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着物も旗も船も用意ができて、おふねひきは大詰めに差し掛かった。
陸の男たちが唄う歌も海の中まで聞こえてきて、遂にここまで来たのだと実感する。
途中、巴は何故か海の方から呼び戻しがかかってしまい、帰ることになったが
今日までにできる全ての準備は終わり、明日は遂におふねひきとなった。
舞い上がる気持ちで汐鹿生に帰って来た四人は、子供が一人眠ってしまったところに遭遇してしまった。
子供の方がエナの成長が活発で、先に眠ってしまったらしい。
その子はうろこ様から祝詞を貰ってそのまま眠るのだ。巴が呼ばれた理由もそのためだった。
そんな光景を見た後で四人が来たのは廃校になった波路中だった。
何かある度にここへ来ているので、もうお馴染みの場所だ。
「冬眠ってあんなになるのか…」
「ああやって見ると───」
「死んでるみたいだったね」
「要っ!」
「そう言いたかったんでしょ?まなか」
誰もが思ってしまったことだが、不謹慎なことを口走る要に、四人の空気も重くなる。
気まずさ故に目をさ迷わせていた光が、何かを見つけた。
「お、これ、懐かしいな…」
「え?あ、身長の…」
「そうだ、入学式の時につけたんだよね。
小学校の時もやってたから、続けていこうって」
一番下にまなかの名前があって、その少し上に他の四人の名前が近い所に書かれている。
今もそうだが、まなかが一番小さいのだ。こんなもの、すっかり忘れてしまっていたが、見つけると懐かしさが一気に込み上げてくる。
「なあ、今の身長も書こうぜ」
「!」
光の提案に三人の顔も明るくなる。
「私、書くもの探して来る!」
「よし、職員室行ってみるか」
「うん!」
まなかと要の2人でマーカーペンを探して職員室へと向かう。
光の「頼んだぞ」という声を聞きながら、光とちさきから離れていった。
廃校になった時、学校の備品はそのまま残されていた。だから音楽室に楽器もあるし、
教室の机も黒板もそのままにしてある。マーカーペンぐらい、あるはずなのだ。
「あったよ」
廊下の方から要の声が聞こえた。まなかも慌ててそちらへ戻った。
新しく書き込まれた身長は、前よりも少し高くなっている。
彼らは成長期だから何も不自然ではないが、やはりまなかは一番下だった。
その後は光たちが最後に使っていた教室で、光が担任の先生の真似をして遊び始めた。
おふねひきの準備とか、冬眠のこととか、沢山ありすぎて、こうして楽しく過ごすのは久しぶりだった。
「静かにー。はーい、ここ試験出るからねー」
独特の間延びした喋り方は、とても先生に似ていた。
クスクスとまなかとちさきが笑う。それに光も調子に乗って真似を続けた。
「ちゃーんと教科書チェックしてねー」
「ふふ、先生の真似」
「似てるー、ひぃくん!」
まなかとちさきには大好評だ。
唯一、要だけがいつも通りのポーカーフェイスを貫き通していた。
「先生、質問です」
「はーい、要くん何だにー?」
「先生 “だにー” なんて言わないよ」
「はいはーい。で、何だにー?」
あくまでもこのスタイルは崩さず光が要に尋ねる。
まなかもちさきも笑っている中、要だけは真剣な顔をして光を見つめた。
「まなかのこと、どう思ってるんですか」
緩んでいた顔が一気に引き締まる。楽しかった空気がガラッと変わってしまった。
「要!どうしてそんなこと…」
「このままで良いわけないよね」
「!」
「沢山食べたって、エナはどんどん育ってきてる。
冬眠しちゃったら皆が同時に起きられる保証は…」
「言われなくても、わかってるっての!」
冬眠することになって、何度も考えてきたことだ。
まなかも光も皆と別れるのが嫌で、考えてるつもりでも無意識にその大切な問題から目を逸らしてしまっていた。
「わかってないよ。もう会えなくなるかもしれないんだよ?」
椅子から要が立ち上がる。ここまで真剣に何かを訴える要は初めてだった。
「もう、会えない…」
「そうだよ。そもそも本当に目覚められるかだって、わからないんだ」
沈黙が流れる。ずっと逃げていた問題と向き合うのが、
こんなにも辛いことだとは思わなかった。
もう会えない…
もう会えない
もう、会えない
全員の心の中が一つになった。もう会えないかもしれない不安がどっと押し寄せてくる。
そして何かを決めた光は真っ直ぐまなかを見つめて口を開いた。
慌ててちさきがそれを止めるが、光は止まらない。
「俺は、まなかが好きだ」
「っ!ひぃくん、やだ…何冗談言って…」
「冗談じゃねえよ。…好きだ。お前が紡のことを好きでも俺は───」
ガタンと椅子が倒れる。堪えきれなくなったまなかが立ち上がったのだ。
「わからないよ……」
「まなか…」
「私っ、そういうのわからない!」
「まなか!」
まなかが走り出す。それを光が追い掛けて教室を出て行った。
「酷いよ要!あんなのってない!」
要を叱責して、ちさきも走り出す。取り残されたのは要だった。
教室を出て行った二人の足音が聞こえなくなると、要は力が抜けたように座り込んでしまった。
「こっちだって、いっぱいいっぱいなんだよ…」
苦々しく要が呟く。
彼のいつもの笑顔の裏に隠された本音だった。
***
外に出たまなかを追いかけた光を更に追いかけるちさき。
彼女もまた状況に圧された格好で光に告白しようとして転倒してしまう。
それを見て光も一瞬迷いながらも、ちさきの下へ駆け寄って来た。
少しの間だけでもまなかよりちさきを優先した、その事実が心の慰めになったのか、ちさきは戸惑う光の背を健気に押して、まなかの下へと送り出します。
「光の事…でも、光はまなかが好きだから、言い出せなかった。
フラれちゃうから怖いんじゃなくて、私が想いを口にする事で、皆の関係が変わっちゃうのが怖かった…」
「…」
「でもね、それも違った、私わかったの。
私は、まなかを一生懸命に好きな光が、好きなんだ。
だからゴメンね、言えただけで良いの。…もう満足だから、まなかの事、追いかけて」
きっと要がああして皆の関係にヒビを入れる事を恐れずに発言したのは、ちさきにこうして想いを伝えさせる為だったのかもしれない。
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