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村では、まなかとちさきが宴会の準備をしていた。
若い女性集は皆、料理を作っているのだが、その中に巴の姿が見えない。

「巴ちゃん、どうしたのかなぁ?」
「まだうろこ様のところにいるかも。
ちょっと私見に行ってくるね」
「じゃあ、二人で呼びに行ってあげな。ここは私らやっとくから」

近くにいたおばさんが話を聞いていたのか、ちさきたちの途中料理をやってくれるという。
お礼を言い、まなかとちさきは神社へと向かった―――が、

「巴なら儂は知らんぞ。さっき、勢いよく外へ出て行ったこと以外はな」
「えぇええ!?」

うろこ様のケロッとした言い様に、流石の二人も呆れてしまった。
しかし、外に出て行ったことは分かったので、光と要にも協力を頼みとりあえず巴を探しに行くことになった。

***

「その首元に下げているもの、見せて…」

巴は真っ直ぐに紡を見ている。
そして、彼は制服の下にあるであろうペンダントを何も言わず取り出すと、巴へと渡すように見せた。

人差し指程の大きさで、トランプのダイヤが細くなったような形。
普段は海のように青い色をしているが、光に当てると、

「…綺麗…」

夕焼けの残り僅かな光で、ペンダントは虹色に輝いている。
紛れもなく“巫女の石”であった。

「石、じいちゃんに見せたら…少し驚いた顔をしてた。
誰にも見せず黙って持ってろって、それで持ち主が現れたら返してやれって…」

だから紡はいつも、服の下にペンダントを隠していたのだ。
海村出身らしい紡のおじいさんは、この石のことを知っていたらしい。
巴はやっと納得できた気がした。

「何で、あの時と髪の色が違うんだ?」
「銀髪…覚えてくれてたんだ。ちょっと意外。
…この色にしたのは、地上であんまり目立ちたくなかったから。
海村ではうろこ様も銀髪だけど、地上に銀色の地毛の人って早々いないでしょう?」
「でも、オレはあんたの銀髪好きだ。
月の光で輝いて…凄い綺麗だった」

真面目な顔で当たり前のように言う彼はやはり紡といったところか。
「ありがとう」と少し苦笑いを浮かべた。

「じゃあ、そろそろ見れるよ。
この色になれるのは…今日の昼までだから」

徐々に辺りが暗くなっていく。日が沈み、夜へと変わっていくのだ。
そして、巴の長い髪がまるで光るかのように…銀色を取り戻していった。

流れる艶やかな白銀が紡の前に現れる。

「そろそろ帰る…。今日は村で宴会があるから」

すると巴は何故かペンダントを紡へと差し出したのだ。

「…これ、キミが持っていて。私はいらない」
「それはできない。母親から貰った大切なものなんだろ」
「先代は私に“巫女”という仕事を擦り付けるために、渡しただけよ。
自分が自由になりたくて…私という存在を無視してっ」
「じいちゃん言ってたんだ。
昔の巫女は自由とは無縁の“悲運の巫女”だった、けど…それでも村には…海には巫女が必要なんだって」
「それはおじいさんや、木原くんにとって海が大切なだけよ!
母さんと一緒だ!私のことなんて何一つ考えてない!」

「オレはずっと巴のこと考えてた!
海の近くにいれば、あんたに会えるんじゃないかって、じいちゃんのとこに越してきた。
それで会ってお礼が言いたくて、海を見て探してた。―――ずっと探してたんだ」

紡の言葉に巴はもう何も言えなかった。
暫くお互い見つめ合うと、巴は唇をギュッと結び、紡にペンダントを投げ出すと
次の瞬間には海へと駆けだしていた。


しかし巴は自分の後に、もう一度波打つ音が聞こえ
まさかと思い振り向いてみると、紡が追いかけてきていたのだ。

「どうして…っ!」

驚いて思わず更に泳ぎ進もうとするが、幼い時の光景が頭に浮かぶ。
紡はエナを持たない、これ以上彼が海にいるのは危険だ。

「待って!来ちゃダメっ!」

巴は泳いだ道を戻り、紡の元へと急ぐ。
昔と同じように彼の腕を取って上がろうとするが、自分より背が高い彼を持ち上げて行くのは難しかった。

「早くしないと…っ」

紡の腕を引っ張っていると、急に彼が軽くなった。
見るといつの間にか光がやってきており、もう一つの腕を持ち上げている。

「光っ」
「一気にいくぞ!」

彼の合図と共に、二人で上へと昇っていく。
巴よりは力のある光のおかげで、無事紡を浜辺へ上げることができた。
光は巴がいないことを心配して探して来てくれたのだ。

「紡!紡!しっかりして!」

巴が紡の名を叫ぶ。光は今まで見たことのないような彼女に驚き、少し離れた場所で様子を伺っていた。

「ごほっ……ごめん…また助けてもらった。
これで二回目だ。ありがとな…」

巴は安心したのか、涙を流してけれどそれを見せたくないのか紡の胸元に顔を寄せた。

「私…以前の美海ちゃんと一緒なの。
母さんみたいに…自分の大好きな人が、自分の前からいなくなることが…凄く…恐い。
他人と極力関わらないようにして…大切な人作らないようにした…。

けど…私、本当は寂しくて…。もっと誰かと一緒にいたくて…。
誰かがいてくれないと…悲しくて…。

紡が自分の大切な人だって、ペンダントを預けた“あの男の子”って…本当は知りたくなかった。
ずっと逃げるように知らないフリしてたの」

紡は巴の頭に優しく頭を置いた。

「紡のこと好きよ、大好きよ。
だから…うろこ様に禍つ事のことを聞いて…この先冬眠して…それが長くて…、もしも紡にこの先一生会えなかったらどうしようって…ずっと考えてた。
眠りたくない…起きていたい…あなたの傍にいたい…。

けど、母さんが私に擦り付けたからって、それでも私はどうあがいても巫女なの…
村を守らなくちゃいけない…。

…迷っちゃいけないのに……どうしたらいいか分からない…っ!!」

震えた声で叫ぶ巴。
彼女が心に溜め込んでいたものを、全て出したようだ。
すると紡は巴の頭を撫でながら言った。

「オレはずっと待ってる。前と同じように。
何も心配しなくていい。今日まで8年待ったんだ、それ以上でも、それ以下でも、オレは待っていられる自信がある」

やっと巴の顔が上がった。
涙が溢れ、瞳は海のように揺れている。

「それにアンタは優しい。シシオを見捨てられない…そんな気がするんだ。
きっとアンタの中には、オレ以外にも大切な人っているだろ?」

紡も勿論大切だ、けれどそれだけではない。彼の視線の先には光がいる。
先ほどから一言も声を出していないが、巴に見つめられ、照れ隠しからか「先帰ってる!」と言い海に飛び込んでいった。

そうだ。光だって、言葉には出さないが巴には大切な友人だ。シシオの友人たちは皆。

「だったら迷っちゃダメだ。
オレは真っ直ぐな巴が好きだ」

波の音がする。すぐ傍に海があるのだから当たり前なのだが、それが今はとても大きく聞こえた。
紡はそうして、手に持っていた巫女の石のペンダントを巴の首にかけた。
八年ぶりにかける石は、少し重く感じた。


「巴、これはお主一人の問題ではないんじゃ。
巫女として…お主は役目を果たさねばならない」

うろこ様の言っていた言葉を思い返す。

―――巫女として。

そっと見上げた彼の瞳は真っ直ぐで、思わず巴は息を呑んだ。
見上げなければ良かったと思っても、もう遅い。

「紡…」
「?」
「暫くこのまま傍にいていい?」
「…あぁ」

宴会はもういいかもしれない。
今は限りある時間を自由に過ごしたい、巴はそう思っていた。
うっすら輝く月は二人を見守るように夜空を昇っている。

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