11 玉狛支部B
リビングのソファーに座り、皆でテレビを観ていた。
内容自体は元の世界のテレビ番組とあまり変わらないのだが、初めて見る芸能人や観光名所、知らない商品のコマーシャルが次々と映し出されて、端々に違和感を覚えてしまう。
夢の中にいるような、なんとも曖昧な感覚だ。
「夜坂、難しい顔になってるぞ」
事あるごとに違いが目について内容に集中できないでいると、キッチンからやってきた木崎さんに指摘されてしまった。表情に出ていたらしい。
ふわりと甘い香りがする。なんだろうと疑問に思うよりも早く、小南ちゃんが「あ、クッキー?」と声を上げた。
小南ちゃんの視線を辿ると、テーブルの上には、洒落たお皿に盛られた形の良いクッキーが置かれていた。木崎さんが持ってきてくれたみたいだ。
「作ったんだが、食うか?」
「え、木崎さんが作ったんですか?」
「普通に売っていてもおかしくないクオリティですよね」
宇佐美ちゃんの言葉に頷いた。お菓子が好きな小南ちゃんや陽太郎くんは既に手を伸ばしている。
宇佐美ちゃんととりまるくんにも勧められて、礼を言ってから一つつまむ。サクサクとした歯触りと、バターの風味が広がった。見た目も味も、お店に並んでいるものと遜色ない。木崎さんの趣味が料理だとは聞いていたが、お菓子まで完璧に作れるとは。
料理が苦手な俺でも練習すれば作れるようになれるだろうか。そんな事を考えながらお皿に手を伸ばしていると、テレビを観ていた小南ちゃんが「あら、准じゃない」と呟いた。
テレビには真っ赤なジャージのような服を着た青年が映っていた。『ボーダーは常に、新しい隊員・新しい職員を募集しています』とテロップが入る。ボーダー隊員募集の宣伝のようだ。
「ボーダーの隊員って、テレビの仕事もするんだな」
「隊員個人の特集が組まれることもあるけど、こういう仕事は基本的に嵐山隊が専門でやってますね」
宇佐美ちゃんは慣れた手つきでタブレットを操作し、隊員のデータベースを表示した。
『嵐山隊』の文字の下に、先程テレビに映っていた青年と、おそろいの赤い服を着た人が数人、そして一番最後にスーツの女の子の写真が並んでいる。
ボーダー隊員は戦闘員とオペレーターで部隊を編成して任務にあたるのだという。この嵐山隊は通常の任務の他に、テレビや雑誌での広報活動を専門で行なっているのだと教えてくれた。確かに、隊服も戦隊ヒーローのように華やかで、テレビや街中で注目を集めそうだ。
「小南ちゃん、この人と知り合いなの?」
「知り合いっていうか、准はあたしの従兄妹よ」
タブレット上の黒髪の青年と小南ちゃんを見比べる。意志の強そうなきりっとした目元と、特徴的なくせ毛が似ていた。
「三門は古い世代から住み続けている家が多いからな。ボーダー内には血縁関係の隊員が結構いるぞ」
「アタシも陽介と従姉弟なんですよ」
「陽介って……米屋くんと?」
木崎さんの説明に続き、宇佐美ちゃんがはーいと手を挙げた。頭の中で二人を並べてみる。言われてみれば、ふとした時の表情や目つきが似ている気がする。
「時雨さん、出水先輩とも会ったって言ってましたよね」
「言ったけど……もしかして、とりまるくんと出水くんも?」
「はい、親戚です」
「へー、そうだったんだ」
「え、そうなの!?」
そういえば、玉狛だけでも林藤姓が三人もいる。身近にも結構血縁関係の隊員がいたんだなと思っていたら、どこかぶつけたのだろう、小南ちゃんがガタッと派手な音を立てながら驚いていた。
……ここに来たばかりの俺はともかく、ずっと前からボーダーにいる小南ちゃんも知らなかったのだろうか?
なんかおかしいと感じて宇佐美ちゃんを見ると、にまにまと笑いながらやりとりを見守っている。陽太郎くんはお菓子に夢中で特に気にしていなかった。木崎さんは二人を呆れた顔で見ている。
もしかしたらと思い、半信半疑でとりまるくんに視線を移すとちょうど目が合う。とりまるくんはほんの少し驚いた顔をした後、いつも通りの無表情に戻った。小南ちゃんに見つからないよう、そっと口元に人差し指を立てたので黙っておくことにした。イケメンがやると様になるな。
「そこまでにしておけ」
二人のやりとりを見兼ねた木崎さんが口を挟む。やはり嘘だったようで、ようやく騙された事に気がついた小南ちゃんは、顔を赤くしながらぽかぽかととりまるくんを叩き始めた。
玉狛の関係性が少し分かった気がする。