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遂におじょしさまが完成した。
青の着物を着ている木彫りのおじょしさまは、中学生だけで作ったとは思えないほどの完成度になっている。
勿論、供物もちゃんと作った。
完成したおじょしさまを見て、皆とても喜んでいる。
それは先生も例外ではなく、うんうんと嬉しそうに頷いていた。
「お前たち、よく頑張ったなあ」
しみじみと、生徒たちを褒め称える。ここまで予想外に時間が掛かった。
完成などしないかもしれないと思った時もあった。
しかし、海や陸、歳など関係なしに子供たちが協力し合って完成させたのだ。
嬉しくないわけがない。
「これは、アイスだね」
「「「え?」」」
「皆に奢るよ。ゴリゴリ君とホームベースバー、どっちがいい?」
ご褒美とばかりにアイスが提示された。当然、子供たちも喜ぶと思ったのだが、あまり良い反応は得られなかった。
今日は少し気温が低く、プールも中止になるほどだった。
その意見に先生も納得するが、アイスの代わりとなるような肉まんもこの時期はまだ販売していないので、お手軽な物が出てこない。
そんな話を後ろでしているのを聞いているのか、いないのか、まなかと紡はじっとおじょしさまを見つめている。
「おふねひき、したいな」「おふねひき、したいね」
二人の言葉が重なった。何も示し合わせていないのに、
二人して同じ言葉を呟くものだから、木工室の中の視線が一気に二人に注がれる。
「ハモった」
「あっちっちー!」
「ひゅーひゅー、仲良い!」
「ち、違うよ!そんなんじゃないよ!」
冷やかす声がまなかと紡に飛んでくる。
紡は全く気にもしていないが、まなかは必死に否定している。
「巴?…どうしたの?」
隣にいた要に尋ねられたが、自分でも一体何がどうしたのか分からず「何でもない」と答えるだけだった。
「一応、形だけはやるつもりだけど…」
「いや、そういうんじゃなくて…先生が教えてくれた昔の…海も地上も総出でやってた頃みたいなの。やれませんか?」
つまり有志だけでなく、村の人々たちも一緒にやるということだ。
形だけでは本当のおふねひきとは言えない。折角自分たちで作ったのだ。
ちゃんとしたおふねひきを見てみたい。それは皆同じ気持ちだった。
「でも、汐鹿生の協力なしには無理だし…ちょっと難しいかな」
「えー、どうせならちゃんとやりてえよ。なあ、みんな!」
江川の言葉に賛同の声が上がる。
先生とてやりたいのは山々なのだが、そもそも汐鹿生と鴛大師の漁協の対立のせいで今年は無しに決まっているのだ。
本物のおふねひき、ということはどちらが欠けても意味がない。
先生一人の力ではどうしようもできないのが現実だった。
「───やろう!!」
そんな中、そう言い放ったのは意外にも光だった。
「折角作ったんだしさ…やろうぜ、本物のおふねひき」
「ちょ、光?」
「ひぃくん…」
光は言うほどおふねひきに拘りを持っているようには見えなかった。
その光が先頭に立って、紡と…地上の人と力を合わせておふねひきをやろうとしている。
汐鹿生の方は光が、鴛大師の方は紡が説得することに決まって、彼らのおふねひき活動は始まった。
***
手始めに彼らが始めたのは署名活動だった。サヤマートの前でチラシと署名用紙を持って声掛けをする。
地味で地道だが、これが一番無難で一番目に見える成果が出るのだ。
光を中心に、まなか、さゆ、美海が前に出て声を出している。
そんな彼らを、巴たちは少し後ろから見ていた。勿論、巴たちも署名活動の一員だ。
「何か、凄いね光」
「あいつ、何であんなに…」
「モヤモヤ晴らしの全力疾走ってとこじゃない?
光にこんな体育会要素があるなんて、人間奥が深いよね」
光の意外な一面を見たちさきと紡は少し驚いたように言う。
要はなぜ光があんなに頑張っているのかを理解しているのか、あまり驚いてはいないようだ。
「じゃ、ボク達も行こうか。巴」
「本当にやるつもり?」
「もちろん」
少し引き気味の巴を半ば無理やり連れだした要。
彼はサヤマートの前を通り過ぎようとする主婦をターゲットにして前へと出た。
それに続き、巴も一人の男性に声をかける。
「奥さん。すみません奥さん。僕の話、聞いて頂けませんか?」
「そこの素敵な旦那様。私の話、聞いてくださいますか?」
キラキラと見えないはずの光が要と巴の周りに見えそうだ。
そんな素晴らしいほどの微笑みで話し掛ける二人は流石と言ったところか。
自分の武器を存分に発揮している。
「確かに奥が深いわ…」
男性におふねひきのチラシを渡しながら説明する巴は、何度か言葉を交わすとちさきを呼んだ。
「ちさき、署名用紙持ってきて」
「あ、うん!」
紡を置いてちさきも駆け出す。
首から提げているボードを外すと、そのボードとペンを主婦に差し出した。
「ここに、名前と住所をお願いします」
「ここね…はい、どうぞ」
「あ、ありがとうございます」
「頑張ってね」
「はい!」
「有難うございました」
巴とちさき二人して頭を下げる。二人に小さく手を上げて男性は歩いていってしまった。
ちさきはそっと署名欄の一番上に指を這わす。彼女の用紙では最初の名前に思わず笑みを浮かべた。
名前だけだが、こうして協力して貰えるのはやはり嬉しいことだ。
「頑張ろう、巴」
「…まぁ、おふねひきを続けさせるのは巫女としての務めよ。あ、すみません、」
新たに人を見つけて巴が駆けて行く。
そうしている間にサヤマートの中からあかりとあかりの恋人───至が出てきて、二人も協力してくれることになった。
ちなみに、サヤマートの前でこんなことができるのは、一緒におじょし様を作った狭山がここの社長の息子だからだったりする。
「有難うございます」
「どうだ?そっちの方は」
「まぁ、上々ってところかしら」
半分以上埋まっている用紙を見て、紡は良かったと頷いた。
「最初は声掛けだけで署名が集まるのか疑問だったけど、こうしてみると…集まるのね」
「ああ」
「さゆちゃんは、声掛け上手だし。
ちさきは恥ずかしそうだけど…やって良かった」
さゆは巴の言う通り、とても上手かった。
いつもは天の邪鬼なのが信じられないほど、可愛らしい笑顔を振り撒いている。
美海は苦手そうだが、それでもチラシを受け取ってくれた人には笑顔でお礼を言っている。
この小学生二人の力は大人の心を動かすのに、中々大きな働きをした。
ふと巴の視界に光が映る。笑顔で人々に声を掛ける彼の姿は少しだけ眩しかった。
「真っ直ぐね、光」
「いつものことじゃないのか?」
「まぁ、そうだけど…私が今まで見たなかで一番真っ直ぐ。少しづつ変わってきている」
「比良平もそうだけど…あんたもよく見てるな」
「そう…?」
疑問で答えた巴は声掛けのために紡から離れた。
離れた巴の横顔を暫く紡は見ていたが、光に呼ばれて彼もその場を離れた。
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