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翌日、なぜか部屋から出て来ないまなかを光が何とか説得して、巴たちは学校へと向かった。
今日は最初から五人揃っての登校だ。右足に布を巻いて出てきたまなかに、布の理由を聞いても答えてはくれず、巴もちさきも首を傾げるばかりであった。

学校ではやはりまだ馴染めていないが、それでも昨日のように光が問題を起こすこともなく比較的平和に一日を過ごすことができた。
五時間目の終了の鐘が鳴り、巴たちは席を立った。
男子は木工だったので、先に昇降口で待っていようと鞄を手に取る。
そんな中でまなかにそっと誰かが手を伸ばした。
そのまま窓の方へと引っ張られたまなかは、ジロジロとクラスの女子生徒たちから身体を見られている。

「肌ぴかぴか光ってる!」
「ラップしたコンビニ弁当みたい!」

窓から差し込む光に当てて、まなかの腕をペタペタと触る。
一見同じように見えて、実は海の人間と陸の人間で皮膚は全く違うのだ。
“エナ”という魚でいう鱗のようなものが身体中を覆っており、それのお陰で水中で生活できている。

「ちょ、ちょっと…」
「これがエナってやつ?人間じゃないんだ、やっぱり」

やりたい放題、言いたい放題のクラスメイトたちをちさきが止めようと口を開くが、控えめな性格のちさきの声は届かない。
いい加減我慢もできなくなって、更に大きな声を出そうとちさきが息を吸う。
しかし、その声が発せられる前に違う声がちさきの女子生徒たちの動きを止めた。

「私たちは人間よ」

しんと、教室中が静まり返る。
巴はちさきより前に出ると、まなかの手を取る女子生徒たちを見つめた。
その圧倒的なまでの美しい顔に視線を向けられると、女子生徒たちも思わずたじろいでしまう。

「……何やってんの?」

そんな中で聞こえてきた声に、全員の視線がそちらに向いた。
木工を終えてきたのだろう、一人の男子生徒──昨日の少年が扉の前に立っていた。
新たな人物の登場に、まなかの手を取っていた力が緩む。その隙をついて、まなかは手を振りほどいた。

その反動で近くにあった椅子の脚に膝をぶつける。痛みで歪んだまなかの顔。
それと同時に「ぎゅぷるるるる」と聞いたこともない音がまなかから発せられた。
我関せずだった人の視線も含めて、まなかに視線が集中する。
羞恥に耐えきれなかったまなかは顔を真っ赤にして教室を飛び出してしまった。

「あっま、待って、巴!まなか!」

その後を妃が何も言わずただ追い掛ける。
ちさきも二人を追い掛けたが、出遅れたのも相俟って、二人の足の速さには勝てなかった。
そんな三人の去った後を見つめる紡。
彼の頭の中には、先程の巴の言葉が繰り返されていた。

***

まなかを追い掛けて走る巴。こういう時、まなかはとても速い。
それに、まなかは恐らく何も考えていない。何も考えずに走っているので、自分がどこを走っているのかも理解していないだろう。
そろそろ巴も体力の限界だった。

「っ、まなっ…!」

遂に足が縺れて転んでしまった。
ずっと走っている間はそうでもなかったが、一度止まってしまうとどっと疲れが襲ってくる。
巴はぐっと身体に力を入れると前を見た。もうまなかの背中は見えない。
巴は息を一つ吐き出すと、再び足を動かした。

まなかが入り込んだのは学校の裏山だろうか。
不安定な道が巴の底を突きかけている体力を更に奪う。きっとちさき達も心配している。
早くまなかを見つけて帰らなければ…危険だ。もうすぐ五時の歌が鳴る。

「まなか…っ」

見つけた。倒れるまなかに駆け寄る巴。まなかのエナはかなり乾いてしまっていた。
早く海に戻らねば命も危ないかもしれない。巴はまなかの腕を取って自分の首裏に回すと、彼女を背中におぶった。

「……巴ちゃ、ん…?」
「本当に世話の焼ける子ね」
「ごめん…なさい…」

そうしてまなかはまた気を失った。しかし、急ぐ必要があるのは巴も同じだ。
巴のエナも大分乾いてきている。まなかを抱え直して一歩踏み出したその時だった。
ガサリと草を踏む音が聞こえて、巴はそちらを見上げた。
そこにいたのはまなかと巴を捕まえて、光に衝突されて、先程女子生徒を止めたその人だった。

「あ…」

目と目が合ってお互いに動きを止める。
妙に気まずくてどうしようかと巴が思っていると、彼の方が巴へと近づいてきた。思わず一歩後退る。

「…そいつ」
「え?」
「大丈夫なのか?」
「あ、ええ。海に戻れば…」
「そうか…」

納得したのかしていないのか、紡は巴の隣まで来ると、そっとまなかの腕を取った。

「運ぶ。お前も辛そうだ」
「どうも…」

巴からまなかを受け取って横抱きにすると、紡は無言で歩き出した。
教室で反射的に持ってきた鞄を持ち直し彼を追い掛ける。

「…そういえば」
「…?」
「俺も思うよ」
「え…」

「俺たちは同じ人間だって」

教室を飛び出す直前に言った巴の言葉だ。
まさかそんな言葉を掘り返されるとは思わず、巴は驚いて紡を見た。

「…ありがとう。そういえば、あなたの名前…まだ聞いてなかったわね」

ずっと言いたかった言葉だった。
漁船で誤って釣り上げられた時から。

「木原紡」

―――巴の持った鞄が地に落ちた。
見ると彼女の様子が違うことが伺えた。
大きな瞳が見開かれ、驚いたように巴を見つめている。
五時の歌が鴛大師に響いていた。

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