16
おじょしさまが壊れた後、自然と解散となった。
誰も何も良いことが言えず、天気が悪いこともあって、おじょしさまを学校に戻してから、各々帰宅したのだ。
その際、光は家を出ると豪語していた。
誰もが結局は家を出ることはないだろうと思っていたのだが、予想に反して光は本当に家を出て行った。あかりと共に。
巴は巫女見習いでもあり、神社にいるのは当然であったので、光とあかりが出て行く様子を実際に見ていたのは確かだ。
まなか達がそれを聞いたのは他でもない光からで。
次の日朝早くから電話で事後報告された。
ついでに街に行くこともその時伝えられたのだが、ちょうど誰も予定がなくシシオの幼馴染み全員と美海で街へ行くことになった。
目的はあかりへのプレゼントを買うこと。美海が気持ちをあかりへ伝えるためだそうだ。
滅多に行かない、寧ろ初めて行く街に、ちさきとまなかは比較的お洒落をして集合場所へと向かった。
「へえ。それが所謂彼シャツってやつ?」
光の頭の先から爪先までを見て要がそう言った。明らかに光のサイズに合っていなくて、ズボンの裾なんかは折り上げている。
あかりはともかく、勢いのままに出てきた光は何も持っていなかったため、至の服を借りたのだ。
「う、うっせえ!!つーか、お前らも何決まってんだよ!」
「街って聞いたから、やっぱり…」
「へ、変かな…?」
つまり自分たちの一張羅を着て来たわけなのだが、指摘されると気合いを入れているのが恥ずかしく感じるらしく、女子は二人ともモジモジとしている。
一方で巴は皆と同じような私服を殆ど持っておらず、大抵は巫女仕事で使う着物が殆どだった。
それを見かねたちさきが、おしゃれなワンピースを貸してくれた。
水色の衿付ウエストシャーリングワンピで、赤いベルトが彼女の引き締まったウェストと大きな胸を強調する。
「巴のは私のを貸したんだけど…サイズどうかな?」
「大丈夫よ…ちょっと胸がきついけど」
「そ、そっかぁ…アハハ」
自分の胸元に手を置いた巴に、肩を落とし項垂れるちさきであった。
「と、とにかく遊びじゃねーんだからな」
「うん。よろしくね、美海ちゃん」
「頑張るねっ」
踏み切りの鐘が鳴る。電車が来たのだ。要に言われ、光たちは慌てて改札口へと向かった。
しかし、そこで問題が一つ。切符の値段が分からないのだ。
改札口の近くで、まなかが光を急かす。当の光は券売機の前で難しい顔をして券売機と睨み合っていた。
「えーと、幾らだ?」
「ちなみにアレに乗り損なったら、一時間待ちぼうけだ」
「おい、お前も一緒に探して…」
「…640円よ」「640円」
光が任せろと言ったから任せていた巴だったが、痺れを切らして券売機へと手を伸ばした。
すると、巴の指が券売機のスイッチに触れる前に、巴の反対側から別の指が伸びてきて、先に目当ての切符を買われてしまった。
驚いてそちらを見ると、そこには紡が立っていた。
「木原くん…」
「街、あんたらも行くの?」
自分の分の切符も買って、巴たちは紡も連れて電車へと乗り込んだ。
とりあえず一時間の待ちぼうけは回避できた。
それから電車の中で紡にも事情を説明して、彼らの街での買い物に紡も付き合ってくれることになった。
誰も街に詳しくない中で、何度も街に行ったことのある紡が一緒に来てくれるというのはとても有難い。
巴は以前、紡の両親が街にいると聞いたことがあるので
彼が今日こうやって行くのは、自分の両親に会いに行くためだろうか、と一人考えていた。
***
電車に揺られ、街へと辿り着く。
駅を出た先は当たり前だが、汐鹿生とも鴛大師とも全く違う景色が広がっていた。
「潮の香り、ほんとにしないね」
「ああ。ここで迷っちまったらマジでエナ、ヤバそうだな」
鴛大師からは大分離れているので仕方がない。鴛大師なら海がすぐそこにあるので、いつでも海へ飛び込めるが、ここではそうはいかない。
真水を浴びたところで意味はないので、もしエナが乾いてしまえば大変だ。
そんなことを考えていると、美海が塩水のマークを見つけた。
「あのマークが貼ってある店にはエナのための塩水が置いてある」
「そんなのあるんだ」
「数は少ないけど、場所によっては水を浴びるスペースがあったり、ご自由にどうぞって塩水が置いてあったり」
「へえ。鴛大師とは随分違うんだな」
紡の説明を聞きながら一行は足を進める。ショッピングの開始だ。
聞くところによると、美海はペンダントをプレゼントしたいらしく、まず初めに入ったのはジュエリーショップだった。
キラキラと光る宝石類がショーウィンドウの中で飾られているのを見て、特に女子たちは目を輝かせた。
しかし、やはり値が張る物ばかり。小学生のお小遣いでは買うのは到底無理だった。
光のデリカシーのない言葉に落ち込む美海を慰めつつ、ジュエリーショップを諦め、デパートへ向かう。
お目当ての雑貨店が集まる階は7階だ。休日で込み合うデパートのエレベーターに、何とか押し込むように入る。
人の波に押されながら最後になったちさきを呼ぶと、ちょうどちさきで重量オーバーのブザーが鳴ってしまった。迷惑そうな視線がちさきを射抜く。
どうしようかと困り果てるちさき。そんな彼女の手を、光が掴んでエレベーターから連れ出した。
「上でまた合流な」
「わかった」
エレベーターのドアが閉じる。すし詰め状態の中、光とちさきを除いたエレベーターは上へと上がって行った。
「美海ちゃん、大丈夫?」
「は、はい…」
巴が美海を気遣って声を掛ける。そして、誰よりも身長が低い彼女を見失わないようにその小さな手を握った。
光とちさきがいないため、巴を入れて5人。
それぞれが人に押されるようにしてエレベーターの中に何とか立っているので、誰がどこにいるのかをちゃんと認識できていない。
チンとエレベーターの到着を告げる音が鳴る。
「7階…?」
「いいえ、まだ5階……っ!?」
降りる人が多い階だったようで、人に流されて巴の体が後ろに傾く。
上手く踏ん張ることもできずに、巴は美海の手を離してしまった。
「あ…っ」
美海が慌てて巴に手を伸ばす。その手が巴に届く前に、巴の手を誰かが掴んだ。
「…大丈夫か?」
「き、木原くん…。えぇ、ごめんなさい。美海ちゃんも」
大分人が減ったエレベーターは再び上昇し始める。
態勢を立て直した巴はまるで恥ずかしさを誤魔化すように横を向いた。
それから程なくして、巴たちの乗るエレベーターは目的の7階へと到着した。
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