を向けている。
「なに」
「んー?いんや、オレの幼馴染はやっぱ美人だなーと思って」
「……おだてても何も出ないから」
「ははっ、なぁ今日の夜さ俺が…」
「?」
「…いや、ちょっと待って」
何か言いかけてやめた御幸に首をかしげながらると、御幸は前の席を静かに見ていた。
「おいバカ、後ろばっかチラチラ見んな」
御幸たちの前の席は沢村だ。
突然、正面に顔を向けて沢村に話しかけた御幸。
自分も正面に視線を向けると、猫目になった沢村がクルっと後ろに振り返った。
「お昼からイチャイチャイチャイチャ…ちょっとイチャつきすぎではないでしょうか!?」
「一緒に座ってるだけだろ、何言ってんだ」
「大体巴先輩の隣の席に座るってどーいうことだ!一人だけ良い思いしようとは、キャプテンの風上に置けん!」
「はっはっは、幼馴染の特権」
そしてあまりに騒がしすぎて、最終的には3年生からうるさいと怒られる頃、バスがホテルに到着。
「巴、風呂上がった後にさ、俺が連絡したら……?なんだ?」
この後、歓迎の看板を皆で見て、バスに乗る前よりももっと機嫌を悪くしてしまった御幸。
お風呂上がった後に何なのか、結局聞かないまま全員チェックインを終えて、部屋に向かった。
――約30分後に稲実御一行もホテルに到着。
この看板見て驚いたんじゃね?なんて笑いながら、こちらはリラックスしてチェックイン。
「おい、鳴」
「なにー?カルロ」
「ご飯と風呂終わったらさ、巴呼べよ」
「はっ!?」
「せっかくだから、俺たち部屋空けてやるよ」
「あぁ、2時間くらいなら空けてやる」
小声で話しかけてくるカルロと白河。
「お…お前ら…!!
やっぱ持つべきものは友だな!意外と気が利くじゃん!!」
フンフンと鼻歌をしながら上機嫌で部屋へ向かう鳴。
その後ろ姿を見ていたメンバー達。
「あいつ…恩義って言葉、知らねーのか?」
***
それぞれが自分の部屋に荷物を置いた後、大広間に集合となった。
女子部屋はマネージャー3人と高島先生。鍵は先生が持って、4人で部屋まで移動する。
「わぁー!広〜い!」
「4人ですし、広々使えそう!」
「先輩、お風呂楽しみですね!」
女子らしくキャッキャしながら勢いそのままに大広間に向かうと、もうほとんどの人が集まっていた。
流石高校球児、もうお腹が鳴っている。
高島先生はスタッフ陣が座っている場所へ。春乃は1年生が集まっている場所へ。
貴子先輩も3年生が集まっている場所へそれぞれバラけたから、巴も2年の集まっている場所へ向かうことにした。
「巴〜!」
呼ばれた方に目を向けると伊佐敷が巴を呼んでいた。
手招きしているため、そちらに行ってみる。
「おら、お前の席そこな」
伊佐敷の指さす席は見事に3年生ゾーンの中心にあり、その隣には結城先輩とクリス先輩が既に座っていた。
「月代、どうした早く座れ」
「あ、はい」
クリス先輩に呼ばれて巴は大人しく座る。
その様子をやや遠くから見ていた御幸の顔は無表情であり、何を考えているか読めない雰囲気だった。
「えー、うん。夜は周りに迷惑をかけないように過ごして…分かってるよな?
お前ら高校生だからな、球児だから。はいいただきます」
だるそうに号令をかけた落合コーチにの言葉で皆一斉に食べ始めた。
その時、隣の大広間が騒がしくなって、勢いよく食べていた彼らの箸が止まった
「稲実だ」「稲実来たぜ」「隣かよ」「あいつらの飯、何だろうな」
隣の広間に稲実が入ってきたのだ。
しばらく、お互いそれぞれ黙々と食べていたようだけど、太田部長がこれから後の入浴時間の説明をし、
スタッフ陣が次々と広間から出ていったのを確認したかのように、突然襖がスパーンと開かれた。
「む?来たな、あいつら…」
結城が右手を上げて、自分の場所を伝えている。もちろん、原田にだ。
結城が見ている方向には原田達稲実の3年主要メンバーがいて、その軍団はこっちに歩いてきた。
「じゃあ、8時にな」
何かを話した後、時間の確認をして原田達は戻って行く。
話の流れについていけなった巴はクリス先輩の方をなんとなく見ると「せっかくだから後で遊ぶらしい」と教えてくれた。
「巴〜!」
「鳴」
「どうもこんばんは!巴、オイラも後で行くからね!雅さん達と一緒にさ!」
「…そうなんだ」
青道の3年にきちんと挨拶してる。カルロス達も一緒にいて「マネージャーさんも部屋来るんだろ?」と聞かれた。
「マネージャーは、」
「参加だよー」
小湊兄が少し遠くから話に入ってきた。
巴はまさか自分もメンバーに入っているとは思わず、小湊兄の方を見ると、女の子いると楽しいよね?なんて笑顔。
お風呂を済ませたら、純たちの部屋に集合だからねと念を押され、いつの間にか参加者リストに自分も入っているのが分かった。
「妃、部屋戻ろっか。春乃ー!」
「あ、はい」
先輩達にお先しますと挨拶をして立ち上がる。
一旦貴子先輩の方に行ったけど、先に戻っててくださいとお願いをし、巴は一応御幸の方に向かった。
2年男子はまだ席に座って話をしていた。
「おぉ月代、もう食い終わった?」
「うん」
御幸をチラリと見やると、その視線に気づいたらしく、自然に立ち上がった御幸は私の方に歩いて来た。
「すぐ風呂行くの?」
「ちょっと休憩してから行こうかと」
「そっか、じゃ風呂上がったらどっかで話す?」
「え?」
「ん?」
お互い一瞬沈黙になった。
「御幸は、伊佐敷先輩たちの部屋に行かないの?」
「純さん?何かあるのか?」
「稲実の人たちが遊びに来るって…」
「は?そうなの?知らね。俺、稲実のやつと遊びたくねーし」
「そう…」
「で、風呂上がったらさ、俺が連絡するから――…」
巴は先ほどの3年生とのやり取りを説明した。
小湊兄にお風呂済ませたら部屋に来るように言われたと。
そう伝えると「えぇ!?」と困った様子の御幸。
そういうことならしょうがないから俺も行くよと言われ、とりあえず巴は部屋に戻った。