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海沿いの道を波止場に向かって歩く。
海は繋がっているので、どこから飛び込んでも帰れないことはないが、
一応、陸との往き来の場所はある。だからそこまでは歩くのだ。

「先生、海っ子たちって呼んでたね」
「あ、それ!ちょっと可愛かった」

そんな会話をしながら女子二人は花を咲かせていた。
そうして波止場に近くなった頃、波止場に一台の車が入って行くのが巴たちの目に入った。
しかもその車から出てきたのは五人ともよく知る人物。

「あかりさん?」
「え?」

助手席から降りて運転席の方へ回る女性は確かに光の姉、あかりその人だった。
彼女は光たちには気づいていない。
運転席の窓が開くと、あかりは周囲を確認してから、自分の唇を相手に押し付けるようにしてキスをした。

「なっ…」
「ダメ、まなかっ」

思わず声を出しそうになったまなかの口をちさきが塞ぐ。
誰も、光でさえもその光景をただ呆然と見ている。
あかりといくつか言葉を交わすと、そのまま車はUターンして去って行く。
その車が見えなくなるまで手を振って、あかりも海へと飛び込んだ。

偶然居合わせただけにしても、あかりに地上の男性の恋人がいるという事実は、五人の心を大きく掻き乱したのだった。

あかりが海に飛び込んでから、皆は暫く声を出すことができなかった。
ただ呆然としていたのだ。光にとってはやはりショックな出来事だったのだろう。
しかし、光にとって気に入らないのは、あかりに彼氏がいることよりも、その彼氏が地上の人間だということだった。

「あかりさん、そろそろ適齢期だもんね。シシオから出ていくつもりなのかな」
「はあ?どうせ地上の奴となんてうまくいかねえよ。
結婚したって、どーせ出戻ってくるだろ」
「え…」

当たり前のようにそう言う光は、何を考えてたのだろうか。
あかりのあの表情を見なかったのだろうか。
幸せそうで、愛おしそうで、本当に大切なものを見るような瞳だった。
いや、もしかしたら、光は姉が出ていってしまうなどということを信じたくないのかもしれない。
巴は光から目を逸らして、あかりが飛び込んだ方を見つめた。

「それは無理でしょ」
「無理?何でだよ?」
「無理だよ!だってあかりさん、いいお母さんになりそうだもん。出戻ったりなんてしないよ」
「そうじゃなくて…」

要とちさきが目を合わせる。
巴も海から彼らへと視線を戻し、そこでやっと口を開いた。

「あなた達…何も知らないのね」
「はぁ!?何だよ、その人を小馬鹿にするような言い方!」
「地上の人間と結ばれたなら、汐鹿生から追放されるのよ」

その一言は、光にもまなかにも多大なショックを与えた。
光は結婚してもあかりは戻ってくると、大したことではないとそう思っていた。
しかし、たとえ男性と別れたとしても汐鹿生に戻って来ることは叶わない。

「ずっと前からそういう取り決めになってるわ」

光もまなかも知らなかった。そもそも、子供たちには教えられていないのだ。
実は巴はこのことはずっと前から知っている。幼い頃痛いほど身をもって知った事実。

要もちさきも追放されることは知っていた。
それは巴と違い偶々耳にしただけであって、本来ならまだ知らないはずだった。
今まで汐鹿生から出ていったお兄さんやお姉さんは誰も戻って来ていない。
それが何よりこの話の信憑性を物語っている。

「意地悪だっ」
「まなか…」
「大切な人と家族になりたいって全然悪いことじゃないのに…
それなのに海から追い出しちゃうなんて…!」

まなかの言葉は真っ直ぐだ。受け入れ切れない理不尽を真っ向から否定していく。
そんなまなかの言葉は、光の脳裏に紡を浮かばせた。

「それって…自分も地上の男とくっつきたいって考えてるのか?」
「やっやだ!えっちなこと言うひぃくんは嫌いだよ!」
「俺だって、えっちなこと言うまなかは嫌いだっての!」
「私、言ってないよっ」
「言ってる!お前、最近気持ち悪いんだよ!」

まなかの顔が苦痛に歪む。
それは、身体的なものではなく、精神的なもので、光の言葉はグサリとまなかの心臓を刺した。
柵を越えて海へと飛び込んだまなか。
ちさきがまなかの名前を呼ぶが、彼女が止まることはなかった。

「気持ちはわかるけど、あれじゃまなか可哀想」
「わかるってなんだよ?」
「えっ」
「何だよお前、いつも大人ぶってさ!
何でも知った風で…お前に俺の何がわかるってんだよ!」

ちさきの顔が真っ赤に染まる。
そしてちさきは光に背を向けると、そのまま何も言わずに海へ飛び込んだ。

「今のはダメだね。やつ当たり。
まなかについては、さすがにイラっとくるのはわからなくもないけどさ……じゃ」

要もちさきの後を追い、海に飛び込んでいった。

「なんだよあいつら。わかってるわかってる連発しやがって」

残されたのは光と巴。
巴は一連の状況に特にどうも思っていないのか、その表情が変わることはなかった。

「……本当にあなた達って面倒」

それだけ言い残し、巴も海へと潜っていった。
***

廃校になって誰も手入れをしなくなった波中の校舎。
ぬくみゆきが教室まで積もっていた。
あの時と変わらず五人分の机と椅子が並んでいる。

「早川のおじさんいつも優しいのに何であんなにおっかなくて」
「村の掟って言ってたんでしょ?村を追放される事に何か理由があるのかも」
「んなもんどうだっていい。悪いのは全部あかりの男だ」

光はあかりの男が悪いって決め付けている様子。

「ねぇ、私にはこのこと自体どうでもいいから…帰ってもいい?」

一人手を挙げて発言のような形をとる巴。
しかし、光がそれをダメだと言い留まらせる。

「でも優しそうな人だったよ?」
「ちさき、男の趣味悪いな」

ちさきは何気なく言ったのだが、光に趣味悪いまで言われてしまった。
要も「それは言えてる」なんて言っている。

「こうなったらあの男を調べあげてやる。そんで最低な奴だったら殴ってやる!」
「結構良い奴だったら?」
「軽く殴ってやる」
「それは殴ることしか頭にない人の言い分ね」

巴がさり気なく言う。「暴力は良くないよ」とまなかが言うが光は聞いていない。

「あーもう、女はあっち行ってろ。
こっからはな男だけで作戦会議すっから」

光がしっしっと手をヒラヒラさせた。

「行ってよ。巴、まなか」
「…結局帰らせてくれないのね」

男だけで作戦会議をするというので女子達は教室を出た。

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