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あれから、美海とあかりの二人は上手くいったらしい。
朝まで美海に付き合った光はあかりと共に、一緒に探してくれた巴たちに礼を言ってきた。
その時のあかりの顔は、誰が見ても幸せそうに輝いていた。

そして――プール開きがやってきた。
朝っぱらから、水着の用意にあたふたとするまなかを連れ、巴たちは学校へと向かった。
日頃から海の中で生活する彼らにとって水泳など当たり前のことで、
改めて水泳の授業をするなど初めてなので、何だかむず痒かった。
しかも、皆が買い物で愛用しているサヤマートにも水着は置いてなかったため、
少し遠くまで行って用意しなければならなかった。

前の授業が終わり次第、教室で着替え始めた男子に女子から批難の声が上がる。
ポカンとしているまなかとちさきに、一人の女子生徒が更衣室に行くのだと教えてくれたので、
まなかたちは慌てて教室から出て行った。少しだが、仲良くなれてはきているのだ。
その様子を見ながら巴も彼女たちを追う。

「あたしデブったんだよねー。憂鬱だよ」
「私も。絶対江川とかデブデブ言ってくるよね」

そんな女子特有の会話が飛び交う。
皆一様に大きなボタン付きのタオルにくるまって見えないように着替えている。
勿論、そんな便利アイテムがない巴たちはタオル無しでの着替えだ。

「ああいう風に着替えるんだ…」
「あのタオル、いいね」
「地上には便利なものがあるのね」

隅の方で三人固まって感心したように見る。
そうしていると、一人の女の子から声を掛けられた。

「海村って、水泳の授業ないの?」
「あ、うん。初めて」
「いいなあ」
「比良平さん、気をつけなね」
「え?」

女子は皆して水泳の授業があまり好きではないらしい。
彼女の「気をつけろ」発言が何を意味するのかわからず、ちさきはただ首を傾げるだけだった。
意外と天然なちさきを見つつ、巴も制服を脱いだ。
うろこ様にも狙われる程のその体形に、地上の女子とそして海っ子たちまで目を奪われる。

「…すごい」
「「「……デカい」」」

***

着替え終わって、女子たちは一斉にプールサイドへと向かった。
女子は皆タオルにくるまったままで、誰一人としてタオルを持ってすらいない男子とは大違いだ。
そんな女子の入場を見ていた男子だが、ちさきが視界に入った途端、目の色を変えた。

「比良平がいるじゃん!バインバインだぜ!」
「すっげえ」

江川のその隠そうともしない台詞に、ちさきは恥ずかしそうに俯く。

「いや、待て……もっと凄い奴いるぞ」

一人の男子が震える指で指すのは、女子の最後尾に出てきた巴だった。
動く度に揺れるその大きな胸に、頬を赤らめていく男子たち。
その完璧なプロポーションは同じ中学生には思えない。

「もはやあれは…凶器だ…っ!!」

そんな巴とちさきを見兼ねて、これまたデリカシーなく光が口を挟もうとしたが、それよりも女子の方が行動が早かった。

「比良平さんと藤宮さん、やっぱ大きいよねー」
「えっ」
「一回触らせてっ!」
「きゃあ!」
「えー、いいなあ」
「てか、藤宮さんのマシュマロみたい!」
「そう?」

それが彼女なりのちさきと巴へのフォローだったのだろうか。
一気に女子に囲まれて男子から離れていくのを、男子たちは頬を染めて呆然と見ていた。
そうこうしている間に、先生がプールサイドの方へやって来て、笛を鳴らした。
授業の始まりだ。

「今日はタイム測るぞー!」

その言葉に女子と男子両方から嫌な声が上がった。

「何だ、去年もやったろ。はい、準備体操。女子はタオル外す!」
「やーだー」
「セクハラー」

方々から上がる不満の声を適当に受け流しつつ、準備体操を始める。
不満を言いながらも、女子もタオルを椅子に置いて準備体操を始めた。

「ひーくん、準備体操してないね」
「え?本当…大丈夫かな、光」
「息をするのに準備体操がいるか、ってことでしょう」
「言いそう…」

準備体操はきっちりしながら、一人だけ壁際にいる光を見る。
こういう所が光の悪い所だ。自分を過信しすぎる。
後々それで痛い目を見なければ良いが。巴は呆れたように溜め息を吐いた。

タイム測定は自己申告順となった。種目も自由だ。
そのため、各々適当に泳いだり泳がなかったり、様々に過ごしていた。
タイム測定以外自由というのが、何とも緩い学校だ。
文句を言っていた生徒たちも、いざプールに入ればやはり楽しそうにしている。

普段海の中で過ごす彼女らにとって水はとても身近なものだが、やはり一番は海水だ。

「木原くんと先島くん、一緒に泳ぐみたい」

その言葉が聞こえて、巴たちは顔を上げた。
スタート台に向かって光と紡と要の三人が歩いていくのが見える。
そんな三人を見ながら、女子の話題は誰を応援するかになった。
聞くところによると、紡は走るのだけでなく、泳ぐのも速いらしい。

「ああ、でも…汐鹿生の子の方が速いかな」
「向井戸さんたちは、やっぱ先島くん推し?」
「え!?ど、どっち、だろう……。要…と、ひぃくん!だよねっ」
「そうだね」

明らかに不自然にまなかがちさきに振る。
しかし、ちさきの返答はとても素っ気なかった。

「そりゃシシオ同士を応援するよね」
「じゃあ、あたしもシシオを!」
「何それ!あたしは絶対木原くん!」

そんなくだらない話をしている間に、男子三人はスタート台へと立っていた。
特に会話には参加せず、聞き流していた巴は、何となくだが光は負けるんじゃないかと思っていた。
それは準備体操のことがあるからだが、きっと光はムキになるから、もしムキになれば紡には勝てないような気がした。
紡どころか、要にもまでかもしれない。
巴のそんな予想を他所に、笛の合図と共にタイム測定が始まった。
両サイドから声援が飛ぶ。今のところの順位は紡、要、光だ。

「あれ…先島くん、遅れてない?」
「あ、きっと慣れてないからそれで…」
「泳ぎに?」
「何か、こういう水と陸の中間だと変な感じっていうか…。
クロールとかってあんまり…」
「へえ。そういうもん?」

陸の人間には到底わからない感覚だ。
必至になってフォローするまなかを見て、巴は息を吐いた。

「違うわよ、まなか」
「え?」
「それもあるけど、光はきちんと準備体操をしてなかったから。
…今はムキになっているみたいだしね」
「でも…」
「もうすぐ折り返しよ」

紡が一番に、そのすぐ後に要がターンをする。
遅れて光もターンをするかと思われたが、大きく水を上げながら光はそこで止まってしまった。

「うっ!!」
「ひぃくん!」

水の中で足を抱える光に、まなかが駆け寄る。
誰よりも速い行動に、ちさきはどうすることもできず、やるせなさそうにまなかを見ていた。

「どうした、先島!」
「何でもないっす!」
「ひぃくん怪我して…」
「うっさい、まなかっ」
「ともかく、二人とも上がれ」

光とまなかに上がるように促す。プールサイドに座り込む光の回りには軽く人だかりができていた。
その中心にいる光の足の親指からは血が滲み出ている。

「ああ、爪剥がしたのか…今日の日直誰?」
「あ、私です…」
「ならちょうど良い。保健室に連れてってあげて」
「えっ…」

当たり前のことを言われただけなのに、何故かまなかは少しだけ躊躇した。
そして、後ろにいるちさきにチラリと目を向けたのだ。

「ちぃ…比良平さんも一緒で良いですか?」
「先生。私と藤宮さん、次泳ぎます。行こ、巴」

周りから上がる感嘆の声も、呆然とするまなかも、巻き込まれた巴の意思も聞かず、ちさきは歩き出す。
巴は無言でその後に続いた。

「…まなか、全然わかってない…っ」

苦々しくそう呟いたちさきに巴は一言も言葉をかけなかった。

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