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「骨に異常がなかったのは幸いだったが…やはり場所が場所だけに時間がかかるだろう…」
決勝翌日の放課後、ミーティングから始まった部活では、御幸の脇腹の肉離れが報告された。
「神宮大会は御幸抜きで戦わねばならない。ベンチ入りメンバーからも外すつもりだ」
監督のその言葉に、予想できていなかったのか御幸本人が慌てている。
「キャプテン代理は倉持!」
「はい!」
「レギュラーキャッチャーには小野!」
その日からの練習は、御幸の抜けた穴を埋めるべく熱を帯び、監督も無事神宮大会の指揮を執ることが決まった。
ブルペンではいつも以上に沢村が吼え、川上も静かではあるが闘志を燃やし、降谷も完全復活を目指して調整している。 ただ、一人を除いて。
「ノリ〜アピール足りないんじゃないの〜いいのかそれで」
「お前らさ〜仲良くしすぎじゃね〜」
「…御幸、うるさい」
「っ、優しくしろよ」
見かねた巴が手に持っていたバインダーを使い、御幸の頭を軽く叩いた。
幼馴染の彼を諫めるのはいつだって巴の役割だ。
そしてあっという間に神宮大会前日。 室内練習場には選手たちが集まっていた。
「わかってんのかお前ら。これで明日あっさり俺たちが負けてみろ。御幸がいねーと青道はクソ弱ぇって言われんぜ」
「要はナメられるっちゅうわけや」
「俺達の地力をみせる時だな」
「やってやんよノリ!俺やってやんよ!」
「小野はいつも通りでいいと思う…」
「ヒット打った男はあたたかい拍手でむかえてやれ!!それが男の優しさってやつだろう」
「どさくさ過ぎなこいつ!な!たまにやるよな!」
「邪魔するヤローは全殺し!」
「「全殺し!!」」
「ナメてるヤローはフルボッコ!」
「「フルボッコ!!」」
かつての爽やかな青道はとてもガラの悪い集団へとなり、物騒な言葉を鳴り響かせていた。
「…御幸、何あれ」
「…さあ…ただのヤンキー集団だな…」
次の日の神宮大会一回戦は昨日の喝が効いたのか、見事勝利を収めた。
その後の神宮大会二回戦。打線は相変わらず好調でなんと二桁安打の6得点を挙げベスト4進出を決めた。
続く準決勝、先発は沢村。3−3で迎えた八回。降谷と小野に痛恨のバッテリーエラー。結局この一点が決勝点となりチームは敗れ、シーズンオフに突入した。
***
冬合宿が始まった。夏直前合宿と違って、とにかく体づくりのための合宿で、当然練習メニューはいつも以上に過酷なものとなる。
マネージャーも練習の手伝いをしたり、洗濯、食事の準備など、とにかく忙しなく駆け回る。
そうして時は過ぎ、12月25日――世間はクリスマスムード一色に染まる日。冬合宿中の野球部ではあるが、今日だけは特別に、クリスマス会のようなものが夜に行われる。
かといって練習の厳しさは変わらず、日が落ちるまでそれは続けられた。
巴たちマネにとってはとても忙しい日で、朝からいつもの業務に加えてケーキなどの準備に追われる。
「おおお〜!これ、マネさんが用意してくださったんですか!」
練習後、お風呂を済ませた部員たちが食堂に続々と集まってきた。沢村始め他の部員たちも大きなケーキを嬉しそうな目で見てくれているので、作った側も嬉しくなるというもの。
「ところで巴先輩は何をお作りになられたのですか?!」
「私はこのミートパイを…「オレのものだぁああ!」「いや、オレが先!」「ちょ、先輩方!オレが先に聞いたんですよ!?」「うるせぇ後輩がナマ言ってんじゃねぇ!」
野球部のマドンナである巴が作った料理を食べたいと思う部員たち。
たった一つの料理を巡って今、戦いが始まろうとしていた。
「高嶺のはじゃんけんでー。はい、じゃんけーん」
結局、御幸のかけ声でその場は収められたのであった。
その後もクリスマス会は大いに盛り上がった。ジュースで乾杯をした後、部員たちはすごい勢いで料理を完食し、ケーキやカラオケを楽しんでいた。途中ケーキを「まあまあおいしい」と言った御幸に梅本が絡む事件が勃発してはいたけど、基本的に平和に過ぎていった。