12 ボーダー本部C


 今日は朝からずっと雨が降っている。
 昼を過ぎても一向に止まず、絶え間なく車の窓を叩いていた。

 再び城戸さんに呼び出された俺は、林藤さんの運転で本部に向かっていた。迅は朝から別の用事があっため、今回は林藤さんと俺の二人だけだ。

「夜坂、急に悪かったな」
「大丈夫ですよ。ところで、今日の呼び出しは一体……?」
「あー、お前に聞きたいことがあるんだとよ。あとは簡単な検査をしてもらう」
「聞きたいこと、ですか」

 呼び出される心当たりが無いので尋ねると、林藤さんは暫く間を置いてから答えた。
 聞きたいこととはなんだろう。自分の知っていることは全て話したはずだ。疑問に思うと同時に、前回の会議の重苦しい空気を思い出し、これからの事を考えて憂鬱になった。

* * *


 本部に着いたら前回と同じく会議室に通された。入室すると、先程まで何か議論していたのか、ざわついていた室内が一気に静まりかえった。

 室内を見渡し、この前ラウンジまで案内してくれた男の子を見つけた。今度こそ名前を聞けるだろうか。 
 
 城戸さんたちに軽く挨拶をしてから席に着くと、忍田さんが話を切り出した。彼の隣に座る女性がパソコンを操作し、スクリーンに女の子の写真が映し出される。スーツに身を包んだ、大人しそうな女の子だ。

「夜坂君、何点か確認したいことがある。この隊員と接触した、もしくは見覚えはあるだろうか」
「……いえ、無いです」

 写真をまじまじと見るが、街中でも本部でも見かけた覚えは無い。そう伝えるとスクリーンの写真は消えた。
 その後、ここ数日の自分の行動を答えて質問は終了した。前回と比べるとあっさり終わったので拍子抜けだ。

「以上で終了だ。協力感謝する」
「いえ……。あの、彼女は誰だったんですか?」
「規則違反により処分を受けた隊員だ」

 今まで黙っていた城戸さんが、一呼吸おいて口を開いた。

「規則違反……?」
「民間人に武器を横流し、先日から今日にかけて彼らと共に行方を晦ました。我々は近界に行ったと結論付けている」

 そこまで聞いて、なぜ俺を呼んだのか納得した。俺がこちらに来てからわずか数週間で事件が起きたのだ。おそらく、関係のありそうな俺に探りを入れたかったのだろう。

「この件を知るのは、この場にいる我々と他数名のみだ。外部で口にしないように」

* * *


 役目が終わると、鬼怒田さんにすぐさま開発室へと連れてこられた。林藤さん達はまだ会議を続けている。
 鬼怒田さんもほぼ引きずるように俺を連れてきたあと、その場にいる人達に何か説明して足早に会議室へと戻っていった。今日の本部はやけに慌ただしいようだ。

 なんの検査をするんだろう。一人残されたので出された椅子に座って大人しく待っていると、いくつかの機械とクリップボードを抱えた、体格の良い男性がやってきた。

「ここのエンジニアの寺島だよ」
「初めまして、夜坂時雨です」
「夜坂ね。それじゃ、ここ持って」

 ゲーム機のような機械を受け取ると、寺島さんは電源を入れる。ピピっという電子音のあと、画面にくるくる回る立方体と数値が表示された。何かの計測機だろうか。
 俺は見てもよく分からなかったが、寺島さんはへぇ、と声を漏らしながらクリップボードの用紙に数値を書き込んでいく。そして別の用紙を取り出すと、ペンと一緒に渡された。

「これ記入してね」
「はい」

 名前、生年月日、身長体重、病歴や持病の有無などを記入していく。何に使うのか疑問だ。
 空欄を埋め終わり寺島さんに渡すと、目を通してからまたボードに挟み込んだ。

「あとは……そう、これこれ」

 寺島さんは持ってきた機械の中からスマホのようなものを差し出した。片面にボーダーのマークが入っている。

「こっちではこれを携帯に使って。夜坂が向こうで使ってたタイプと似てるから、操作は簡単だと思う」
「え、向こうって……」
「……ああ、別のところから来たって話なら知ってるから隠さなくて大丈夫だよ。玉狛の人から聞いてる」

 寺島さんは、あの時監視カメラの解析やってたし、と付け加える。話が広まってしまったのではないかと焦ったが違うようだ。

「これから本部からの連絡はここに入る。隊員なら自由に連絡先交換していいよ。ネットも少し制限がかかるけど使えるし。どう?」
「……はい、多分大丈夫です。ありがとうございます」

 機能を教えてもらい操作してみる。言われた通り、以前使っていたスマホとあまり変わらないので、とりあえず自力で使えそうだ。
 何かあったら連絡するように、と寺島さんの連絡先を登録させてもらっていると、会議が終わったのか林藤さんがやってきた。

「おう、こっちは終わったぞ。まだ時間かかりそうか?」
「あと少し設定したら終わります……はい、夜坂。終わったよ」

 礼を言って端末を受け取ると、寺島さんは軽く手を振って見送ってくれた。

* * *


 玉狛の自室のベッドに寝転び、端末を操作して連絡先のページを開く。

 本部から戻ったあと、試しに端末をいじっているところを宇佐美ちゃんに見つかり、そのまま流れで玉狛の人たちと連絡先を交換していったのだ。陽太郎くんは自分用の端末が無かったのでとりあえず名前だけ登録した。

 一気に増えた連絡先を眺めていくが、未だ帰ってこない迅の名前だけは登録されずにいた。
 どうしたのかと心配になったが、小南ちゃんに「迅の趣味は暗躍だから大丈夫よ」と言われた。未来を見るという力を持っているのだ、きっと俺の知らない所で任務にあたっているのだろう。


 迅は、彼女が近界へ行くことは分かっていたのだろうか。昼間の写真の女の子を思い出して、そんなことを考えた。



back top