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ぬくみ雪はあれからすぐにやんだらしい。
この現象を見て、巴は不可解で気持ち悪さを感じた。何か得体の知れないものが起こりそうで。
今日は学校も勿論あるのだが、一応“巫女”としての仕事を行うため、先島の宮司とうろこ様と共に青年会の集まりへと向かっていた。
中に入ると、多くのおじさんたちが詰め寄って来た。

「宮司様!原因は分かったのか!?」
「オレたちは一体どうすりゃいい!?」

皆、今回のことに不安を感じているのか、大人であってもパニックのようだ。

「騒がしいのぅ」
「うろこ様!巫女!」
「…私はまだ見習いなのにね」
「細かいことを気にするな、巴。ほれ、みな早う席につけー」

うろこ様に言われ、大人たちは落ち着きを取り戻し、全員が席に着いたところで本題が始まった。

「今日集まってもろうたのは他でもない。この先、訪れる…禍つ事についての話じゃ」


一方で陸に出たまなか達には、夏なのに景色はまるで冬のようだ。
シシオの者たちは海の中で見慣れているが、冬でもないのに周りが白いのには、きっと陸の人は違和感を感じるだろう。
気温は決して低くない。とても暑いということはないが、夏そのものだ。

光が家出をしてしまい、巴は巫女の仕事で遅れるという連絡があり、彼を除く三人で登校する。
これから暫くは行きも帰りも光抜きだろう。
ある意味ムードメーカーだった光がいないのは、少しだけ寂しく感じた。
昨日のぬくみ雪の話をしながら妃たちは昇降口で上履きに履き替える。
上履きに履き替えてまなかが前を見た時、見慣れた背中が彼女の目に入った。

「ひぃくん?」

ちょうど光も登校したばかりだったのだろう。
教室ではなく木工室に向かう光の背中をまなかは追いかけた。
何故か木工室の入口で立ち止まって光に声すら掛けないまなかだったが、
まなかの横からちさきと要が木工室へと足を踏み入れた。

「おはよう、光」
「ん?あれ、お前ら…」

光は振り向いて、少しだけ意外そうにまなか達を見た。

「はよ。何してるの?」
「どこから直したらいいか、見てたんだよ」

それは、この間の会合で壊れたおじょしさまのことだろう。
これを直さないことにはおふねひきもできない。
光は手に持っていた縫いぐるみを置くと、改めてまなかたちに向き直った。

「つか、お前らこそ朝早くから何してんだ」
「まあ、追い出されたっていうか…」
「大人は大事な会合があるから、早めに学校行きなさいって言われて」
「何だよそれ、巴はどうした?」
「その大事な会合で、うろこ様に引っ張り出されたみたい。
今の村には巫女は彼女しかいないからね。見習いだけど」

いつもより早めに登校したのにはそういう理由があった。
まなかたちの親は子供たちを見送るとすぐに会合へと向かったのだろう。
何の話をしているのかは知らないが、府に落ちない。

「地上にぬくみ雪が降ったことと関係があるのかな?」
「大人ってのはいっつもそうだ。子供には何でも隠しときゃ良いって思ってる」

不満げに光がそう言う。中学生とはいえ、大人たちから見れば彼らはまだまだ子供。
光はそれがもどかしくて仕方がなかった。

「巴は私たちと同じ子供なんだけどね」
「アイツは普段から、大人みてーなもんだ」

苦笑して言うちさきだが、光は巴を想像しつつそう言った。
まぁ、確かに光からしてみれば、巴は大人っぽく見えるのだろう。

「おじょしさまはここにいるよ」

少しくぐもった声が聞こえた。

「私たちはおふねひきだね!」

おじょしさまのお面を手に、まなかが微笑んだ。

***

それからはちゃんとクラスの中でおふねひきのことを話した。
おじょしさまは壊れてしまったし、汐鹿生の協力は取り付けられなかったが、それでも彼らの意思は変わらない。
そのことを担任の先生にも示して、光たちは再びおふねひきの為の準備へと取り掛かった。
おふねひきの為の船は紡の祖父に頼み、それに伴い、作業場所も学校の木工室から紡の家へと変更になった。
前よりも人手も増えて、勿論、美海とさゆも一緒に手伝ってくれている。
船の補修とおじょしさまとに別れて作業は開始した。
そして、その頃にはやっと巴も来て皆と合流した。

「あ!おせーぞ!巴!」

先生から連絡を貰ったらしく、紡の家に来た彼女はどこか上の空だ。
光は特に気にしていなかったが、ちさきと要は顔を見合わせ巴を見ていた。

「まなか」
「巴ちゃん」

家の台所を覗くと、白い割烹着を着て髪を束ねたまなかがいた。

「どうしたの?」
「別に…まなか一人だと台所が壊滅するかと思って」
「私、そんな不器用じゃないよぅ!?」

あっさりと酷いことを述べた妃に、まなかは涙目で訴える。

「磯豚汁作るんだ!それから、おにぎりも握るよ」
「そう、まぁ…頑張ってね」
「うん。心配してくれてありがとう…やっぱり巴ちゃん優しいね」

まなかの言葉に数秒固まった巴。
何か信じられないようなものでも見る目でいる。

「……私はそんな人間じゃないわ。
……小さい頃…言ったでしょう、あなたが嫌いだって」


「ともちゃんのお髪、ほんとキレイ〜。いいなぁ〜」
「…ともちゃん?」
「うん!巴ちゃんだから、ともちゃん!」
「……やめて」
「え?…どうして?」
「私は…あなたが嫌いだ。
だから、そんな慣れ慣れしく呼ばれる筋合いはない」


幼い時の二人の映像が頭によぎる。
まなか自身、自分と巴の二人っきりになると、どうしても彼女が極端に冷たく接しているのは分かっている。
けれど、まなかは「嫌い」と言った巴に対して泣かずに悲しまずに、いつもただ笑っていた。
それが気に食わない巴は更に冷たく当たってしまう。悪循環だった。

「でも、巴ちゃんが本当は優しいって知ってるよ?
今だって私のこと心配してきてくれ―――「あなたには…私のことなんて、分からない」

一方的に話を切って、巴はまなかへ顔を向けず台所を足早に離れていった。

そして巴が向かったのはちさきの所だ。
ちさきは縁側に腰掛けて裁縫をしていたし、その目の前で美海とさゆがペンキ塗りをしていた。
その辺りの様子を見て、何か手伝おうと思ったのだ。

「…ちさき?」

縁側に回った巴の目に飛び込んできたのは思っていた光景とは違った。
何故かちさきが紡に支えられながら立っている。

「どうしたの?具合でも…」
「大丈夫だよ。ちょっとだけエナ、乾いたみたい…」
「裏手がすぐ海だからそこまで連れて行くよ」

顔色の悪いちさきを支えながら紡が言う。
ちさき以外は平気そうだが、やはりエナが乾くのにも個人差はあるから仕方ない。

「待って…私も行くわ」
「でも…」
「仮にも本当に体調が悪いのなら帰った方がいいわ。そうなったら送っていく」
「…ありがとう、巴」

美海とさゆに一言だけ残して海の方へと向かった。

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