15 烏丸京介A
「……あれ?」
リビングの掃除をしていたところ、ソファーにぽつんと置かれた携帯を見つけた。
見覚えのあるそれを拾い上げ、近くを通りかかった迅に声をかける。
「ねぇ迅、この携帯ってとりまるくんの?」
「……京介のだな。今日の朝ここに寄った時に忘れたんだろ。珍しいな」
確かに、とりまるくんが忘れ物をするなんて珍しい。
そういえば、とりまるくんは今夜はバイトがあると言っていた。学校が終わったらそのままバイト先に向かうようなので、携帯を取りに玉狛に寄るのはバイト後か明日になってしまう。夜遅くに出歩くのも危ないが、明日まで携帯が無いのも不便だろう。
俺が届けに行くにしても、生憎その事をとりまるくんに知らせる手段がない。どうしたものかと相談すると、迅は少し考えてから自身のスマホを取り出した。何か未来でも見えたのだろうか。
「夜坂は学校近くの公園の場所分かる?」
「公園……ああ、この前陽太郎くんと行ったから分かるよ」
「それじゃ、放課後にそこの公園で待ち合わせするのが一番良さそうだな。京介の友達に伝言してもらえるよう、知り合いに連絡しておくよ」
迅は俺が頷いたのを確認し、メッセージを入力していった。
迅に言われた通り、学校近くの公園までやって来た。途中道に迷いそうになったが、寺島さんからもらった端末の地図機能のおかげで事なきを得た。寺島さん様様である。
少々蒸し暑いが夕暮れ時ということもあり、公園は学校が終わった子どもたちでそこそこ賑わっていた。
待ち合わせの時間まで余裕がある。早く着きすぎてしまったかなと思っていると、話し声がこちらに近づいてきた。
「時雨さん、お待たせしました」
「あ。とりまるくん、と……」
とりまるくんの隣に、同じ制服の男の子が二人。この子達が迅の言っていた、とりまるくんの友達だろう。
なんだか二人に見覚えがある気がするのだが、なかなか思い出せない。
「初めまして!オレ佐鳥賢です!」
「よ、よろしくね。夜坂時雨です」
どこかで会っただろうかと考えていたら、一人が元気よく手を挙げ、笑顔で自己紹介をしてくれた。勢いの良さに俺は思わずたじろいでしまった。
もう一人も佐鳥くんを窘めつつ、名前を教えてくれた。こちらの落ち着いた雰囲気の子は時枝充くんというようだ。テンションが高めな佐鳥くんとは正反対である。
「合流できてよかったです。嵐山さんにも伝えておきますね」
「二人ともありがとう。……嵐山さんって、小南ちゃんの従兄妹の?」
「そうっすね」
聞き覚えのある名前だったのでとりまるくんに確認する。今回、迅が連絡してくれた相手が嵐山さんだったようだ。
先日もテレビに出ていた嵐山さんを思い浮かべていると、ふと気がついた。
「佐鳥くんと時枝くんって、もしかして嵐山隊……?」
「はい、おれと佐鳥は嵐山隊所属です」
「そっか、だから二人に見覚えがあったんだ」
「お!夜坂さん、もしかして番組や雑誌チェックしてくれてるんですか?」
「うん。小南ちゃんが見てるから、時々一緒にね。すぐに思い出せなくてごめんね」
「いえいえ!これからも応援よろしくお願いします!」
嵐山という名前を聞いて、以前宇佐美ちゃんに見せてもらったデータベースの嵐山隊の写真を思い出した。
あの目立つ赤い隊服のイメージが強く、申し訳ないことに制服姿だと誰だか分からなかった。佐鳥くんは気にしていないようで、さすが広報担当とも言うべき人懐っこい笑みを浮かべ、俺の手を握ってぶんぶんと激しい握手をしている。玉狛にはいないタイプでちょっと新鮮だ。
「そうだ、携帯!ごめんね、渡すの忘れてた。バイトの時間は大丈夫?」
「ありがとうございます。ここからバイト先は近いので、まだ余裕ありますね」
とりまるくんが時間を確認しつつ答えた。
聞いたところ、やはりバイト後に玉狛に取りに行こうと考えていたようだ。そうなると帰宅時間が遅くなり家族も心配するだろう。やっぱり届けて良かった。
「無事見届けたし、おれたちも本部に行こう。もう少しで皆も着くみたいだよ」
「そうだった!とりまるまた明日!」
スマホを確認した時枝くんに促され、佐鳥くんも慌てて話を切り上げた。
公園の出口に向かう二人に手を振ると、佐鳥くんは大きく手を振り返し、時枝くんは控えめに会釈してくれた。本当に対照的な二人だ。
とりまるくんも溜まっていたメールの確認が終わりバイトに向かうというので、二人並んで公園の出口へと歩いていく。
「時雨さん、ありがとうございました」
「ん、暇だったから大丈夫だよ。佐鳥くんと時枝くんとも知り合えたしね」
「後で空いてる日にバイト先に来てください。お礼にご馳走します」
とりまるくんは五人兄弟の長男で、家族のためにバイトやボーダーの任務をこなしていること聞いた。歳下に、ましてやそんな子に奢ってもらうなんて出来ない。
「そんなに気にしなくても大丈夫だけど……それじゃあ代わりに、後で料理教えてもらってもいいかな?」
「料理、ですか?」
「大したことはしてないから奢ってもらうのも悪いし、とりまるくんが作ってくれるご飯美味しいから自分でも作れるようになりたくて」
「……分かりました。次に俺が当番の日でいいですか?」
「うん。よろしくお願いします」
「了解です」
普段表情を崩すことのないとりまるくんが、何だか微笑んだような気がした。